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映画・演劇のレビュー

ロイン機関『鳥の火』

2017-09-12 22:13:32 | 演劇

 

とてもよく出来た脚本(朝田大輝)だと思う。お話として面白いだけではなく、そこには可能性があるからだ。アレンジ次第でいろんなものに化ける。そんな本だと思った。それを演出の丑田さんは、丁寧にテンションを下げて描く。これをハイテンションに演出したなら別の芝居になる。そうすることで、コミカルな作品として楽しいものにも処理可能だ。だが、そうはしない。重くなりすぎたら失敗する。難しいのはそのバランス感覚をどこにもってくるかだ。

 

主人公に武田操美をもってきたのは冒険だ。器用な彼女ならなんでも出来てしまう。そうすると、ただの安全な芝居にしかならない。彼女を使うことは、演出家としての真価を問われる。いろんなことを封印して行く方法もあった。だが、それでは彼女を使う意味も殺がれる。自由にやらせた上で、一番大事な部分は譲らない。それは彼女が演じる女の痛みである。アイドルの頃のコンプレックス。結婚してからも、同じ。さらには自分の火の不始末から夫を死なせてしまった罪の意識に苛まれていること。彼女が抱える負の部分を表面的には封印して、生きる姿を描けたならそれだけで、充分なのだ。

 

彼女の対局に川田陽子を担ぎ出してきた。これは凄いキャスティングだ。どこからこんなアイデアが出たのだろうか。あり得ない。しかも、50歳というとんでもなく微妙な年齢設定である。若年性アルツハイマーで、記憶がどんどん失われていく女。それを悲痛に演じるのではなく、ただの無邪気でもなく、悪意もなく、武田を傷つけていく。美人の彼女と、引き立て役だった武田というわかりやすい図式。

 

これはアイドルユニットとして一時代を築いた過去を持つふたりの再会、そこからふたりの再生に至るドラマなのである。だが、単純なお話ではないことはここまで書いたことからも明かだろう。ラストも単純なハッピーエンドではない。昔のように踊り、歌う。でも、もう昔ではない。川田の病状はどんどん進行していく。武田演じる主人公のスーパーもこれから経営が上手くいくわけではない。再会を通して、自分をもう一度見つめ直し、いつまでも逃げているわけにはいかないという覚悟を固めた彼女がここからどこに行こうとするのか。いろんなことを考えさせられる芝居なのだ。

 

 

 

 

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