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新教育の森:沖縄の平和教育はいま 進む風化、悩む現場

2007年08月06日 | スクラップ

 太平洋戦争末期の沖縄戦であった住民の集団自決を巡り、文部科学省の検定意見で日本軍の関与の記述が削除された教科書検定問題は、県議会を含む沖縄県内の全42議会が検定意見撤回を求める意見書を可決し、国への異議申し立ては島ぐるみになった。「語り部」たちが少なくなる中、いつか再び、沖縄の歴史が書き換えられるのではないかとの危機感が背景にある。ただ、沖縄でも戦争体験の風化は否めず、学校での平和教育に戸惑いの声も漏れる。沖縄の平和教育の実態を追った。【三森輝久】

■高校生が演劇/出前授業、頻繁に

 ◇新たな「語り部」

 「いやだ。ダメよ。絶対生きるって言ったじゃない。死にたくない。死にたくないよ」。手りゅう弾のピンを抜いた女生徒に、同級生がすがる。だが、外からは「デテコイ、ブキヲステロ」と米兵の声が近づく。「来るよ」「来るよ」「殺される」。女生徒が手りゅう弾をたたきつける--。

 全戦没者の霊を慰める「沖縄慰霊の日」の前日の6月22日、県立読谷(よみたん)高(読谷村)が隣町のかでな文化センター(嘉手納町)で実施した「6・23平和特設授業」。3年生の有志52人が創作劇「伝えたい思い」を上演した。沖縄戦で学徒動員され集団自決に追い込まれた女生徒たちを描いている。

 読谷高の特設授業は劇のほか詩の朗読、合唱、創作ダンスなどがある。出演はいずれも生徒たちの自由意思で、5月中旬から放課後に練習を続ける。少なくとも20年以上続いており「伝えたい思い」は、この間につくられた伝統劇だ。

 出演した山内香奈さん(3年)は「最初は面白半分だったけれど、練習を重ねるうちに、本当にこうして亡くなった人がいるんだと実感して力が入るようになった。戦争体験はないけれど、演じることで、自分たちも沖縄戦を伝えていけるんだと思った」と話す。

 指導した同高教諭、長浜大樹さん(33)は生徒たちが演じることで戦争を追体験し、戦場を逃げ惑った住民への共感を覚えていると感じている。「迫真の演技で、私たちも感動しますよ。最近は父母たちからも『見たい』と要望があり、今年から招待しました」。同高の平和学習は地域へと広がり始めている。

 沖縄県教委によると、慰霊の日を前に県内の全公立小、中、高校でホームルームや総合的な学習の時間を利用した平和教育が実施されている。93年には県教委が「平和教育指導の手引き」もまとめた。

 だが、取り組みには濃淡があり、生徒の自主活動を重視した読谷高のような積極派は少ない。映画を見たり、講演を聴いたりして感想を書いて終わり--といった例も多いという。



 ◇教える人材限られ

 高校歴史教科書「琉球・沖縄史」を執筆し、沖縄戦にも詳しい県立宜野湾(ぎのわん)高教諭、新城俊昭さん(56)は十数年前から各校の平和教育の授業に講師として招かれるようになった。今年も5校に出向いた。「なぜ沖縄戦が起こり、なぜ多数の住民が巻き込まれたのか。その結果、沖縄に何がもたらされたのか、教える人材が限られているから」

 平和教育の企画は、ホームルーム担当の若い教師が任される場合が多い。沖縄戦について一定の知識はあっても、生徒に教えるとなると戸惑うのが現実だという。ある県立高教諭は講演や映画鑑賞が多い理由を「日々の仕事に追われて平和教育にじっくり取り組む余裕がない」と話した。



 ◇生徒も知識不足

 生徒側の知識不足も深刻だ。新城さんが代表を務める「沖縄歴史教育研究会」が今年5~6月、県立高2年の2842人を対象に実施した選択式のアンケートでは、沖縄戦で日本軍が降伏文書に調印し、公式に終結した日(1945年9月7日)の正答率はわずか6%。47%の生徒が、守備軍司令官の自決で組織的戦闘が終結した「6月23日」を選んだ。新城さんは「沖縄戦の悲惨さだけでなく、正確な知識を伝える努力が必要だ。そうでないと集団自決を巡る教科書検定問題のように、沖縄戦の研究成果や事実が崩されかねない」と危惧(きぐ)する。



 ◇修学旅行前に学習--私立和光小

 沖縄県観光企画課によると、沖縄を訪れる修学旅行生は、97年は約21万人だったが、昨年は約44万人と10年間で倍増した。公立校でも修学旅行で飛行機が使われるようになったことに加え、平和学習を中心に、豊かな自然や文化などにも触れられることが要因に挙げられる。

 東京都世田谷区の私立和光小学校は87年から毎年秋、沖縄を訪れている。6年生が3泊4日程度で米軍基地を視察したり戦跡を訪問するほか、沖縄戦体験者の証言を聞く。

 6年生は修学旅行に先立ち、春から「沖縄」を学ぶ。総合的な学習の時間に自然や歴史だけではなく、エイサーを踊ったり、沖縄料理やシーサーを作る。それを元に実際の沖縄に触れる。旅行から戻ると6年生は学んだことを平和学習ノートにまとめ5年生に引き継ぐ。

 平野正美副校長は「沖縄を学ぶことで日本全体が見える。小さなころに命や平和の問題を学んだ体験が大きくなった時に考える力となり、そうした子どもが小さな語り部となっていく」と話す。92年に平和学習で沖縄を訪れた卒業生の清水剛さん(27)は「事前の学習があったから、証言者の話が強く印象に残った。今でも沖縄のことが気になる」と話している。【佐藤敬一】





毎日新聞 2007年8月6日 東京朝刊
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