国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測

スコットランドの分離独立と独仏両国の国家連合形成が引き起こす近未来の欧州情勢の激変

2006年11月26日 | 欧州
●太田述正コラム#1524(2006.11.23)
<スコットランドとイギリス(その2)>
3 合邦解消へ?

 来年5月、スコットランドとイギリスの合邦記念日の数日後にスコットランド議会選挙が行われます。
 その選挙で独立派のスコットランド国民党(Scottish National Party =SNP)が多数を制し、スコットランドが英国からの独立に踏み切る可能性が取り沙汰されています。
 何せ、直近の世論調査によれば、スコットランド人の51%が独立に賛成しているのです。
 スコットランド議会は、イギリスとの合邦により、1707年に廃止されたのですが、ブレア労働党内閣が、1997年の発足直後にスコットランドの自治権強化の一環としてその復活を決め、1999年にエディンバラ(Edinburgh)において復活したものです(
http://www.scotland.gov.uk/News/News-Extras/NewPage。11月23日アクセス)。
 しかし、このスコットランド議会がさしたる働きをしていないこと、スコットランドの石油と天然ガスがイギリスに簒奪されているという観念が高まってきたこと、ポストモダン的なアイデンティティー意識が高揚したこと(注2)、更には英国から独立したアイルランドがこのところ経済高度成長していること、によって、スコットランド人の独立志向は高まるばかりなのです。

 (注2)スコットランド人のアイデンティティーの核となっているのが、スコット法・スコット教育制度・スコットランド教会の三つだ。
     スコット法は、ローマ法を基本とし、それにイギリス類似のコモンローがミックスされたものであり、イギリスとは違って大陸法系に属する。
     スコット教育制度とは、(古典ギリシャのスパルタをさておけば、)世界最初の一般公教育が確立した「国」としての伝統を踏まえ、スコットランドは、初等・中等・高等教育のいずれの就学率においてもこの200年間、欧州のどの国よりも高い水準を維持してきた。なお、スコットランドの大学ではスコットランド出身者は学費を免除される。
     スコットランド教会とは、スコットランドを代表する教会であるところの、カルヴィニズムに由来するプレスビテリアン(Presbyterian)教会をさす。この教会は英国教会とは違って、公立教会ではない。
     なお、スコットランドの三つの銀行は、スコットランド独自の紙幣を発行しており、英国の紙幣ともども流通している。ただし、この紙幣はイギリスでは受け取りを拒否される場合がある。
(以上、http://en.wikipedia.org/wiki/Scotland(11月23日アクセス)による。)

 SNPが上記選挙で勝利を収めた暁には、その直後くらいにブレア首相から、労働党党首の禅譲を受けることになっているブラウン(Gordon Brown)蔵相が、すんなりと次期英国首相になるというわけにはいかなくなるのではないか、と噂されています。なぜなら、ブラウンはスコットランド人だからです。
 スコットランドの人口は約500万人で、英国の総人口が5,000万人強であること(注3)からすれば、スコットランドの分離によって英国が経済的・文化的に蒙る損害はさほど大きいものではありませんが、国連安保理常任理事国たる大国・英国のイメージは大いに損なわれることになるでしょう。
 (以上、特に断っていない限り
http://blog.washingtonpost.com/postglobal/david_goodhart/2006/11/end_of_the_united_kingdom.html(11月21日アクセス)による。)

 (注3)日本(総人口約1億2000万人で言えば、福島県と山形県より北の東北4県(600万人強)と北海道(600万人弱)を失うくらいの感じか。(人口データの典拠省略)

4 参考:スコットランド・トリビア

 スコットランド最大の都市はグラスゴー(Glasgow)であり、首都のエディンバラは人口では第二位。
 スコットランド人はほぼ全員英語のスコットランド方言(Scottish English)を話す。うち、30%はゲルマン系のスコット語(Scot)も話せるし、1%はケルト系のゲール語(Scottish Gaelic)も話せる。
 サッカーのワールドカップ、ラグビーのワールドカップ等には、イギリスと並んで出場を認められていることはよく知られている。
 ゴルフやカーリング発祥の地でもある。
 楽器のバクパイプ(Great Highland Bagpipe)もスコットランドが発祥の地。
 (以上、ウィキペディア上掲、及び
http://en.wikipedia.org/wiki/Scottish_people(11月23日アクセス)による。)

http://www.ohtan.net/column/200611/20061123.html







●独立しそうでしないスコットランド
http://tanakanews.com/990524scotland.htm





●イギリスの地方議会選挙とスコットランド・ウェールズ議会選挙
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/jimusyo/121LOND/INDEX.HTM





●特集2:スコットランドとウェールズの地方分権
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/sp_jimu/122_2/INDEX.HTM




●WR1542バグダッド陥落以後の世界と日本2号030509八幡

「ライニッシェ・ポスト」(本年3月17日オンライン)に、小さな、しかし歴史的には極めて重大な事実を伝える記事があった。フランス憲法修正案が大多数の賛成を得て国会で可決され、「フランス共和国の(行政)組織は非中央集権的である」とする1項目が追加されたと報じられている。今年の7月から試験的な制度転換が図られ、来年度からは、各地方に大幅な権限と財源の移譲が行われるという内容である。つまり、フランスは何世紀も続いてきた中央集権国家の伝統を捨て去り、連邦国家に変貌しようとしているのだ。そこで思い合わされるのが、今年の1月21日、「プラウダ」(オンライン、英語版)の記事である。欧州委員会のフェルホイゲン(ドイツ)とラミー(フランス)両委員が、独仏両国が近い将来、国家連合(コンフェデレーション)を形成し、政府機構、両国軍の統合、単一の外交政策の形成をめざしており、他のEU加盟国の希望があれば、喜んでこの国家連合に迎え入れる意向であると発言したということである。フランスの連邦国家体制への移行は、ここで示唆されている独仏連合国家形成への布石であると理解することが出来る。イラク戦争を巡る米国との対立で、統合への過程で痛手を被ったEUは、2004年の東欧10カ国の新規加盟を決定するとともに、独仏によるEUの中核国家建設計画を着々と進行させている。
http://www.world-reader.ne.jp/renasci/next/yawata-030509.html





●立ち上がるヨーロッパ 田中宇の国際ニュース解説

ドイツとフランスは、今後政治統合を強化することを決めており、その傾向は、今回アメリカによる欧州分断作戦を受けたことで加速することになると思われる。アメリカが理不尽な強硬姿勢に出る以上、欧州側は急いで団結せざるを得ない、とはっきり言うことができるからだ。長期的にみると、アメリカは警戒すべき欧州統合をわざわざ進めてしまうという墓穴を掘っていることになる。
http://tanakanews.com/d0217EUUS.htm



●TGV東線  (パリ~ストラスブール方面)

 2007年6月15日開業予定。320km/h運転で、パリ~ストラスブール間約450km/hを2時間20分で結ぶ予定。また、ルクセンブルク・フランクフルト・バーゼル等隣国への直通運転も実施予定である。
http://www.geocities.jp/curoka3/sdb/hsr-fr.htm



●欧州ニュースフラッシュ[まぐまぐ!]

来年のTGV東線の開通で西欧の主要都市が時速300kmの新幹線で結ばれます。東線の開通によってパリ・ストラスブルグ間が現行4時間から2時間20分、パリ・フランクフルト間が現行6時間15分が3時間45分、パリ・ルクセンブルク間が現行3時間35分が2時間15分にそれぞれ短縮されます。
http://blog.mag2.com/m/log/0000196508/107425063.html




●TGV東線の地図とパリからの所要時間






【私のコメント】
 人口約六千万のイギリスは、人口約五千万のイングランド、約五百万のスコットランド、約三百万のウェールズ、百七十万人の北アイルランドから成る連合王国である。このうち、スコットランドと北アイルランドには分離独立を指向するスコットランド国民党とシン・フェイン党という有力な地域政党が存在する。スコットランドには北海油田・ガス田があり、油田は既に生産がピークを越えて枯渇化しつつある様である。スコットランドがもし分離独立した場合は、この油田・ガス田の収益や漁業、観光で食べていく事になるだろう。人口五百万人の小国であることを考えると、ノルウェーと似た国になりそうである。イングランドとしては北海油田・ガス田はコスト高の上枯渇が進んでおり、もはや手放しても惜しくないという考えもあるかもしれない。北アイルランド紛争はカトリックのアイルランド人とプロテスタントの英国人の紛争であるが、この英国人の多くはスコットランド系と言われている。それ故、スコットランドを分離独立させるとイングランドは北アイルランド紛争から解放される可能性がある。

 スコットランド・北アイルランドが英国から分離すると、英国はイングランドとウェールズのみからなる連合王国に変化し、人口は約五千三百万人となる。人口が国力の重要な要素である事を考えると、人口八千万のドイツ、六千万のフランス・イタリアから一歩後退して、人口四千七百万のウクライナや人口約四千万のスペイン・ポーランドとの中間的存在に転落することは避けられないだろう。更に、現在進行形の国際金融資本の世界支配崩壊と世界の多極化は世界覇権国である米国を間接的に支配してきたロンドンに致命的打撃を与えると考えられ、人口の流出と共に英国の国力を急激に低下させると想像する。

 その他にも欧州には、オランダ語圏とフランス語圏に二分されたベルギー、バスク地方やカタルーニャの分離独立運動を抱えるスペイン、北イタリアの分離独立運動を抱えるイタリア、ロシア語系住民の多い東部とウクライナ系住民の多い西部の対立の存在するウクライナなどの分離独立の芽が存在する。ベルギーで行われたワーテルローの戦いではベルギー南部の住民は親フランス感情からナポレオンに味方した者もいたという話がワーテルローの博物館の展示にあった。英国から見てドーバー海峡の対岸という重要な場所にあるベルギーをオランダ系とフランス系の住民が拮抗した人工的な国家として成立させておくことは、フランスを強大化させないという点で英国にとって非常に有用であったのだと思われる。英国が没落してフランスやドイツに対抗する必要がなくなった場合、ベルギーという人口国家が分裂し、最終的にはオランダとフランスに吸収統合される可能性は否定できない様に思われる。更に、オランダ語がドイツ語の一方言に過ぎないことを考えると、オランダがバイエルンの様なドイツの一自治州としてドイツに参加することなく独立国として存在するのは、ドイツを強大化させないためのイギリスの陰謀とも考え得る。ベネルクス三国とオーストリア、場合によってはスイスも含めて、欧州のドイツ語系住民とフランス語系住民がそれぞれ一つの巨大国家連合を形成するならば、大ドイツは人口一億一千万人程度、大フランスが人口七千万人程度と、他を圧する欧州の大国になる。

 現在の欧州共通通貨は、スペインやポルトガル、ギリシャの様な弱小国が独仏と同じ通貨をもつという致命的な欠点があり、それは現在起き始めている世界システム危機の衝撃により崩壊する可能性が高い。その後各国が独自通貨に移行する場合、人口八千万の大国であるドイツマルクが欧州の基軸通貨となることは確実である。ベネルクスやフランスはドイツマルクとの為替相場を一定に保つことに全力を集中し、事実上金利を自由に変動させる権利を失うことになる。それよりも彼らは、現在の欧州中央銀行の中で金利変動に一定の発言権を持つ状態の方を好む筈である。このような現状を考えると、ユーロが崩壊した後に独仏+オーストリア+ベネルクスの間で中央銀行を含む政府機構の統合が行われ、現在のベルギーの様なドイツ語圏とフランス語圏からなる連邦制の超大国が欧州の中央に出現する事が考えられる。現にフランスの著名な人類学者で現政権にも大きな影響力を持つ人物であるエマニュエル=トッドが独仏両国の合併を提言しているし、独仏両国が近い将来、国家連合の結成を目指していると両国の欧州委員会委員が発言していることから考えて、これは私の単なる妄想ではなく近未来に現実化する可能性のある事柄だと思う。

 独仏+ベネルクス+オーストリアの合併がもし実現した場合には、この超大国はその巨大な引力で周辺大国を分裂させていくことだろう。南北の経済格差の大きいイタリアでは、富裕な北部が分離独立してこの超大国への参加を希望することがあるかもしれない。スペインでも、カタルーニャの分離があるかもしれない。いずれにせよ、近未来の世界システム危機の混乱の後には、欧州大陸の中央に人口2億人弱の繁栄する中核国家が出現することになるだろう。

 同様に、ベラルーシやウクライナ東部をロシアが吸収合併して人口一億七千万人程度の東方スラブ系の中核国家になる事態が考えられる。日本については、場合によっては台湾とのゆるやかな国家連合形成があり得るかもしれないが、朝鮮半島や中国本土にそれが及ぶことはまずあり得ないだろう。日本+台湾で人口は約一億五千万人であり、独仏国家連合やロシアに匹敵する規模となる。近未来の世界ではこのような幾つかの中核国家がユーラシア大陸で相互に勢力均衡を図る状態をゴールとするシナリオが組まれているのではないかと想像する。そして、そのゴールにたどり着くために最も大きなハードルである独仏両国の国家連合形成を両国の国民及び欧州の人々に支持させるためには、米国やスペインなどの不動産バブル破裂やドル危機を引き金とする世界システム危機が必要なのかもしれない。

 2007年6月15日開業のTGV東線はパリと独仏国境の町ストラスブールを2時間20分で結ぶことになるという。また、同じく国境の町のザールブリュッケンはパリとフランクフルトを結ぶ幹線の中間点となる(パリから1時間50分、フランクフルトから1時間45分)。恐らく、独仏国家連合の首都はこのTGV東線沿いのアルザス・ロレーヌ地域に位置するストラスブール・メス・ナンシーあるいは国境を越えたドイツのザールブリュッケンのいずれかに設置されることだろう。ドイツとフランスの間で振り子のように行き来したこの地域はドイツ語の方言を母語とする人が多く純粋なフランスともドイツとも言い難い地域であり、フランクフルトとパリの間で交通の便のよい場所でもある。来るべき世界システム危機と奇妙に一致したTGV東線開通予定日は、独仏国家連合の新首都設置のためであると思われる。





【11月27日追記】
●過半数が分離を支持=イングランドとスコットランド―英調査

【ロンドン26日】26日付の英紙サンデー・テレグラフに掲載された世論調査で、イングランドとスコットランドの双方で、両地域の分離を求める意見が過半数を占めた。 同紙によると、スコットランドの独立を支持したのは、スコットランドで52%、イングランドで59%に達した。また、イングランド人の間では、イングランド議会の設立を支持した人が68%、イングランドの連合王国からの離脱を望むとの回答が48%に上った。
 スコットランドでは、イングランドとの政治統合300周年を迎える来年7月、スコットランド議会選挙が行われる。最新の世論調査では、野党・スコットランド国民党の支持率が急伸している。ブレア首相は24日、国民党が与党・労働党より多くの票を獲得すれば、大変な事態になると警告。ブラウン財務相も26日、連合王国の維持を呼び掛けた。
 スコットランド議会は1999年に再開され、教育や保健などの分野で、英国議会とは別に独自の法律を制定できる。また、制限付きながら、税率の変更も可能。
 調査は、イングランド人869人とスコットランド人1003人を対象に、22、23の両日、電話で行われた。〔AFP=時事〕
http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__2774151/detail







●Britain wants UK break up, poll shows 27/11/2006 Telegraph News
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2006/11/26/nunion26.xml

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1 コメント

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Unknown (Ben O'hara)
2006-11-26 15:48:39
先の二つの大戦後、世界地図・国境線が劇的に様変わりしたように、
仮に次の大戦が近未来にあるとすれば、その後このように変わりうるのだろうか・・・。

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