Raison d' etre ici

(人の)生きる理由,生きがい;(物の)存在理由.

この世の景色

2006年09月17日 | 
洗いたてのシーツと
100%のオレンジジュースがあれば
私の人生はまずまず順調だ


この海沿いの道はゆるい坂で
海風が所々
アスファルトに砂をまいていく

海があって太陽があって
潮のにおいのする風が吹き
白い壁をした家々が並ぶ
整頓された街で
整頓された生活をしていく

でもこの道になじんでいる白いサンダルは
信じられない位こんがらがった街で買った
自分の人生を生きるつもりで
他人の人生を生きている
自分の生活はいつのまにか
隣の他人の生活と混ざり
幾人もの人の生活が交差する
私という存在のはっきりした輪郭は
どこまでだったのだろう

お守りのような気持ちで
まっさらな白のサンダルを履いた
坂道を上るには少し高すぎるヒールでも
一番眺めのよいカーブで足を止め
ガードレールに手をかければ大丈夫

波音が重なり合い
水面が陽を受けて輝く
水平線まで遠ざかりそうなほど
広がっていく海があって
風が髪を乱していく
私は坂の途中
しっかりと立っている

私の目で見るこの景色は
同時に他人の目で見ている景色でもあり
大事な人ならば
泣きたくなるのだろうか
死にたくなるのだろうか

季節の初めにひいた風邪は
まだ体の奥に残っていて
私の体は過ぎたことと
今とつながっている
私の心が遠く離れても
たくさんの心とつながっているように


帰り際に通った白い壁の家には
しっぽのないトカゲが1匹
誰かの家の庭にしっぽだけが
ひっそりと残っているのだろう
1匹のトカゲと1本のしっぽは
合わせて2つ
身を切るように他人の中に私を
中途半端に残してきてしまった
私の中に残る他人の声が
「1人」だとざわめくけれど
かえって実質的に1人になるのが難しくなる


洗いたてのシーツと100%のオレンジジュースを
常に用意している
あの街でもこの街でも
私だけが好んだものを側に置いている
まるで強情な私を
大事な人と大事な人の中に置いてきた私は
どう見るのだろうか
時々分かれた私が
無心に泣き 揺れているのを知っている