F log
この log を書くまでには紆余曲折ありました。
まずテレビの番組で街頭の人々にインタビューするのを見たのです。
「 芸人さんのギャグで印象に残っているのは何ですか? 」
お笑いに特段詳しいわけではないので、そのときは某女性体操選手の名前wくらいしか思いつきませんでした。
あとでよくよく考えてみるとあったのです。大好きだったギャグが。
往年の漫才トリオ、レツゴー三匹 ( レッツゴーではない ) が舞台に登場すると同時にかます、
「 じゅんで~す!」 「 長作で~す!」 「 三波春夫でございます! ( 正児が左右から同時にどつかれてメガネがズレる ) 」
出と同時にこの三段オチが来るのがわかっていながら笑ってしまうという稀有な芸です。
そうなると映像が見たくなるもので、YouTube を徘徊してレツゴー三匹の動画を探しました。
そこで関連動画から見つけたのが、本家である三波春夫先生の 「 元禄名槍譜 俵星玄蕃 」 です。
いや~久しぶりに聴いて引き込まれました。
久しぶりというのは約 30 年前に 92 歳で大往生した F の祖母が、三波春夫の大ファンであり
幼少の頃からレコードやテレビで散々刷り込まれたからです。
何十年ぶりに俵星玄蕃の名調子を聴きましたが、台詞一つ一つ覚えているのに笑いました。
レツゴー三匹を置き去りに他の曲も次々と見ましたが、まぁ知ってること憶えていること…
「 大利根無情 」 「 船方さん 」 「 チャンチキおけさ 」 「 一本刀土俵入り 」 … etc
名曲揃いですがそのほとんどを歌えるのです。
子供の頃の刷り込みは凄いなぁ。
F 母によれば三波春夫は発声と発音が良いので子供の耳にも正確に記憶されたのでは‥ということです。
現在でこそクラシックやら西洋音楽にかぶれておりますが、音楽としての出発点はドがつく日本人であったのです。
その中でも最初に触れた 「 元禄名槍譜 俵星玄蕃 」 は圧巻ですね。
三波春夫先生が独自に創りだした 長編歌謡浪曲 というジャンル。
歌と語り、浪曲が混じり合い、とてつもないエンターテイメントを構築しています。
この曲でいえば 8 ~ 9 分もありますが、一瞬足りともダレることがありません。
これぞ日本の芸、三波春夫先生ならではの至芸といえるでしょう。
このブログに足を運んでくださった皆さんにもぜひお聴きいただきたいと思います。
ただ初めての方には少々説明が必要とも思います。
当代きっての槍の名人とされた 俵星玄蕃 ( たわらぼしげんば ) は架空の人物です。
主君の仇として吉良上野介を狙う赤穂浪士のひとり、杉野十平次 は吉良邸近くで偵察のため蕎麦屋の屋台を引いていました。
赤穂の志士に深く同情を寄せていた玄蕃は、蕎麦屋の主人が浪士であると睨みますが杉野はとぼけて認めません。
その事とは関係なく玄蕃は槍の極意を教え、杉野はそれを体得しようとするのです。
玄蕃も聞かぬが花、杉野も言わぬが花、でお互いの信頼とともに師弟関係が芽生えます。
…どうみても説明が長過ぎですね。
もっと “ サクサク ” と進めなければなりません。
もう結構???
“ いやいやいやいや ”
あと 8 分半お時間をください!!
本来なら歌に入る前に上記のあらすじが語られるのですが、ニコ動のバージョンにはありません。
雲霞の如く溢れるコメントが盛り上がりを示しています。
流れるコメントは右下の(…)で消すことができますが、前半字幕が出ますので最初はぜひコメント表示のままお楽しみください。
元禄名槍譜 俵星玄蕃
歌唱 1 番 0:24~
歌唱 2 番 1:14~
浪曲 2:06~
講談 3:55~
浪曲 4:58~
歌唱 3 番 7:21~
という構成です。
もうね、見事としか申せません。
歌謡曲でありながらミュージカルでありオペラでありラップでもあり、ザッツ・エンターテイメントとはこのことでしょう。
三波先生の美声、洗練された所作、ここぞという箇所でたたみ掛ける迫力。
F 嫁も初めて見て聴いてすっかり虜になっとります。
特に盛り上がるのは3ヶ所ですね。
まず講談の最後、玄蕃が陣太鼓を聞き押っ取り刀 ( 槍だけど ) で松坂町に駆け出すシーンです。
天は幽暗 地は凱々たる 白雪を蹴立てて の後ででたっぷりと間を取ってから、
行く手は松坂町ぉぉぉ~!!
とくれば、ウォ~と拍手せざるを得ません。
もうひとつは俵星玄蕃いちばんの名場面といってもよい、杉野と玄蕃の邂逅です。
かかる折しも一人の浪士が
雪を蹴立ててサク、サク、サク、サク、サク、サク
「先生ッ」
「おうッ、蕎麦屋かぁ」
文字にしてしまえばこれだけなんですが、最初の 「 サァァァクッ! 」 の迫力。
そして次からクレッシェンドしてゆく 「 サク、サク、サク、サク、サク 」
その頂点で杉野は 「 先生ッ 」 と呼びかけ、玄蕃も万感の思いで 「 おうッ、蕎麦屋かぁ 」 と応えます。
いや~ここはカッコイイ。
ニコ動のコメントも弾幕状態です。
F 嫁はしばらく 「 サクサク 」 言ってましたよ(笑
そして浪曲の最後、上杉方増援の到着を阻止しようと両国橋のたもとに俵星玄蕃が立ち塞がります。
橋のたもとで石突き突いて、槍の玄蕃は仁王立ち…
ここはニコ動のコメントでも多発するとおり、「 いよっ 日本一 !! 」 以外の掛け声があろうはずもありません。
楽曲の最後では本懐を遂げた浪士たちに玄蕃が涙を流す場面で終わります。
いや~どうでしょう。
初めてお聴きになった、ご覧になった方、とくにお若い方の感想をお聞きしたいものです。
三波春夫 ~元禄名槍譜 俵星玄蕃~
こちらは YouTube から。
歌の前に前説があるフルバージョンです。
大編成のバックバンド‥というよりオーケストラに近い伴奏が豪華です。
よりアップで捉えたカメラアングルなどこちらも見るべき点が多いのですが、
「 蕎麦屋かぁ 」 のニュアンスは前出の方が好きなんです。
あともう一つ、「 逢うて別れる運命とか 」 でインテンポになる部分のベースの入りは絶対に前の方がイイです。
またまた重箱の隅ではありますが。
北村桃児 : 詞 とテロップが出ますが、この長大な詞を書いた北村桃児とは三波春夫先生のペンネームです。
「 命惜しむな名をこそ惜しめ 」
後世に残すべき日本の宝だと思います。
ゆめゆめ著作権所有者は削除して回ることのないようにお願いしたいと思います。
受信料払わんぞ。
それにしてもいま祖母が生きていたら、タブレット端末で思う存分三波春夫を見せてやれるのに。
「 いい男だねぇ 」
と喜んでくれたと思います。
P.S.うちのお犬様、昨日天国に行きました。
亡くなった父が思いだされます。
わかりやすい古い日本に乾杯&完敗です。
遅くなりましたが愛犬のご冥福をお祈りします。
毛布をかぶってソファーに寝転ぶ写真を思い出します。
プーキーちゃんが天国で幸せに暮らしますように。
やはり三波春夫御大は我々の音楽的ルーツなのだな。
他にもYouTubeで関連動画を探してみてください。
大利根無情の「止めて下さるな妙心殿。落ちぶれ果てても平手は武士じゃ」
も妙に心に残っているんだよねぇ。
>歌舞伎役者みたいに「キッ」と目線を決める
その目線の先に槍の切っ先が見えるといいます。
確かにその通りですね。
ご無沙汰しております。
お変わりございませんでしょうか。
御父上もお好きだったとのこと。
やはりある年齢以上の日本人にとって琴線に触れるものがあるのでしょう。
現在の外国語とミックスされたような楽曲とは一線を画すものですね。
長く残しておきたい遺産だと思います。