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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

破綻寸前 イギリスの全国学力テスト

2007年07月26日 | 集会報告
7月22日(日)午後、中村橋のサンライフ練馬で開催された練馬・教育問題交流会学習会に参加した。
この日のテーマは、「イギリスの教育改革」と「練馬の学力調査」。
全国学力・学習状況調査は4月24日(火)に43億円もの予算を使って実施され、練馬区では中学の学校選択制度が始まっている。
教育再生を最重要課題とする安倍晋三首相がモデルにしているのが、イギリスの教育改革。その現状はどうなっているのか、2005年に1年間ロンドン大学に留学した直塚文雄さんの講演を聞いた。引き続き、区内小中学校の教員から学力テスト実施状況の報告を聞いた。

昼間の室内撮影のため逆光で暗くなってしまいました

1 イギリスの教育改革と近ごろの日本における状況
             直塚文雄さん(都立高校教員)

●ナショナルカリキュラムに基づくナショナルテスト
イギリスでは1979年に就任したサッチャー首相が88年に教育法を大改革して新自由主義的な教育を開始し、97年に就任した労働党ブレア政権でも大筋は引き継がれた。キーワードは「競争」と「効率化」である。
ナショナルカリキュラムに基づくナショナルテストは11歳、16歳、18歳で全国一斉に実施され、その結果はリーグテーブル(学校成績順位一覧表)で公表される。義務教育修了時の16歳で受験するテストはGCSE(中等教育修了試験)という名称である。
ナショナルテストの成績は年々向上している(例 C以上の人数32%(88年)が99年には56%へ増加)。しかし経済界から「高卒者が相応の学力を身につけていない」という批判も少なくない。
またナショナルテストはレベルが低いので、有名大学はインターナショナルGCSEやケンブリッジ・プレU(2008年開始予定)を利用する動きもみられる。

●ナショナルテストや学校監査の弊害
学校教育でナショナルテストが重視された結果、足立区で発覚したのと同様、校長のカンニング促進という不正が増えたり、成績が伸びそうな成績別クラスにのみベテラン教師を配置し重点的に教育するトリアージュという差別的な体制を取る学校も増えている。授業でも「これはナショナルテストに出題されるぞ」と教師が連発するのを実際に自分の目で見た。
さらに生徒を退学させたり、特定の授業に出席させない(つまりナショナルテストを受けさせない)エクスクルージョンの人数が1990年代に1万人を越えるまでに激増した。
またオフステッド(教育監査局)の学校監査は授業内容を歪め、結果を苦にして自殺する教員も出ている。1993年から9年間で50校もの学校が廃校に追い込まれた。監査団のメンバーは純然たる公務員ではなく、退職校長などが民間企業で多少の訓練を受けて派遣されているケースが多い。

●民間企業による教育支配
「教育ビジネスはもうかる、今後は実績を生かし輸出産業にしよう」という風潮もある。
LEA(地方教委)に主なサービスを外注するようにという圧力がかかり、リーズ(マンチェスターの東北60キロにある70万都市)ではLEAそのものが民間に譲渡された。
国家試験であるGCSEの実施団体になっている民間企業(Edexcel)すらあり、テスト勉強用の補助教材は親会社のピアソンが販売している。日本でたとえると、旺文社の子会社と東大が組んで全国テストを開発して実施し、旺文社が受験教材を販売しているようなものだ。ちなみにピアソンは日本の桐原書店に資本参加し、経営陣を送り込んでいる。
民間企業は学校の建物リース、カリキュラムの開発、教員の人材派遣に進出している。ただ建物リースは維持費まで含めるとかえって高くなる例もある。民営化されたからコストが下がるわけではない。
さらに、3分の1の学校が民間企業の運営に移行することになりかねないとの報道もある。GEMS社はイギリス、インド、中近東で学校を展開し、5年以内に120校を経営する目標を掲げている。
なおアメリカでは165のチャータースクール(特別認可の公立学校)の4分の3をエジソンスクールなど民間企業が運営している

●学力向上見られず破綻しつつあるナショナルテスト
高等教育への進学率は38%と大幅に上昇した。しかしユニセフ調査に見られるように学力は相変わらず先進国の下位1/3に止まる。これは公教育が浸透していない国レベルということである。そして16―18歳人口の3/4がニートだといわれる。
また日本の「学習疲れ」のような現象が生じており、いじめ発生が39%(日本は14%)と高く、相手を殴り殺すような事件まで報道されている。精神的な病気をもつ児童・生徒が多い。
すでにウェールズや北アイルランドはナショナルテストのような外部テストをやめ、スコットランドではもともとリーグテーブルを公表せず、残るはイングランドという状態になっている。そのイングランドでも、全国校長会から教師によるカンニング推奨の続発などから反対の声が上がっている。背景にはテストの点数は上がったが、内容に問題があり、子どもは病んでいることがある。
ナショナルテストとリーグテーブルの終焉は近いと言わざるをえない。
なお、話題の教育バウチャーについては、少なくともサッチャーの時代には実施されていなかった。理由は、あまりにも民間ビジネスの対象になりすぎるという危惧からだった。
校長や教育委員会は教育関係者でなくてもよいという動きもある。また校長が1校に1人いなくても、1人が数校を管理するようにすればよいとの教育雇用相の発言もあった。教育の実質そのものを問い直し、民間企業依存の論理を覆さないければ、教育者の「脱専門家」「脱無力化」の波は止められないのではないか。

2 練馬における学力テストの実施状況

●小学校の教員より
練馬区の小学校では、4年生が区、5年生が都、6年生が国の学力調査を受けている。都のテストは2006年1月に国語・社会・算数・理科の4教科が実施され、私の学校では昨年10月末の「学校だより」で都・区・学校の内容項目別と観点別の平均点が公表された。こういうものを配布されると、自分の学校と区や都との点数差を比較するのが人情である。学校だよりにも「本校児童の傾向」として、強い項目や今後教科する項目の分析が出ている。
しかし、たった一度のテスト結果、それもわずか1~3点程度の平均点の点差で短絡的に対策を含めた結論を出すことには疑問がある。テストの正解率を上げることより、一人一人子どもと向き合うことが重要なのではないか。
学力調査と同時に学習意識調査も実施される。たとえば区の調査には「学校のじゅ業は、よくわかりますか」「算数の勉強は、すきですか」といった質問に5段階評価答えるものが合計35問。区の集計結果は、算数でいうと「すき」が55%になっている。しかし「次は算数なんだもん」と言って、いつまでも音楽室に居残る生徒も多い。生徒の「本音」も考えるべきである。

●中学の教員より
中学では、1年生が区、2年生が都、3年生が国の学力調査を受けている。区のテストは2006年1月、1年生を対象に国語・数学・英語の3教科で実施された。
教員の間に、こういう問題で点数が少し高いとか低いという結果で何が評価できるのかという疑問があり、学力調査の結果は授業の改善にあまり活用されていない。教員は自分の学校にどんな課題があるかということは前もってわかっている。外部との比較に利用する程度のことだ。
足立区でみられるように、去年と同じ問題を何度も練習すれば点数がぐんと上がることははっきりしているので、「学力とは測定できるものか」というところまで戻って考えるべきである。

☆パート1についていくつか間違いがありました。そこで8月10日、リーグテーブルでの公表年齢、ケンブリッジプレU、ピアソンと桐原書店の関係の計3か所を訂正しました。
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