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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

東京家族 21世紀の「東京物語」をみた

2013年02月27日 | 映画
山田洋次監督50周年記念企画の「東京家族(以下「家族」)を観た。主人公の平山周吉・とみこ夫妻、子どもの幸一、金子志げ、紀子、そして孫の実と勇まで小津安二郎の「東京物語(1953年 以下「物語」)と同じ役名だった。またせっかくみんなで外出しようとしたとき患者の親がかけこみ往診に行かざるをえなくなったり、「孝行したい時分に親はなし。さればとて、墓に布団も着せられず」という軽口、紀子が「わたし、そんなにいい人間じゃありません」と義父母に言ったり大小のエピソードまで同じで、リメイクといってもよい作品だ。監督本人が「小津さんのいいところは全部まねしようと思った。違うものを作ろうとはこれっぽっちも思わなかった」と述べている(日経2013年1月9日夕刊16面)

ただ時代の流れもあり、たとえばはとバス観光で「東京スカイツリー」が出てきたり、昌次と紀子は南相馬のボランティアで出会ったり、今は亡き友・服部の妻の母が東日本大震災の津波で陸前高田で死んだり、最近のニュースが盛り込まれている。また「物語」では昌次は6,7年前に戦死しているが、「家族」では戦後半世紀以上たっているので舞台美術の仕事をしている。
いちばん大きな違いは「高齢化社会」なので主人公が若いことだ。「物語」の夫妻は70代か80代に見えた。しかし1953年には東山千栄子の実年齢は63歳、笠智衆に至っては49歳、何とまだ40代なのだった。一方吉行和子は77歳、橋爪功は71歳なので「家族」の夫妻のほうが年長なのだ。しかし見かけはずっと若いので、これには驚いた。ただし「勤務評定、学力テスト、道徳教育反対といった大きな問題にぶつかるたびに、私は服部君に相談に乗ってもらったもんです」という周吉のセリフがある。これらの闘争はだいたい昭和30年代のできごとなので現場で体験した世代というと80歳代のはずなのでおかしい。
横浜のホテルから帰ったが、志げの家は夜宴会があるので泊まれないことが判明し、周吉は「とうとう宿なしになってしもたか」とつぶやく。1月にNHKスペシャルで「老人漂流社会」をやっていた。身寄りのない高齢者がひとたび体調を崩すとショートステイの施設を転々とせざるをえないという話だった。平山夫妻は身寄りもあるし、これとは違う。ただ、「東京には二度といかん」「子どもたちの世話にはならん」というセリフもあった。形を変えた「漂流」である。「老人はお国のために死んでください」。これが21世紀版「東京物語」のテーマではないかと考えた。
なお役者では、紀子(蒼井優)、庫造(林家正蔵)がよかった。またチョイ役だが居酒屋のおかみ・かよ役風吹ジュンがママさんとしてのリアリティがあり、とてもよかった。
また山田監督は隣の中学生・ユキ役の荒川ちかをとても気に入っておられるようだ。今後10年くらい映画をつくり続けるなら、寅さんシリーズの後藤久美子のように、きっとこの人がマドンナになるまでずっと登場するのではないかと思った。
その他のスタッフで、スペシャルアドバイザー・横尾忠則という名があった。いったい何をしたのかわからない。昌次のアパートはたしかにY字路に建っていたが・・・。なお山田監督と横尾氏は成城の同じ町内在住で蕎麦屋で出会うことがあるそうだ。また音楽は久石譲だった。久石の音楽については特にいうことはないが、「東京物語」の音楽は斎藤高順だった。映画全体が「あーりがーと」というのんびりした尾道弁のリズムと調和していたが、音楽ものんびりしていた。

映画をみてから柴又の山田洋次ミュージアムに行ってみた。昨年の年末12月15日にオープンしたばかりの施設だ。山田はデビュー作「二階の他人」(61年)以来50年で80本以上の作品を監督した。ここですべての作品の予告編をみることができる。わたしは「男はつらいよ」以前の「ハナ肇の一発大冒険」や「九ちゃんのでっかい夢」はみていないが、それ以降はたいていみているような気がしていた。しかし「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」など時代劇でみていないものがいくつかあるし、「京都太秦物語(2010年)のことはまったく知らなかった。

従来からある「寅さん記念館」と道路1本隔てた南側にある。
「寅さん記念館」もリニューアルでタコ社長の朝日印刷所が増設された。ちゃんと看板や2階もついている。思ったより小さかった。1階には小型だが活版の輪転印刷機が設置されていた。東陽町で42年間使い込まれた機械だそうで迫力があった。
余談だが、映画のなかではとバス観光のあと昼食で立ち寄るうなぎ屋は、柴又の老舗の有名店なのだそうだ。
ところで、帰りに立石のゑびすや食堂に寄った。朝8時半からやっているすばらしい店だ。かつ値段が半端でなく安い。非常に充実した一日になった。
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