習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

遊劇体『ありとほし』

2016-10-29 20:41:45 | 演劇
人が生まれ、死ぬ。今まで、人生なんてものを振り返ることなんて、なかった。しかも、終わりというところから、見つめることはなかった。しかし、この芝居を見ながら、人生を死から見つめることが、なんとも自然なこととして、伝わってきた気がした。60年はひと回りで、ひとつの区切りだと、近頃とみに思う。キタモトさんもきっと60歳を目前にして、思うところがあったのではないか、なんて、そんなことを思う作品である。





今まではいつも前を向いていた。それはまだ若かったからだ。だけど、気付けば、知らない間に年老いていた。最近、自分が明らかに老人の目で、ものごとを見るようになっている。そんなことを考えながら、この芝居を見た。



理屈で、この作品を見てもつまらない。ここには理に落ちないことばかりが連なっている。当然1本のストーリーが貫いているわけではないし、お話には整合性はない。死の直前に見た幻として、納得するのはナンセンスだし、つまらない。思いつくまま断片的なイメージを綴った、というわけでもない。これはもっと自由なのだ。



蟻の目で、世界を見る。ビスケットを運ぶシーンが何度となく描かれる。彼らは何のために食べ物を運ぶのか。そんなことわかりきっている。生きるためだ。しかし、人間はそんなふうに簡単に答えを出そうとはしない。いくつもの瞬間、何を思い、何を考え、行動したか。自分でもわからない。



ゼロ戦に乗って、死に行くことも、恋人を刺して、殺してしまうことも、さらには、殺したことすら忘れ、記憶すらないことも。不条理ではなく、当然のことなのだ。ただ、森の中を逃げ惑う。



人は自分で自分がわからない。わからないまま、生きて、死んでいく。たった80分の芝居(遊劇体史上最短の上演時間)の中で、生と死を描き切る。いや、描き切れないもどかしさこそが、この作品の身上だ。



白で統一された衣装と舞台空間も潔い。無を基調にして、すべてを表現する。僕はまだ死ぬわけではないけど、今まで生きてきて楽しかったと思う。そんなことを改めて思わせてくれるような、これはそんな作品なのだ。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 演りだおれ『塵芥』 | トップ | 『闇金ウシジマくん ザ・フ... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。