poems_4

ここには、詩を載せていきます。

爪と牙

2016-10-15 08:27:24 | 詩形式の物語
「王妃さま、おけがは?」
「ない」
騎士は、狼の魔物を斬り伏せた
戦ったときに
わずかに魔物の爪が
騎士の手の甲を傷つけていた

王妃のために戦えることは
騎士の無上の喜び
遠く、レンスターの城まで送り届ける役目を
騎士は誇りに思っていた

そして三日後、
満月の夜がやってきた
ふたりは火を起こし
野宿していた
雲間から狂おしげな満月のひかりが
にらむように輝いた

「どうしたのです、苦しいのですか?」
「ぐあああ」
騎士は、変貌をとげた
ひととも狼ともつかないすがたへと

そして、明け方になって
騎士がその意識をとりもどすと
爪と牙に裂かれた
王妃のなきがらがあった
騎士のなかにかすかに残っていた
血の記憶がよみがえった

王妃なきいま
生きるよすがをもたない
何度も死のうとした
けれど、死ねなくてさまよった

つぎの満月の夜
エルトの町
さわぎがあり、眠りをさまたげられたのは
年若きコルルという僧侶だった
「たいへんです、僧侶さま
 狼の魔物が、町をおそっています!」

案内されていくと
狼がひとを食らっていた
僧侶に気がつき
牙をむき
襲いかかっていった

コルルは杖をふりかざした
「魔物よ、動きをとめ彫像となれ!」
すると、運よく魔法が効いた
狼はぴたりと動きをとめ
彫像のようにこわばって、ぴたりと
襲いかかろうとした姿勢のまま動きをとめていた

人々はざわざわと集まってきて、僧侶にきいた
「で、こいつをどうなさるんで?」
「殺せ、殺せ、おれの家族がこいつに殺されたんだ!」
コルルはいった、
「わたしが、この魔物のことは責任をもつ!」

彼は気づくと、
裸のまま、両手を縛られていた
すでに
ひとの姿にもどっていた
年若き僧侶が
じっと彼を見つめていた

「殺してくれ」
彼は、僧侶に懇願した
しかし、コルルは首をふった、
「わたしは
 おまえを生かそうと思う
 おまえは狼となって
 ひとを襲っていた、記憶はあるか?」

「おぼろげに」
「最近、狼に噛まれたり
 爪で傷つけられたことはなかったか?」
「王妃さまを守って
 狼の魔物と戦ったことがある」

彼はつづけた、
「でも、爪が手の甲をかすっただけで
 傷つけられてはいない」
コルルはいった、
「そのとき、呪いの毒がはいりこんだに違いない」

「殺してくれ…
 わたしは、王妃さまを…」
「おまえは、生きなければならない
 わたしには
 おまえを救う手立てがわからないが
 レンスターに住んでいる、わたしの師匠なら
 なにか方法があるかもしれない」

すっかり彼が正気なのを見て
コルルは
縄を解き、服をさしだした
そしてふたりの旅がはじまろうとしていた

日が沈もうとしていた
もうすぐ、満月の夜がやってくる
旅の途中だった
コルルは彼の手を縛った

血のように赤い夕陽だ
「ああ、おれは狼になるのか
 もうこれ以上
 忌み嫌われた魔物として生きたくない
 王妃さまを
 この手にかけたわたしには生きる値打ちがない」
「死んでどうする!
 王妃が戻ってくるのか?
 生きのびるんだ、どんなときでも希望を捨てるな!」

縛られた彼のために
コルルは笛をとりだして奏でた
王妃をとむらうレクイエムだった
彼は苦しげにそれを聞いた

つぎの日は
旅館に泊まることができた
「きのうは、すまない
 あれは弔いの曲だったのか?」
「よくわかったな」
「王妃さまは
 おれが魔物を倒すたび、あれを奏でた」

コルルはなぐさめの言葉をさがしたが、
見つからなかった、
「食事にいこう」
ぽん、と彼の肩に手をおいた

階下におりていくと
シチューのいい匂いがしていた
「さ、食べてくれ…どうした?」
「ふしぎなものだな
 なぜ生き物はほかの生き物の命を奪うのだろう」
すると、コルルはいった、
「罪は、ゆるされる」

布団にくるまって眠りながら
彼は苛立ちを抱えていた
まだ満月にちかい月の光がそうさせる
けれど、もう誰も手にかけたくない

レンスターが近づいていた
けれど、旅の途中で
二度目の満月を迎えようとしていた
明日だ

たき火のそばで眠りながら
彼はひっしで苛立ちを押し殺していた
ちらちらと
またたく光が見える

声がきこえる
「僧侶だ!」
「いけすかない僧侶だ!」
「こいつにだけは、
 滝への道をおしえるものか!」

彼は目を覚ました
ちいさな妖精たちが踊っていた
コルルは
眠ったふりをつづけていた

妖精たちは歌った
「滝への道をおしえてやらない
 僧侶になんかおしえてやらない
 おいらたちを追っ払う
 性悪僧侶には…」

歌が終わり、
コルルは起きて拍手をした
そして、
笛をとりだしてレクイエムを吹いた

こんどは
妖精たちが拍手をする番だった
「やるじゃん、僧侶!」
「僧侶だけどおもしろいやつ!」
にへら、とコルルがわらいながらきいた
「滝への道をおしえてくれない?」

「いいとも!」
「クリスタルの滝に身をひたせば
 どんな病も
 どんな呪いも解けるんだ」
「そのかわり、
 もう一曲きかせておくれよ!」

妖精たちは
先に立って舞っていった
コルルと彼は
それにつづいた

老婆が滝の入り口にいた
「タオルは銅貨三枚」
コルルが彼のためにタオルを買った
さらに奥にいくと
きらきらと月光をあびてきらめく滝があった

彼は、さらさら流れる
滝の水を浴びた
その瞬間、いままでおそっていた苛立ちが
うそのように消えた
「治ったのか?」
「ああ」
コルルが、笛をとりだして吹いた
こんどは陽気な曲だった
妖精たちが、それにあわせてほがらかに歌った
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