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映画・演劇のレビュー

群ようこ『パンとスープとネコ日和』 『福も来た』

2015-06-20 22:21:42 | その他

2冊続けて読んだ。とても読みやすく、心地よい小説で、一瞬の出来事だった。1日1冊で2日で終わる。何にもない。50過ぎて脱サラして、食堂を始めた女性の話。母親がやっていた食堂を改装して、パンとスープ、サラダにデザート。シンプルなメニュー、しかも種類もあまりない。ワンプレートで千円。安くはないけど、手間ひまかけたこだわりの料理、食材も無農薬野菜を中心にした。

小川糸の世界に近い。というより、彼女のほうが群ようこに似ているなっていうべきか。彼女のほうがずっとベテランだし。というか、群ようこがもうベテランの域に達するのだ、時代は変わった。昔、本の雑誌社にいて、椎名さんの本によく登場していた彼女が、作家になり、売れっ子になり、しばらく読んでなかったけど、どんどんいろんな本を世に出していた。でも、僕はずっとご無沙汰していた。ごめんなさい。

今回読んだのも、たまたまだ。その日は重い本は無理だったので、文庫本を物色していて、目にしただけ。読み始めると、あっという間。『かもめ食堂』の流れを組む。

おんな2人で始めた小さなお店。がつがつしない。ただ、それなりに食べていければいい。たくさんのお客さんが来たなら、反対に困ってしまう。欲がない、というより、マイペースなのだ。客のニーズに合わせるのではなく、自分たちが欲しいものを、お客に提供する。だが、それは傲慢ではない。自分の気持ちに正直。そして、それで喜んで貰えたなら、うれしい。そうじゃなければ、少しかなしい。でも、少ないお客さんでも、喜んでくれる人のために頑張る。

そんなささやかなお店のお話。死んだ母親の昔の友人(会社の同僚)がやってきて、彼女の出生の秘密を教える。母子家庭で父親は知らなかった。(母は不倫して自分を産んだ、らしい)別に知りたいわけではないけど、おしゃべりなタナカさんが、要らぬお世話をする。読んできて、こういうストーリー展開は好きじゃないな、と思うけど、彼女自身も好きではないみたい。可愛がっていたネコのたろが突然死んでしまい、天涯孤独になった彼女は、タナカさんに教えられた父親のもとを訪れる。(母より30歳も年上たった父は、当然、もう死んでいるけど)

こういうお話も挟んでいるけど、基本は淡々とした毎日のスケッチだ。ひとりで生きていくことの悲しみと喜び。小さなお店で毎日自分にできる範囲で働くこと。それだけで十分。そんな小説。読み終えて、ほっとした。なにもないけど、そのことが胸に沁みた。

それだけに、すぐに、続編(『福も来た』)を手に取ることができた。自然なまま、翌日が続くように、読み始めた。すると、そこには、まるで変わらない昨日の続きがある。これって小説としてはどうよ、と思うくらいにさりげない。お話を見せるつもりはない。ありえないほどに、なにもない。変わらない。小説としては絶対に1冊で終わっている。これを書く意味はない、と思った。読む意味もない。だが、僕たちは意味を求めて生きているわけではない。(というか、小説を読んでいるわけではない)最初はあまりのそっけなさに、驚くが、最後まで読んだとき、こういうのも、確かにありだ、と思った。こんなふうにして、僕たちの人生も続くのだから。


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