F & F嫁の “FFree World”

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韓国国立バレエ 「 白鳥の湖 」 第 1 幕

2010年12月14日 | Ballet

F log


芸術の殿堂への道よりつづく



トップ写真は F がとある状況で撮影したソウル郊外の芸術の殿堂オペラシアター。( 詳細は次のログで )
馬蹄形のとても美しい劇場である。
決して装飾過多ではなく質実剛健さも感じる。
座席は 6 列目の正面やや上手と理想的な位置だった。

今回なんの下調べもしていなかったので、韓国国立バレエが採用するのが グリゴローヴィチ版 だとは知らなかった。
緞帳が開いて音楽と共に下手から王子が勢いよく飛び出してきてあれれ?? と思った。
F が生まれて初めて映像で見た全幕がボリショイのグリゴローヴィチ版だったにも関わらず、最近ではプティパ=イワノフ版、
またはその改訂版が主流でグリゴローヴィチ版についての記憶が薄れていた。
ジークフリードの YOUNG-JAE jUNG さん はファースト・ソリストに相当するのであろう GRAND SOLIST だ。

ユフィちゃんが同じ階級だからということはないだろうが、ここはプリンシパルにお相手してほしかった。
彼はジュッテで空中に長く留まっていられるという美点はあるものの、全体に経験不足と思われサポートのツボもまだまだと感じる。 
バレエの跳躍というのはおもしろくて、いわゆる 「 空中で止まっている 」 と 感じさせる限られたダンサーがいる。
これは技術の面もあるのだが、本人の資質によるものも大きい。
だけどバナナ脚なんだよねぇ。 アンドォールが出来ていないのだろう。 
ハンサムだけに惜しい。 今後研鑽を積んでノーブルなダンサーに育ってほしい。

ひとしきり王子が踊ると、大好きなワルツのメロディとともに群舞の男女が登場。 同時に道化と家庭教師も現れる。
以前から言っているが、道化のいる白鳥の湖が好きだ。
もし自分がプロの技量を持ったダンサーであったなら、踊りたいのは白鳥の道化だ。
道化を踊った DOSZHAN TABYLDY さん はカザフスタン出身のダンサー。 韓国国立バレエのゲストアーティストとなっている。
彼にはとても好感を持った。 運動能力は素晴らしく、なにより膝下が長く脚がキレイ。
パ・ド・トロワ後の見せ場…道化が高速フェッテして観客の目を奪う場ではいまひとつの爆発力が欲しかったが全体的には満足。
ケレン味とコミカルな味、そして上品さが上手くブレンドされた道化だった。 
F 嫁も主要男性陣の中で最高の評価だった。

ワルツ等で男女が舞う場面では、黄色いフィルターがかかった照明が当てられていた。
本家ボリショイもそうだが、やや黄色が強すぎたか。 
端でフィルターからはみ出たダンサーの色味が変わってしまうのはいただけない。 
舞台背景もボリショイに倣ったもので、場面で変わる中央の幕とともに暗い色合いが支配する。
湖の場ではどうしても照明が落ち気味になるので、この第 1 幕はもう少し明るくして欲しかったところ。

群舞は背も高く化粧品のポスターにでも抜擢されそうな美人揃い。
しかし容姿はとても重要だが、それだけでは成り立たないのがバレエという芸術。
なにかが抜け落ちているような単調な振付け。 上手く指摘できないのがもどかしい… 
帰宅してからボリショイ版を見直したが、確証はないけれどコール・ド・バレエの振付けに回転が足りなかったような。 

グリゴローヴィチ版には「乾杯の踊り」がある。 その冒頭、ジークフリードを先頭に男性陣が勇壮に舞う。
ここはピタリと揃った男性の群舞が見せ場なのだが、女性の均一さに比べて男性の体躯はけっこうバラバラ。
しかしここはまずまずの踊りだった。
途中から女性の群舞も加わり曲は途中で小休止しつつ、再び冒頭の盛り上がりに回帰する。
ここで上手から道化が素早いピルエットで飛ぶように下手へと移動する。
う~ん、やはり道化の彼はイイ。 
それにしてもここの音楽と振りはカッコイイなぁ。




マイム好きの F としては、マイムをほとんど廃したグリゴローヴィチ版は寂しく感じる。
第 1 幕では王妃の存在が非常に希薄だ。
版によってはマザコン気味にまで描かれる王妃と王子の関係。
でなくても王不在の国を支配する絶対の存在である女帝に、抗うことの出来ない王子が描かれることが多い。
グリゴローヴィチ版では王妃から長剣を授かるものの、狩猟用のボウガンではない。
誕生日の舞踏会でお妃を決めろと強要され、憂さ晴らしに友人らと湖へ狩りに…ではないのだ。

華やかな乾杯の踊りの後、集っていてた人々は消えていないくなる。
同時に中央に白鳥を暗示する垂れ幕が降りてくる。
これは王子の心象風景なのだろうか。
オーボエが冒頭の白鳥のモチーフを奏でる中、ジークフリードはひとり舞う。
同じ旋律をホルンが朗々と鳴らした瞬間、悪魔ロットバルトが突如として現れる。

王子は城にいるはずで、プティパ・イワノフ版では湖に赴いて初めて遭遇するロットバルトが向こうからやって来るのである。
まぁ相手は悪魔なので何でもありには違いないが、これはジークフリードの心の中とも思えるのである。
ロットバルトを踊るのはソリストである SOO-HEE LEE さん
二人羽織のようにジークフリードを後ろから操る。




グリゴローヴィチ版のロットバルトはほとんど黒一色の衣装である。
舞台はただでさえ暗いのにそこに黒い衣装ということは、よほどの存在感がないと埋没してしまう危険がある。
ましてや王子の衣装は白である。 

SOO-HEE さんには悪いが F のグリゴローヴィチ版ロットバルトのデフォは、往年のボリショイの名ダンサーである
アレクサンドル・ヴェトロフ ( 現 Metropolitan Classical Ballet 芸術監督 ) なのである。
圧倒的な悪の存在感、視線で殺せる眼力。 高い跳躍と豊かな音楽性を感じさせる踊りと理想のロットバルトなのだ。
SOO-HEE さんは背も高くスラっとしたダンサーだが、若さもあり悪としてのアクが弱い。 
それはメイクの濃い薄いの問題ではないのだ。

ホルンが鳴り終えた後、弦楽器が切ない主題を奏でる。
王子とロットバルトはシンクロするようにアチチュードターン~アラベスク~アチチュードターンと繰り返してジャンプするのだが
上手から下手へ、下手から上手へと繰り返されるこの踊りは音楽も含め大好きなところ。
ロットバルトは背後にいる以上、ジークフリード以上の動きをしないと重なってしまう。 
もう少しだ、ロットバルト。

ジークフリードを翻弄したロットバルトが消えると紗幕の奥に白鳥たちの羽ばたきが浮き上がる。
そうなのだ、舞台はいつの間にか湖になっているのだ。
次元を超えて王子が移動したのか、そもそもこの風景すべてが頭の中での出来事なのか判別できない。
それでも白鳥は羽ばたき続け周囲へと広がる。





そして弦のトレモロの中、上手からユフィちゃんがパ・ド・ブレで静々と現れた。




キタ━━━━━━\(^◇^)/━━━━━━!!!




ゾクゾクと鳥肌が立った。
関係各所にお世話になり、仕事関連にはご迷惑をかけ、遥々厳冬のソウルまでやって来たかいがあったというもの。
ひとりのバレリーナが初めて踊る役、それもオデット/オディールという大切なレパートリーを観ることができた。( 厳密に言えば 2 日目だが )
オジさん感涙にむせぶ。
となりのオ…もとい F 嫁もググッと身体に力が入ったのがわかった。

我々がユフィちゃんに持つ印象の一部として、たおやか、気品、優雅、など静のイメージが挙げられる。
オデット/オディールとふたつの性格を踊り分けなければならない白鳥の湖の主役。
どちらかと言えば、善である白鳥のオデットはハマる役だと思っていた。
酷暑の 8 月に観て以来 のユフィちゃん。



ユフィちゃんのオデットは予想通り可憐。 
いやもう何度も使い古した言葉だが可憐なものは可憐。
以前より痩せたように見える上、漂うような儚さがオデットの悲劇を静かに訴える。
百万回でも書くが、ユフィちゃんのアームスは本当に絶品 なのだ。

腕から指先までは、突き詰めれば関節で繋がれた長短の直線である。
ところがユフィちゃんのポール・ド・ブラは、全体が 1 本の鞭のようにしなるのだ。
そして美しい残像を描く。 美しいだけではなくその残像は長い。
振付けが白鳥の羽ばたきを模しているとすれば、まさに理想の翼だろう。
6 列目にも関わらず無遠慮にも双眼鏡で覗くと手首から先が特に柔らかいのが分かる。
こればかりは言葉で説明するのは難しい。
日本で彼女の舞台を観る機会は少ないが、機会があればぜひご覧頂きたい。

グラン・アダージョはふたりのダンサーの共同作業であるということをあらためて確認させられた。
ユフィちゃんはよかったのだ。
支えるジークフリードのサポートが物足りなかった。
正直な話、これはもっと上手い男性と踊らせてあげたかったと思ってしまった。
最後の支えられてゆっくり回るピルエット。
バレエ用語で何というかわからないので、「 ブルブル 」 と呼んでいるポワントを細かく震わすテクニックがある。
当然、双眼鏡でポワントを凝視していた F は驚いた。
細かくどころか 1/10 ほどのゆったりしたスピードでポワントが動いていたからだ。
一瞬、足首を痛めたのでは‥と胃がギュッと痛くなった。
ところが次の回転では短い時間の中で、ゆっくりから細かく速い動きに切り替わった。
なるほどアレンジを加えていたのだった。
そして最後の 1 周では吉田都さんもかくや‥というくらい細かく速い動きになった。
いや~見事だ。




大きな白鳥の後に踊るオデットのヴァリエーション。


     ( GIF by DANCE FACTORY )

ここではほんの少しだけ注文が…
GIF が理想ではないが、ポワントで立つときにもう少し伸びて欲しかった。
音楽が遅めだったこともあるだろうが、もっとパーン ( 擬音で誤魔化すな!! ) と強い表現だといいと思った。
オデットは弱々しい姫君ではないはず。
悲しみの中にも凛とした力強さが必要だと思うのだ。
そして肩関節稼働域の限界に挑戦するような翼の羽ばたき。
肩から背中の柔らかさがとっても求められるたいへんなヴァリエーションだ。
まぁヴィシニョーワ先生もヴァリエーションレッスンの DVD で 「 ここは難しいから‥ 」 ようなこと言うてたで。

その後、小さな白鳥、大きな白鳥を露払いに、再びセンターに現れるオデット。
アントルシャから素早い左右のパッセを繰り返す。
鋭い脚の動きに対し、腕はあくまで柔らかく羽ばたかなければならない。
そしてフィナーレ直前の素晴らしいシェネ。
これは本当に美しかったし見事だった。
ここは音楽も盛り上がるからねぇ。
すでに会場がソウルということも忘れている。
バレエという言葉のない芸術は本当に素晴らしいものだ。
それに熱中できる自分は幸せだと思うし、自身も好きとはいえつきあってくれる F 嫁に感謝。




ロットバルトが再び登場し、オデットとジークフリードの逢瀬を引き裂く。
ロットバルトの腕の動きと同時に人間だったオデットは白鳥へと引き戻される。
いままでジークフリードに向けていた表情は一瞬にして消え、細かなパ・ド・ブレとともに上手に消えてゆく。
この時のユフィちゃん、やはり腕の動きは絶品である。
ジークフリードは思わず 2 本の指を高々と挙げ、愛を誓うマイムをして 1 幕は終了した。



初めて観たユフィちゃんが踊るオデット。
それはもう夢見心地の中で 1 幕は終わってしまった。
我々‥少なくとも F が望むオデット像にかなり合致しており、予想通りではあるが嬉しい。
とはいえこれで完璧かと言われればまだ課題は多いと思う。
踊った本人はいちばんよく分かっているのではないだろうか。
これからコヴェント・ガーデンでも、また海外のゲストでもオデットを踊る機会に恵まれるだろう。
今回の 2 公演は 「 白鳥の湖 」 全幕を踊ったという実績になるから。
その中でさらに研鑽を積んで、自身の理想のオデットを目指してほしい。






驚きの第 2 幕へとつづく










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