国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

華北平原の水不足が引き起こす周辺国との水争い

2006年11月20日 | 中国
●中国に川を盗まれるのではないかと怯えて暮らす数百万人
Jeremy Page, Guwahati, Assam The Times:November 20, 2006

中国とインドの水資源輸送計画


 父のように、祖父のように、アブル・フセインは真夜中に起きる。そして広大なブラマプトラ川の、油っぽい中ほど迄ボートをこいでいく。彼は夜明けまで網を打つ。獲れるのは僅かなナマズ、ウナギ、マス。これをインド北東部アッサム州の州都ゴワティの市場に持って行く。彼の生業は、いつだって不安定だった。良い日ですら、彼の稼ぎは自分と5人の息子達を食べさせるので精一杯だ。だが今、彼は日に日に減って行く収獲よりも、遥かに深刻な悩みを抱えている。自分と南アジアにいる数百万人を生きながらえさせているこの川が、完全になくなってしまう、という恐怖だ。ブラマプトラ川はチベットのヤルツァンボから始まり、インド北部やバングラデシュを通り、ベンガル湾に注ぎ込む。そのブラマプトラ川に、中国はダムを作ろうと考えている。経済発展と社会安定を危うく出来ぬ、とばかり、中国は北部での水不足を緩和させようと、流れの殆どを黄河に回そうという構想だ。

 しかし、下流にいる者達は、このプロジェクトの所為で経済的、環境的大惨事がもたらされるのではないか、と恐れている。ブラマプトラ川の水を利用した、インド独自の計画だって邪魔される。「川は、私達の命の源。それなくしては、生きていけない。私達は新しい仕事を見つけなければならない。新しい生活を。」とフセインさんが言った。

 中国当局はこの計画の採用を否定。多くの専門家達はこれを幻想だと却下。だがインド当局は納得していない。中国の超巨大水事業嗜好と、例の理解不能な政治制度を心配している。彼等はこの問題を、胡錦涛主席との協議の中で取り上げるつもりだ。主席は今日、1996年以来初の中国首脳のインド訪問で、デリーに到着する。

 この問題は、インドと中国の間で続いている軋轢を描き出している。両国は1962年に国境を巡って戦った。そして現在、世界的大国のステータスを巡って競っている。インドは長い間、中国がパキスタンに兵器や核技術を売りつけている事に、苛立ってきた。緊張関係が表面化したのは、先週の事だ。Sun Yuxi駐インド中国大使が、インド北東部のアルナーチャル州は中国のものだ、と中国政府の主張を再び断言したのだ。中国がアルチャーナルを侵略するだろうと考える者は殆どいない。だが、いつの日か、中国がブラマプトラ川の水の権利を主張する日が来るのではないか?その懸念は本物だ。

中国は先日、250億ドルを投じた三峡ダムを完成させた。これは世界最大の治水事業だった。そして、また別のダムの工事が始まっている。これは干乾びた北部へ巨大運河を通じて、揚子江から水を引く。現在中国は「大西部水路迂回計画」を議論中だ。これは、インドに入る前に、世界で最も深い峡谷を通ってUターンする場所で、ブラマプトラ川から水を引く。

この計画は、73才のGuo Kai氏によって支持されている。彼は水の専門家で、15名の引退した将軍や中国首脳陣から支持を得ている、と主張する。彼はダム、運河、トンネル、そして水道橋の建設を提案している。ブラマプトラ川やその他5つの川から、毎年2,000億立方mの水を黄河へ流し込む為だ。「中国全域の渇きを癒せる。この水供給は1,000年はもつ。」とGuo氏は言った。


下流でのその結果は、全く正反対のものとなるだろう、とインドの専門家達は言う。Guo氏の計画は、インド北東部とバングラデシュに住む1億8,500万人にとって大惨事になるだろう、と彼等は語る。例えばアッサム州では、人口の80%が農業に関わっており、灌漑はブラマプトラ川に頼っているのだ。また、同州は電力の60%を、この川とその支流の水力発電から得ている。「我々は中国の計画には断固として反対する。我々の水が他の国に取られるなど許さない。」と政府報道官のRipun Boraが言った。

インドの専門家達は、この地域で定期的に発生する地震が、中国が計画しているダムを破壊するかもしれない、とも恐れている。地震の規模はM8.0に達する事もあるのだ。そしてそれにより、下流では大変な洪水の被害を受けるだろう。

更に、その影響が及ぶのは、直ぐ下流にある地域に留まらない。
中国の計画は、南部と西部の水不足解消の為の、インド独自の大導水計画を邪魔するだろう。

何十年もの間、インドはブラマプトラ川、ガンジス川、その他の川を、干ばつに苦しむ地域へ水を届ける運河ネットワークを通じて繋げる計画を練ってきた。

1,200億ドルをかけた『河川連結計画』は、棚上げになっていたようだった。が、カラム大統領は昨年、これを復活するよう求めた。「絶える事のない洪水と干ばつのサイクルから、この国を解き放つ望みがあると感じる」と彼は言った。

世界銀行は、政府にこのプロジェクトを真剣に検討する事を勧めてきた。だがインドの水専門家達は、これを無駄ばかりの見掛け倒し計画だ、と却下してきた。ちょうど、中国の専門家の一部が、Guo氏の計画を攻撃してきたように。


一方、フセインさんは、息子達に漁の仕方を教えている。ちょうど、彼の父親がそうしてくれたように。しかし彼は、こう首をひねってもいる。子供達は別の商売を学ぶべきなのだろうか?
http://blog.goo.ne.jp/kitaryunosuke/e/5a5a7b5562fc37401a43e170cf3452f6






●地域格差の大きい中国の水事情
 水の供給源となる年間降雨量については、地域によって極端な格差がある。この降雨量の格差は、概括的にいって、南北間及び海岸・内陸間の二つの軸に沿ったものとなっている。


中国北部の水不足
--枯渇する黄河--
 中国には、年間降雨量、平均気温がそれぞれ2000mm、20度を超える稲作地帯から、100mm台、10度以下の不毛の砂漠地帯まで広がっている。
 特に、北部の地域は、降雨量も少なく、気温も低い。このような農業の生産性向上が困難な地域の経済開発をどのように導いていくかは、困難な課題であり、多くの努力が重ねられてきている。

 建国直後において、毛沢東の号令のもと、北京市、天津市、河北省に流れる海河等に数多くの農業用ダムを建設し、灌漑、ニ毛作化による食糧増産に成功した。
 しかし、上中流部での取水は、下流の水量を減らし、地下水位の低下、さらには地盤沈下、海水の逆流等の弊害をもたらした。これは、北京市・天津市間等の水争いを起こしている。

 現在、海河での経験と同じことが、黄河において一層大規模に起こっている。
 黄河治水計画は1955年の人民代表会議で議決され、数多くのダムの建設が順次なされてきた。これにより、食料増産に成功している。

 しかし、既に1972年から黄河の水流が渤海まで達しない「断流」現象が生じており、地下水位の低下とあいまって、その状況は年々厳しくなってきている。当初'70年代の発生日数は最大でも20日前後だったが、次第に増え'97年には220日を超えているという。
 既に、幾多の河川間導水路の整備もなされてきているが、状況の根本的な改善はなされていない。

 
 
 このような状況に対して、現在では、「南水北調計画」として長江の水を黄河に導く計画が提示され、実施されようとしている。このような考えは、既に毛沢東の発言にあり、検討されてきていたが、その困難性から着手されていない。
 しかし、「国民経済と社会発展に関する第10次五ヵ年計画」(2001-2005)では、「水資源の不足はわが国の経済と社会発展をきびしく制約する要因である。」との認識から、「中国南部の水を北部へ引いてくるなどの重要プロジェクトの企画と建設を急ぐ。」としている(2001年5月17日人民日報掲載の要綱による)。
 この南水北調計画には、3つの系統がある。このうち西線については、トンネル掘削等の困難がある。中線については、途中に湖沼等なく水量調整が困難であるとともに、長江自体の流量に与える影響が大きい。東線については、ポンプアップが必要であるとともに水質が芳しくない。このようにそれぞれに問題が山積している。
 さらに、この計画の実施には膨大な経費を必要とすることはもとより、このような長距離の導水で地下への浸透、空中への蒸散を十分に防止できる水路とするためには技術的課題も大きい。また、乾燥地帯への新たな導水は土壌の一層の塩化を促す可能性も高い。一方、長江の水量の減少は、河口での海水の逆流も招きかねない。他方、水の融通には地域的利害があり、これを十分に調整できるかといった基本的な問題もある。

 他方、遼寧省南部の水不足解消については、北水南調計画・東水西調計画が準備されている。

 以上のように、事業推進自体の可否の問題が存在するとともに、北部の水不足に対して早急かつ適切な手段が講じられない場合には、中国の今後の発展にとって、最も厳しい課題として現れてくる可能性が高い。最悪のシナリオではメソポタミア文明の衰亡に類似した状況の可能性も否定できない。
http://www.nihonkaigaku.org/ham/eacoex/200prob/210envi/211watr/water/watercn.html





●中国華北の水需給
--予想される穀物輸入の拡大--
 中国華北の水不足は、中国の今後の経済の大きな隘路となり得る問題である。
 しかし、自ら、統計データを組み立ててその将来を見通すほどには、華北地域に関する情報を持ち合わせてはいない。
 ただ、この課題については、Earth Policy Instituteを設立したLester R. Brown氏 の造詣が深く、Web Site でも多くの記事が掲載されている。
 また、この課題に関連したWeb Site上の情報の多くは、Brown氏の発言を引用しているものであるが、これらを総合すれば、世界の認識が概ね理解できる。


地表水の割合の極端に低い北京・河北省を中心とする黄河下流域・遼寧省南部は、大量の地下水汲み上げに依存していると思われる。


供給
 中国華北での水の供給については、黄河の断流(流れが河口まで届かない現象)が年々厳しくなっている。これは、農業生産増強のために行ってきた上流域での灌漑が大きく影響している。また、耕地拡大のための森林の開拓利用も保水力を低下させ流量を不安定なものとしている。
 この結果、下流域では、地下水を汲み上げて利用している。しかし、地下水位は年々深くなっており、浅い井戸の廃止とさらに深い井戸の新設が続いている。
 北京の地質環境モニタリング協会(GEMI: Geological Environmental Monitoring Institute)の調査では、既に再生されない化石水の利用に至っており、極めて危機的な状況にあると指摘されている。
 これに対して、水の供給を拡大するため、耕地を再び林地に戻す「退耕還林」事業が展開されている。
 さらに、第10次5ヵ年計画での西部大開発事業の一環として揚子江の水を華北に送る「南水北調」事業が着手されている。ただし、この事業については、揚子江流域の環境にどのような影響を与えるか未知数のところがあり、アラル海の二の舞になるとの懸念も指摘されている。
 なお、以上のような量的な課題と同時に、水質汚染も大きな問題となっている。

需要
 現在の水需要の太宗は農業用水であるが、生活用水、工業用水の利用が急拡大している。今後約10年で中国全土では、生活用水、工業用水それぞれ約60%伸るとされているが、これは1,100億m3/年の増加である。南水北調による新たな水の供給は、西線、中線で455億m3/年とされており、実質的にはそのほとんどが生活用水、工業用水として利用される可能性がある。(この部分の内容は、前段と整合性がないので、再検討する必要がある(Oct.22,2004.)。)
  農業利用については、収穫量の千倍の用水が必要とされ、水への対価を支払う余力はほとんどない。実際に、灌漑用水価格の引き上げによって、広範な農地が天水耕作に戻っている。このことからも、都市用水、工業用水との競合の中で、農業用水としての利用はほとんど期待できないであろう。今後の灌漑用水については、地下水取得の一層の困難化もあり、減少していくものとみられている。
 なお、既に、首都北京の移転の検討さえ話題となっており、事態の推移によっては、かつての古代文明の崩壊に匹敵することが生じる可能性も否定できない状況にある。
http://www.nihonkaigaku.org/ham/eacoex/200prob/210envi/211watr/water/wtrcn.html




【私のコメント】
 中国では、首都北京を含む黄河下流域の水不足が深刻な問題となっている。現在は地下水汲み上げで凌いでいるが、地下水位の低下や地盤沈下によりそれが持続不可能である事は自明である。解決策として揚子江の水を華北に送る「南水北調」事業が計画されているが、揚子江下流域の水量減少が上海周辺の工業地域に悪影響を与える可能性もある。

 今回のタイムズ紙の記事は、ブラマプトラ川の上流の水資源を中国が狙っているというものである。ただ、内容には首を傾げざるを得ない。ブラマプトラ川の中流域は世界で最も降水量の多いチェラプンジを有しており、仮に中国が上流にダムを建設しても下流が渇水で困ることは考え難い。春の乾期にブラマプトラ川に流れる雪解け水が減る懸念、河川での漁獲の減少程度だろう。更に、この計画は揚子江上流と黄河上流を結ぶ「南水北調」の西線の延長と考えられるが、この「西線」は難工事と利用水量の少なさから実現の可能性が低いとされているものであり、近い将来にインドの懸念が現実化することはまずあり得ないだろう。タイムズ紙の記事は、国際金融資本の得意技の分割統治のために中国とインドの対立を煽るという目的で書かれたプロパガンダの色が濃いと思われる。

 ただし、二十~三十年後には中国が「南水北調」の西線の延長としてブラマプトラ川上流にダムを建設する可能性は否定できない。その時、金沙江(揚子江上流)だけでなく、瀾滄江(メコン河上流)と怒江(サルウィン川上流)にも巨大ダムが建設される事になるだろう。このことはメコン川下流のラオス・カンボジア・ベトナム・タイ、サルウィン川下流のミャンマー、ブラマプトラ川下流のインド・バングラデシュにダムの決壊による大洪水という大きな脅威を与えることになる。タイムズ紙の記事では現場が大地震帯であることが指摘されており、杜撰な工事と地震の衝撃で決壊が起きる危険は十分ある。しかし、もっと危険な事を忘れてはならない。

 1938年6月、徐州を追われた蒋介石軍は、河南省の花園口付近で黄河の堤防を爆破し、日本軍の追撃をかわそうとした。 だが、決壊した部分からあふれ出た水は、奔流となってまたたくまに河南平野全域をのみこみ、 90万人の溺死者を出す惨事となった一方、日本軍は被害を逃れた。この黄河決壊事件の教訓は、中国は自国民90万人の命を犠牲にしても戦闘で勝利するために河を決壊させるということである。そして、ブラマプトラ川・怒江(サルウィン川上流)・瀾滄江(メコン河上流)の流域で中国領内に巨大ダムが建設された場合、その川下に住む億単位の人々のうち中国人はごく僅かで、その多くが漢民族ではなくチベット系・タイ系・ビルマ系等の少数民族であることも重要であろう。簡単に言えば、将来中国はインドやバングラデシュ、東南アジア諸国との対立が激化したときにこのダムを人為的に決壊させて溺死させるという脅迫を行う可能性があり得るのだ。そして、その脅迫の実行は核戦争を引き起こし、日本を巻き添えにして破滅させる危険性もあり得るだろう。日本・中国・インドが共倒れになった場合に一人栄えるのは欧米の国際金融資本であり、国際金融資本が故意に中印間の戦争を誘発する可能性は考えておく必要がある。

 その他、中国にはロシアやモンゴル北部から取水して華北に送水する計画もある。ただ、この計画が実行される場合には中国は自国の生命線である水資源を確保するためにロシアやモンゴル北部を実効支配する事を必ず狙ってくるだろう。それは中国とロシアの間の核戦争に繋がりかねず、やはり巻き添えで日本が破滅する危険がある。

 日本が破滅しないためには、このような中国と周辺諸国の水資源を巡る争いを予防する必要がある。私の独断と偏見と妄想で以下に予防策を示す。



1.中国がアジア大河の源流であるチベット高原を占領しインドと国境を接していることが中印の水資源争いの最大要因である。従って、本来のチベット族の居住地域全てを独立チベット国家として、漢民族は全員追放する。これにより、チベット自治区だけでなく、青海省全体、四川省西部などが中国から分離することになる。

2.華北平原の水不足は需要の増多と供給の減少が原因である。供給増加のためには黄河中流半乾燥地域での耕作禁止と草原化・植林が必要である。また、需要を抑制するためには華北平原での工業用水を使用する活動の禁止、華北平原での人口の抑制(北京から揚子江以南への遷都を含む)が必要になるだろう。水を輸送するコストと輸送中の蒸発や水漏れによる喪失を考えるならば、南の水を北に運ぶよりも、北の人口を南に移動させる方が合理的である。その観点からは、北京でのオリンピック開催準備としての北京の都市再開発は全くのムダと言える。

3.中国が統一国家である限り、国力増大のために他の地域から水を奪って黄河下流域に流すという衝動を止めることは出来ない。中国を揚子江流域以南と黄河流域以北に分割する(西部の少数民族地域も分離独立させる)ならば、揚子江流域以南は豊富な水資源を利用した工業国家として繁栄し、黄河流域以北は水不足に苦しむ貧しい農業国家となる。これは現在の朝鮮半島の南北分裂を中国に移植した状態と考えればよい。また、JJ予知夢の中国南北分裂とも類似する。揚子江流域以南の国家は、黄河流域以北をロシアとの間の緩衝国家とすることでロシアとも安定した関係が樹立可能である。

4.遼寧省南部の水不足については、隣接する北朝鮮の鴨緑江等の水利権を中国が入手することを日本・ロシアなどの近隣諸国が容認することである程度解消可能である。朝鮮半島国家と中国の水争いが日本を巻き込む核戦争に拡大しないためには、日本の核武装と朝鮮半島の非核化が必須だろう。場合によっては、分離独立するチベット・新彊・内モンゴルからの引揚者や華北平原の過剰人口の一部を北朝鮮西部等に移住させることになるかもしれない。
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