風のアダージョ

切なさの向こう側、樹木を渡る風笛が聞こえる

罠 (二)

2017-07-17 | 自作小説
 事務所に戻ると、娘は、儚げに座っていた。結城を見ると立ち上がり、ピョコンとお辞儀をした。
それが結城には可愛く思え、それまでの苛立っていた気持ちが和らいでいくのを感じた。
「ずいぶん待たせてしまったね。私に用があるんだって?何かな?」
娘は、14~5歳だろうか、白いブラウスに紺のプリーツスカートを穿いている。髪の毛を三つ編みにしたその顔には、あどけなさが残っていた。

 娘は、高木麻耶と名乗った後、”結城賢治様”と表書きしてある白い封筒を手渡した。しっかりと糊づけされたわりには、その封筒の厚みは薄かった。
丁寧にハサミで封を開けると、新しい白い便箋と黄ばみかかった便箋が出てきた。
一枚の白い便箋には、『この子が成人するまで、面倒を見てやってください。突然のご無礼をお許しください。高木佳代子』と、だけ書いてある。タカギカヨコ?結城は、思い出せなかった。高木という支援者がいたかなと考えたが、思い出せないままもう一枚の古びた便箋を開いた。 写真が一葉挟んである。目に飛び込んできた文字を見て、結城は血の気を失った。それは、自分が昔書いたものであった。写真に目を移すと、麻耶と女性が写っている。結城は、その女性に見覚えがあった。身体が小刻みに震え出すのを隠しながら、冷静さをなんとか保つ。

「この人は、君のお母さん?」声がかすれた。「はい、母です。」写真を覗き込みながら、麻耶が頷く。赤ん坊の時に、父親を亡くし、母の佳代子が、旅館で住み込みの仲居をしながら、麻耶を育ててくれた。その佳代子も、先日病気で亡くなった。亡くなる前、結城先生に会いに行くようにと封筒を渡された。旅館の女将は、このまま住み込みで母のように働かないかと言ってくれたが、先日中学を卒業したので母との約束通り、結城に会うために上京したと話す。

 ボランティアで事務所の手伝いをしてくれている山川聡子が、麻耶を一晩あずかってもいいと申し出てくれた。
40代の聡子は、一人暮らしで面倒見がよい。世話好きな聡子になら安心して任せられる。とりあえずホッとしたが、しかし、いったいどういうことなのか?麻耶の面倒をみてほしいとは?なぜ自分に?なぜ佳代子は、自分に娘を託して亡くなったのだろう?
 結城は、一晩中、まんじりともできなかった。




To be continued

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