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映画・演劇のレビュー

恩田陸『蜜蜂と遠雷』

2017-03-18 04:10:12 | その他
今年(昨年?)の直木賞受賞作。というか、僕には恩田陸が直木賞を今まで貰っていなかった、ということの方が驚きだ。上下2段組み500ぺージを超える大作なのだが、読み始めると止まらない。読みやすいし、一気にラストまで読み終える。(でも3日間かけたけど)



3年に一度開催されるピアノの国際コンクールを舞台にして、エントリー(登場人物の紹介)から大会前夜、一次予選、2次予選、3次予選、そして本選までの短い時間が時系列リアルタイムのできごととして描かれる。大会に出場4人を中心にして、彼らと彼らの周囲の人たちの群像劇である。ピアノに魅せられた天才たちが、競い合う。16歳の天才少年をトリックスターにして、まるで違う個性や出自を持つ4人がエントリーされた他の86名と共に優勝を目指す。



これはスポーツものによくあるパターンで、格闘技ものにもこのパターンがよくある。(『ドラゴンボール』の天下一武道会みたいだ!)勝ち負けを競うあう中で、様々なドラマが描かれる。ただ、それが音楽で、ピアノで、というのが、珍しい。しかも、音楽(ピアノ)自体を小説として表現しようとする。人間ドラマでもあるけど、まず、音楽ドラマなのだ。ひとつの演奏の描写が50ページくらい続く部分もあるのだ。音楽を文字で読む。まぁ、それは今までもそうだった。スポーツなんか文字にして書けないはずなのに、みんなやってきた。



ただ、この小説が今までのそれらと違うところは、これが演奏を通して人間の成長やドラマを描くところにある。ドラマの中に演奏があるのではない。まず音楽ありきなのである。



人が何を感じ、考え、生きているのか。生きていくのか。そういう普遍的なテーマはちゃんとそこにある。音楽なんか、ピアノなんかわからないよ、という僕のような人間が読んでも伝わる。ここで描かれる曲のほとんどがわからないけど、膨大な量の演奏が描かれるけど、大丈夫。まぁ、タイトルを聞けば、曲が頭の中に流れる人が読めばもっとちゃんと伝わるのだろうけど、気にしないでいい。それは先日読んでいた『3月のライオン』の時も思ったことだ。将棋のことがまるでわからないのに、延々と続く将棋のシーンにのめりこんで読める。優れた作品はいつもそうなのだが、この小説はそこのバランスがかなりいびつで、それがなんとも魅力的なのだ。



優れた演奏は誰をも感動させる。専門的なことはわからなくてもかまわない。彼らの内面の成長のドラマに感情移入するのも、天才のことなんかわからないけど、その苦悩はわかる気がするからだ。10代からせいぜい20代までの若い人たちが主人公だけど、だからこれは青春小説なのだけど、もうじゅうぶん大人である僕たちが読んでも共感できるし、いろんなことを教えられる。天才だから見えること、人間だから見えること、それらは決して別物ではない。僕たちは天才ではないけど、同じように人間で、でも、彼らにしか見えない地平へと恩田陸が連れていってくれる。それがこの小説のすばらしさなのだ。
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