政界は相変わらず、麻生が滑った、反麻生も転んだという話題で明け暮れている。どうかしている。未曽有の経済危機はどうなったのか。大不況克服のため戦争に代わる公共事業を、という話はどうしたのか。世界の役に立つ新産業はもう探さなくていいのか−−。
新しい産業のタネを考えているNPO「横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹(おうかん)連合)」の井上雄一郎顧問(71)に聞いてみた。大型景気対策の具体的な投資先として何が適切だと思います? 井上は定石通り、社会保障、自然エネルギー発電、電気自動車、教育などを挙げ、こうつけ加えた。
「いずれにせよ、国民が半信半疑では効果は半減するわけで、国のベクトル(方向)をそろえることが最大の景気対策かもしれませんね」
そのベクトルがそろわない。80年前の大恐慌を乗り切る最後の切り札は戦争だった。いい悪いは別として、戦争になれば国民は団結する。莫大(ばくだい)な生産・消費・雇用が生じ、採算を度外視した技術が生まれ、景気浮揚に拍車がかかる。
国民の一体感という点で、新幹線や道路に象徴される戦後の国土開発、造船・自動車・機械などの産業振興も同じだ。自民党政権がビジョンを示し、復興と繁栄を願う国民を引っ張った。批判もあったが、社会インフラ整備の相乗効果が奇跡の高度成長に実った。
同じ自民党ながら麻生政権はこの感覚に欠ける。総額75兆円の景気対策は分かったが、規模を誇るだけで、行き先のイメージが描けていない。
今日の国民は社会保障と雇用の安定、環境の安心、教育の質向上に飢えていると思うが、それに応えるビジョンが練れていない。それ以上に首相のリーダーシップに不信がある。党内もまとめられずに国がまとめられるかという話だ。
井上は東芝のエンジニアだった。専門は計測・制御。製鉄所や発電所などの温度や圧力を測定、管理する技術だ。電気・計装事業部長から「東芝情報制御システム(現・東芝ITコントロールシステム)」社長に転じ、引退後の03年から昨年まで、ボランティアで横幹連合の事務局長を務めた。
横幹連合は、「限りなく縦に細分化されつつある科学技術に横軸」を通すため、文系、理系の42学会をつなぐ連絡組織である。そのスローガン「モノづくりからコトつくりへ」を、井上はこう解説する。
「iPod本体のハード技術は本来、日本の得意分野ですが、iTunes(コンテンツのダウンロード配信システム)と組み合わせるアイデアでAppleにやられた。器よりも機能・効果・価値。コトを生み出す力が問われています」
新しい産業のタネを考えるのは民間で、環境整備は政治の仕事だ。が、日本の科学技術政策の司令塔である「総合科学技術会議」は官主導で硬直している。事務局は内閣府にあるが、各省から出向の官僚が縄張りを譲らない。予算配分は既成秩序に縛られ、革新的投資は微少にとどまっている。
官庁縦割りの弊害を除けない指導力不足は麻生政権に限ったことではないが、この難局に登板してこれを動かせない失望は大きい。ここから見ても麻生政権は期待はずれだ。動かせる体制をつくるステップは「ポスト麻生劇場」ではない。重ねて自民党下野と、民主党による早期解散を求める。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
毎日新聞 2009年3月2日 東京朝刊











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此の上も無く大変恐縮千万とは存じ上げますが、何卒御了承の程を、宜しくお願い申し上げます。