あめ~ば気まぐれ狂和国(Caprice Republicrazy of Amoeba)~Livin'LaVidaLoca

勤め人目夜勤科の生物・あめ~ばの目に見え心に思う事を微妙なやる気と常敬混交文で綴る雑記。
コメント歓迎いたします。

本の虫行動学 第四景

2008-09-07 23:56:26 | 雨場毒太の読書生活録「本の虫行動学」
「脚本 シナリオ 小説」

小説家とは、物語を作る仕事である。しかし、物語を作る仕事は小説家に限らない。「脚本家」や「シナリオライター」という職種もあるのだ。
さて、この世に数多いる小説家の中には、脚本家やシナリオライターから小説に進出した人々も存在する。今日の話題はそういった人々について。


天童荒太は、かつて映画の脚本を書いていた。この人は一度栗田教行名義で新人賞を受賞した後8年間小説から離れ脚本家として活動し、筆名を変えて「孤独の歌声」で再デビューしたのだが、これがサスペンス性の高い、映像化向きと言える小説であった。実際、WOWOWにてドラマ化されている。他にも天童作品は「永遠の仔」が連続ドラマに、「包帯クラブ」が映画になっている。

真保裕一も元々はシンエイ動画に勤めるアニメ脚本家だった。テンポが良くて冗長な部分のない展開は、いかにも映像的だと感じさせる。「ホワイトアウト」が映画化されて大ヒットを記録したことは皆さんも御存知のことであろう。彼は小説家としてデビューすると同時にシンエイ動画を退社したのだが、その後も「ドラえもん」映画の脚本を手がけたりしている。

脚本家と小説家の仕事を完全に並行して行なっていたのが野沢尚で、「魔笛」をレビューした時も述べたが、様々な要素がふんだんに盛り込まれているところも、視点と時間が頻繁に移動するところも実にドラマ的である。この人が脚本を務めた作品は「劇場版名探偵コナン ベイカー街の亡霊」が実に面白かった。ファンからは賛否両論の作品でもあるが。
彼は2004年、NHKスペシャル大河ドラマ「坂の上の雲」の未完の脚本を遺して自殺した。理由は不明だが、惜しまれる死である。


元来脚本と小説を両方書くという人は日本には多く、そもそも、「novel」という英単語に「小説」という訳語を与え、評論「小説真髄」と、それに続く小説「当世書生気質」を発表し、日本の近代文学に先鞭をつけた坪内逍遥からして、一方で歌舞伎戯曲の名作「桐一葉」を作るなど劇作家としても活躍している。
その後も菊池寛、山本有三、戦後になっては向田邦子、井上ひさし、つかこうへいなど、「小説家兼脚本家」の系譜は脈々と続いているのだ。

つい最近では、現在幻冬舎が強力にプッシュしている木下半太という作家(舞台脚本家でもある)が、「小説家兼脚本家」らしい映像的な小説を発表している。ご興味のある向きには、一読をおすすめしたい。


さて、準文学の世界に目を向けてみると、脚本家出身の作家はぐっと少なくなり、むしろ目立つのは、準文学作家として有名になってから脚本も手がけ始めるというパターンである。

例えば賀東招二は、自身の代表作「フルメタル・パニック!」のアニメ化の際脚本を書いたほか、「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」などの人気アニメの脚本を手がけているし、最近は一般SF作家として知名度を得てきた野尻抱介も、アニメ「ギャラクシー・エンジェル」でシナリオを書いた。藤咲あゆななどは、脚本家の仕事の方がメインになりつつある。

なお、数少ない例外の「準文学作家である以前に脚本家」である人物としては、清水マリコが挙げられる。彼女の小説家デビューは1996年の『うろつき童子 超神伝説1』(ワニマガジン社)だが、その遥か以前、1988年から彼女は劇団「少女童話」の主宰として脚本・演出を担当している(現在は活動休止中)。脚本家らしく、会話運びの巧みさに定評がある。彼女の小説は長らくコミックやゲームのノベライズに限られていたが、2002年に初のオリジナル作品『嘘つきは妹にしておく』(MF文庫J)が刊行された。これは「少女童話」で上演された『ザ・ゴールデンアングラ』という劇の台本が作中で重要な役割を果たしており、脚本家出身という経歴が活かされた作品となっている。


さて、脚本家出身の準文学作家は少ないが、逆に一般文芸作家には少なく準文学作家には多い出自がある。それが「ゲームシナリオライター」である。

今をときめく“準文学出身直木賞作家”桜庭一樹は、かつて「山田桜丸」名義でゲームシナリオを発表していた。とはいえそれ以前にゲームノベライズを書いたのが作家デビューなので、「シナリオライター出身作家」とは言い難い。

私の本棚からシナリオライター出身作家を探してみると、魁「死神のキョウ」(一迅社文庫)なんてのが見つかる。正直なところ、この作品を読んだ感想は「文章力に難あり」だった。いろいろな要素が休むことなく読者の前に提示される点は、脚本家出身小説家と共通しているのだが、それらが描写しきれていないがために、未消化のままシーンが次へ次へと進んでいってしまう印象が残る、とでも言えばいいだろうか。

シナリオライター出身作家としてまず有名どころとして挙げられるべきは奈須きのこであろう。アダルトゲームで次々とヒット作を飛ばしたのち、講談社から小説家としても颯爽とメジャーデビュー。現在は「ファウスト系」の一角として活躍している。
「ファウスト系」の「ファウスト」とは講談社の文芸誌「ファウスト」のことなのであるが、この雑誌がなかなか曲者で、シナリオライター出身作家を続々世に送り出している。奈須きのこの他にも「ひぐらしのなく頃に」が大ヒットした竜騎士07などがいる。
などと知った風な口を利いてみたが、もともとファウスト系の作家は好きではなく、実はあまり知らない。奈須きのこにしたって「空の境界」を読んだきりであり、しかもそれをアメーバ裏書籍大賞で酷評したのである。その酷評の中で私は「もともと画が別にある世界出身の人の弊害」について述べたが、それは先述の魁についても同様のことであった。


さて、その奈須きのこが「絶対に超えられない壁になる作品」「これを薦めることは自分の首を絞めること」とまで言って絶賛したアダルトゲームがある。その名を「CROSS†CHANNEL」という。シナリオを手がけたのは田中ロミオ。

この田中ロミオは、後に「人類は衰退しました」(ガガガ文庫)で初めてライトノベルに進出したのだが、私はこの人以上の文章力を備えたシナリオライター出身作家を知らない。
「CROSS†CHANNEL」のストーリーと非常に酷似した内容の小説がケータイ小説の新人賞を受賞し、盗用騒ぎが起きたことがあるのだが、その時も「ストーリーはともかくとしても、文章力の時点でパクリの方が圧倒的に負けている」という意見が多数上がったほどで、もともとこの人の文章力を評価する声はあったらしいのだが、とにかく言語感覚が素晴らしく、オリジナリティのある表現が光っており、ストーリー構成もまた巧みなので、私の最注目準文学作家の一人である。


肯定否定織り交ぜてぐだぐだと語ってみたが、これからも脚本家やシナリオライターの中から、良い小説家が生まれてくることを祈りつつ、この乱文の締めくくりとしたい。


(注:なお、私含め全人格の名誉のために付け加えておくが、どの人格も年齢制限のあるゲームは一切プレイしたことがないので、念のため。)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿