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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

『なぜ富と貧困は広がるのか』 書評

『なぜ富と貧困は広がるのか』

 「日雇い派遣」、「名ばかり管理職」、「過労死」・・・・・最近の新聞を賑わすキーワードだ。さらに、年収300万に満たない正規労働者の数は211万人、自殺者も3万人を超えたたままだし、生活保護世帯も急増している。だけど、政府や企業は、こうした問題になんの対策もしようとしない・・・・・・・

 非人間的な働き方が横行する社会が、蔓延している。

 その一方で、大企業は、グローバル競争の只中で、大幅な利益増を勝ち取っている。
 そういえば、最近起きた秋葉原の事件も、サブプライムローンと石油と原料高騰の影響を受ける形で、トヨタがコスト削減する方針を出し、それに従った関東自動車が日研総業の派遣労働者との派遣契約の中途解約を行ったことが原因の一つとして考えられるらしい。こういった大企業の利益を守るための経営戦略のつけが、末端の労働者に回ってくるような実情は、いたるところで発生しているだろう・・・・・・

 洞爺湖でサミットが開かれた。今年のサミットは、「環境問題」への対処も大きな議題らしいが、議長国の日本は、未だに温室効果ガスの排出量が増加しているとか。さらに、温室効果ガスの削減を求めた京都議定書に、排出大国アメリカは批准すらしていない。政府は、個人レベルの環境保護活動にはうるさいが、企業活動に対する環境規制はかなりあまい・・・・・・
 こうしたニュースを聞くたびに、ついついため息をつきながら、こういった疑問が出てこないだろうか?
 まず、なんで労働者は、こんな「使い捨て」のモノのように扱われるのか?
 次に、なんで貧困や環境破壊を生み出してまで、企業は活動するのか?
 最後に、そもそも、そういった「暮らしくい社会」に対して、なぜ国家は「暮らしやすい社会」のための取り組みをすぐにしてくれないのか?

 今回、ご紹介する『なぜ富と貧困は広がるのか』は、まさにこうしたふとした疑問にとてもわかりやすく答えてくれる本です・・・というだけでなく「格差社会を変えるチカラをつける」ために作られた、アグレッシブな目的意識を持てる本なのです!

 第一章は、企業は、労働者を雇って、働かせ巨大化していくのに、なんで、生産の当事者である労働者の生活は、企業の巨大化に比例して、良くならないのかといった根本的な疑問に対する解説から始まります。その解説にあたり、労働の対価として考えられている労働賃金や労働者が作り出す商品の価値がいかにして決まるのかを知ることになります。そして、そもそも企業の利益って、どこから生まれるのかといった問題にも触れながら、一つひとつのナゾを紐解いていきます。

 第二章は、第一章を受けた形で、より大きな枠組みの話に移っていきます。なぜ、この社会では、雇う側と雇われる側(雇われてやってる?)といった立場の違う人間が作り出され、両者の間で格差が広がるのかを普段聞きなれない「階級」といった言葉を用いて歴史的な変遷を追いながら説明していきます。そして、この章では、そうした社会における「国家」の役割を、国家の起源まで遡りながら考えていきます。

 第三章は、ヨーロッパにおいては、市場をも規制する力を持ち、人々の生活にまで根ざした運動を繰り広げている「労働組合」の社会的役割を、「労働組合?なにそれ?」といった感じでユニオン(組合)の社会的役割と認知度が著しく低い日本での労働組合の課題と合わせて考える章となっています。実は、この章が、この本の中で最もイメージしにくい内容かもしれませんね。

 第四章は、富める者と貧困にあえぐ者が生み出される社会が、どういった社会的な構造で形成されてきたのかを各章で知った上で、新たな社会的ビジョンを、「新たな福祉国家」戦略を提示しながら説明されています。社会分析に関する本は、ちまたに溢れているけど、なかなかオルタナティヴの提示を具体的に提示する本が少ない日本では、各々の立場から社会を変えていくビジョンを考えるにあたってのバイブルとしても使えるかもしれません。

 この本は、序章で触れられているように、現在の日本社会で露骨に現れてきた、雇う側と雇われる側の対立を、「現在の社会のしくみに深く根ざした対立」として捉えています。そして、その「社会のしくみに深く根ざした対立」がなぜ生まれるのかを、各章で説明しているのです。まさにそうした問題を考えること自体が、今、自分自身や周りの人間の置かれている実情を知りながら、よりよい新たな社会を構想するための土台となるのでしょう。
 この本を読み終えた時、もうあなたにも「格差社会を変えるチカラ」の一部が備わっているかもしれません。

 ぜひぜひご一読あれ・・・・

『なぜ富と貧困は広がるのか (格差社会を変えるチカラをつけよう) 』
後藤道夫+木下武男
A5判並製/164頁/
定価1,470円
発行日 2008年6月10日
ISBN 978-4-8451-1074-2 C36
旬報社

<著者紹介>
後藤道夫(ごとう・みちお)
都留文科大学教授。専門は社会哲学、現代社会論。主な著書に『収縮する日本型〈大衆社会〉-経済グローバリズムと国民の分裂』(旬報社、2001年)、『反「構造改革」』(青木書店、2002年)、『戦後思想ヘゲモニーの終焉と新福祉国家構想』(旬報社、2006年)など。

木下武男(きのした・たけお)
昭和女子大学数授。専門は現代社会論、労働社会学、女性労働論。主な著書に『日本人の賃金』(平凡社新書、1999年)、『格差社会にいどむユニオン-21世紀労働運動原論』(花伝社、2007年)など。

<主な目次>
序 章 貧困化する社会に未来はあるか
第1章 企業は巨大化するのに、なぜ暮らせない労働者が増えるのか
第2章 私たちは階級社会に生きている
第3章 なぜ労働組合は生まれ、どんな役割を果たすのか
第4章 私たちはどのような社会をめざすのか

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POSSEって何?
私たちPOSSEは、フリーターや学生など若者によるNPOです。
下北沢に事務所を置いて、若者の「働くこと」に関する問題に取り組むとともに
、若者が集まり交流し学ぶ場をつくります。
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NPO法人POSSE
所在地:東京都世田谷区代沢5-32-5シェルボ下北沢301号
FAX:03-5779-1891
E-mail:posse-npo@hotmail.co.jp
HP:http://www.npoposse.jp/
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コメント一覧

クラ
図書館にリクエストして買ってもらいました。
これから読みます。
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