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映画・演劇のレビュー

『戦場カメラマン』

2011-11-19 21:25:37 | 映画
 このタイトルから想像出来る映画とはまるで違うものを提示する。監督は『ノーマンズ・ランド』のダニス・タノビッチ。もちろん派手なアクション映画ではない。だが、感動のヒューマン・ドラマでもない。この醒めた視点が従来のこの手の映画にはなかったものだ。戦場を舞台にして命を賭けて報道に取り組む、なんてイメージからは程遠い。名誉と一攫千金を狙う、のでもない。だが、イメージ的にはそっちの方が強い。主人公のカメラマンの賤しさが前面に押し出される。戦場の医療現場で瀕死の兵士達にハイエナのようにカメラを向ける。苦しむ人たちに、情け容赦なくシャッターを切る。見ていてなんだか腹立たしい気分にさせられる。

 善意のカメラマンではなく、ただ自分のためだけに写真を撮る。そんな男に対して戦場にいる医者は批判も肯定もしない。兵士たちもである。彼らはカメラマンの存在なんか気にも留めない。自分たちのことで手一杯だからだ。だが、本当はいくら報道のためとはいえ、自分勝手にシャッターを切る彼に対して非難の目を向けてもおかしくない。命をはって闘っているのは自分たちでそこに来て勝手に写真を撮り、英雄気取り。

 死と背中合わせの戦場で、命知らずに写真を撮る彼らは、ただの傍観者で、凄い写真を撮ってもそれは現地の人たちのためではなく、自分のためでしかない。そんな男の話。そんな彼が怪我をして戦場から戻り、精神に障害を持ち、その原因が実は戦場で友人を見殺しにしてきたことによる、という展開。いかにもな話なのだが、それが結構あっさりと描かれる。原因追究でドラマを引っ張らない。淡々と帰国後の彼を見せる。最初は次のビルマの戦地に行き、そこでどんなドラマが待ち受けるのか、と思っていたのに、ビルマ行きを簡単にキャンセルし、治療の話になる。彼が抱える問題はクローズアップされないまま、でも映画はそこに帰着する。

 映画の後半は帰って来てからの話で再び戦場に行かない、というのはやはり、意外だった。彼のトラウマとなる事件(友人が爆撃され両足を失い、彼を連れて30キロ先のキャンプまで戻ろうとする)は終盤描かれるが、そこまでのところで、なぜ彼が心を病んでしまったのかを見せない。映画としては約束破りだ。どこに焦点を絞って見るのか、よくわからない。そこまで彼が病んでいたとは気付かない。描き方のさりげなさがそんな印象を与えるのだ。でも、そこがこの映画の面白さでもある。いかにものパターンにしない。わざと狙ったのか、偶然なのか、判断しにくいくらいにさりげない。

 ただし主演のコリン・ファレルはちょっと暑苦しいしミスキャストだ。あの髪形のせいでもある。それに2枚目過ぎて、この映画の主人公にしては「スター」すぎる。もっと地味な人にやらせた方がいい。繊細な内面とか、感じさせないから、終盤の意外な事実が嘘くさくなる。

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1 コメント

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日本に戻って酒女 (康浩)
2014-07-05 13:35:44
戦争カメラマン…英雄気取りだよ。戦地に住む子供や女性は?帰国すれば、セックスに酒だろうが。くたばって帰国しろよ。それが現実だよ。

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