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映画・演劇のレビュー

まはら三桃『白をつなぐ』

2017-02-12 21:50:16 | その他
毎年1月広島で開催される都道府県対抗駅伝を舞台にした物語。福岡代表チームのメンバーの事前合宿(1泊2日)からスタートして出発の日、アップ、前夜、当日(1区から7区まで)、懇親会、帰郷という大会のすべてが描かれていくほんの数日間のお話。



7区間を走る7人のメンバー(中高生から大学生、社会人の混成チーム)にサポートメンバー、監督、コーチというその10数人を主人公にする。大会前後の数日のドキュメントの中で彼らのそれぞれのドラマが描かれる。この日のために彼らが今まで何をしてきたのか。この日を引退の日にする社会人メンバーや、初めての招集に緊張する中学生。県の代表として走る気負い。長距離ランナーとしての矜持。様々な思惑が交錯していく。



作者は短い描写で彼ら一人一人の置かれた今を活き活きと描いていく。大会の全容を伝えながら、このイベントにどういう思いで挑むか、そしてここからどこに向かおうとするのかが描かれていく。



読みながら、この緊張感は身に覚えがある、と思った。高校のクラブで初めて近畿大会に出場した時の緊張を思い出す。いろんなことが知らないことばかりですべてのことにドキドキした。自分が出るわけではなく、監督として行くのだが、それでも今までそんな大きな大会には出たことがないし、当然引率する生徒にとっても初めてのことで、動揺させないために、僕が堂々としていなければならないしで、大変だった。(他府県に行き、知らない場所で、あれもこれもがすべてが初体験!)まぁ2回目以降はなんだかへんに慣れてしまいあまりドキドキはしなかったから、あれはやはり初めてならではの特権だったのだろう。



この小説は、大会を通して、感動のサクセス・ストーリーを描くわけではなく、その苦い出来事を通して、それがそれぞれの抱く想いとして繋がっていくことが描かれていく。勝つことが大事なのではなく、それを通して何を学んでいくのかが大切なのだ。思いもしないアクシデントはある。それがただの挫折になるのではなく、それがちゃんと結果的に大切なものとなる瞬間をきちんと描いてくれるのがいい。



たすきをつなぐことを描くこういう駅伝小説は今までもあったけど、(『風が強く吹いている』だけでな、いくつか読んだ気がする)この作品の臨場感は特別だ。先にも書いたように柔らかいドキュメントタッチという作品の感触がとてもいい。これは作者ならではの世界だと思う。
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