私は詩を書く人

昨日を書き、今日を書く。明日も書くことだろう。

少年

2016-10-20 06:16:57 | 

少年

二〇一一年三月十一日

 

        

 

海岸線沿いの

村落一つが津波に飲み込まれた

 

すぐに

父と母は星になった

 

海へと流されていった

祖父と祖母は

まだ帰ってこない

 

少年は

一人になってしまった

 

少年の心の中には

怒りや悲しみがいっぱい生まれた

 

夜になると

記憶にあったものを

吐き出し

それを一つずつ確かめては

また戻していく

 

そこから

生活の匂いが

甘酸っぱく競りあがってくるのだ

 

そして夜の長さを

泣くだけ泣いて

その中で また泣いた

 

誰にも言えない

秘密の時間のように

 

見る夢は

怒り狂った大きな波だ

凶器となって

頭の中で回転する

 

ぶくぶくと

溺れる声がして

 

少年から離れて

遠くへと流されていった

手の感触を

思い出したりもする

 

あの日からだ

少年が

いつも四方に向かって

身構えるようになったのは

 

少年は

三つ大人になった

 

何も変わらないものばかりだが

手から離れていった

二つの星は

胸にしまい込んでいる

 

いまも 祖父と祖母の帰りを

待っている

 

人生に句読点をつけた

父と母

 

長い留守をしている

祖父と祖母

 

三年という月日が

削り取られてきたが

少年の心は

あのときのままだ

 

 (詩集 桜蛍)

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