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映画・演劇のレビュー

『美しい星』

2017-06-05 21:21:55 | 映画

 

吉田大八監督の新作だから、それだけで楽しみだったけど、まさかの映画で驚き、あきれる。なんなんだ!これは。こんなへんな映画を作ろうとしたという事実だけでも驚嘆に値する。

 

一応メジャー映画だし、東宝シネマズで一斉公開している。単館系で上映されてもおかしくないようなタイプの作品。キャストも地味。なんとリリー・フランキーが主演なのだ。亀梨和也も出ているけど、アイドル映画では当然無い。人気漫画の映画化でもない。というか、今時、三島由紀夫原作なのだ。でも、文芸作品ではない。SFだし。コメディにしたらいいようなお話なのに、堂々シリアス。いろんな意味でわけがわからない映画なのだ。昔書かれた作品を現代の話として脚色してあるはず。だが、こんなバカバカしくも大胆な小説を三島が書いていたということは驚きだ。

 

どこまでが本気で、どこからが冗談なのか、判別できない。どこまでも本気なのだけど、お話が冗談なのだから、難しい。自分が火星人だと目覚めた男と、その家族の話。しかも、子どもたちも自分が金星人だとか、水星人だとか言い出すし、母親まで、じゃあ自分は地球人、とか。もうわけがわからない。そんな4人家族の姿を、映画は、時に重なりながらも、基本的には並行して描いていく。そこでは4人が向き合う個々の問題が丁寧に語られていく。そこから、自分たちがこの星で生きる意味を問いかける。

 

どこまでも本気で、この星で宇宙人として生きていく意味を問いただす。母親が言うように僕たちはまず地球人で、たまたまこの星で暮らしているだけ。そんなスタンスを持ち、当たり前のこととして、安穏とこの星で暮らしている自分たちに警鐘を鳴らす。いろんなことを当然の権利として受け止める傲慢さは、たしなまれる。普通、地球温暖化に対して我々に何が出来るのか、なんてことを最優先して生きる人はいない。この星がどうなろうと、知ったことではない。まず自分の生活をどうにかしないと、暮らしは成り立たない。

 

彼らがエイリアンであることの真偽なんて実はどうでもいい。だけど、僕たちがここで生きるという既得権を持っているわけではない。その事実を認識することだけでも、この映画の意義はある。

 


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