ぽんしゅう座

映画を観るくらいしか趣味のない男の、雑談です。

■脱出(1972)

2016年10月19日 | ■銀幕酔談・・・「今宵もほろ酔い」
60年代の騒乱が沸点に達し、煮詰まった情念が一触即発の様相を呈した70年代初頭。そんな時代の気分が炸裂する傑作。そして逃避願望が無条件に海外礼賛に昇華したかのような混血青年(ピート・マック・ジュニア)を慕う、蓮っ葉な不良娘(フラワー・メグ)の健気が切ない青春物語。

さらに、忘れてはならないのは、たたみかけるような和田嘉訓監督の演出手腕が光る、娯楽サスペンスとしての充実ぶりだ。現代のFSXを多用する緻密さやリアルさとは比べようもないが、日本映画斜陽期の低予算プログラムピクチャーの緩さが、巨費を投じた大作には出せない「生身の切なさ」を醸し出している。

同時代の日活の『女囚サソリ』シリーズに込められた抑圧と反逆の闇、『野良猫ロック』シリーズが発散していた無軌道な暴走願望、さらに言えば若松孝二が模索したテロリズムの可能性と限界性といった、ギラギラした生の情念がスクリーンに炸裂するこんな怪作が東宝作品にもあったのだ。

この作品が45年に渡ってほとんど映画ファンの目に触れていないとう驚きと悲劇。もしも、予定どおり1972年に公開されていたなら、日本映画史に新たな1ページが加えられていたことは確実だろう。

時代の「奥底から放たれる光」を、あまりにも真正面からまともに反射させた作品は、その「反射光」に耐えきれない者にとっては不穏な異物以外の何物でもない。「反射光」に耐えきれない者とは、その時代の安定をむさぼり、時代の「奥底」にフタをして光を封印している者たちに他ならない。だから彼らは、未公開という最も卑近な方法で「この映画」を大衆の目に触れないように隔離したのだ。


【あらすじと解説】
黒人との混血青年サチオ(ピート・マック・ジュニア)は、明日の朝、夢だったブラジル移住のため旅立つはずだった。ところがサチオは喧嘩になった不良外国人を殺してしてしまい、幼なじみのアキコ(フラワー・メグ)が勤めるスナックに逃げ込むことに。居合わせた週刊誌記者の白川(荒木一郎)、歌手志望の進一(林ゆたか)、大学生の高梨(原田大二郎)、そしてヒッピーのダミイ(石橋蓮司)らは、警察を出し抜いてやろうとサチオを朝までかくまいブラジル行の船に乗せることで意気投合。しかし、新たなる殺人、過激派テロ、企業恐喝と事態は思わぬ展開をみせるのだった。西村京太郎原作のサスペンス・アクション。

公開予定の1972年(昭和47年)、実際に起きた過激派学生による事件と内容がかさなることを理由に、東宝が公開を見送り「お蔵入り」となった。その後、地方の三本立て興行(1974年)で公開された記録があるが、現在2016年10月に東京のシネマヴェーラ渋谷における「映画特集 荒木一郎の世界」で約42年ぶりに上映されている。(85分/シネマスコープ)

(10月16日/シネマヴェーラ渋谷)

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