詩の本

日本近代象徴詩関連の書籍を紹介

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論文をウェブに公開しました

2016年05月30日 12時48分34秒 | お知らせ

「詩の本」ブログで紹介した、川路柳虹について調べた論文「川路柳虹と象徴主義・自然主義・印象主義・頽唐派」を、『京都ノートルダム女子大学研究紀要』第45号(2015.3)に掲載しました。
京都ノートルダム女子大学図書館学術研究リポジトリで、ウェブ上に公開しました。よろしければ御覧ください。(リンク先)
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堀口大学訳  醉ひどれ舩  日本限定版倶楽部

2016年02月15日 04時34分32秒 | 訳詩集


【書誌】
本体 縦二六〇×横一八七ミリ〔判型 二五五×一八二ミリ 菊判〕未綴仮装
函  縦二七〇×横一九五ミリ 薄茶色 身蓋式
本文 三六頁 一段組
 仮綴装。本体は綴じられておらず、五台の折丁が、三本の金糸と二本の銀糸で、白の仮表紙に結びつけられている。仮表紙は、先に上下、次に左右と四方を折り込んだ厚紙で、表側にハトロン紙を付す。本体用紙は、「日本限定倶楽部」の文字が下部に漉き込まれた耳付き局紙。初めの折丁は、白紙四頁、金糸が通されている。二つ目の折丁は、八頁の折丁の中に、本文とは異なる薄い灰色の四頁折丁が本扉として挿まれ、銀糸が通されている。この薄灰色の折丁の三頁目の上部には、黒インク右書きで「アルチュル・ランボオ」、薄緑インク右横書きで「醉ひどれ舩」、黒インク右書きで「堀口大學譯」、中央に日本限定版倶楽部の紋章、その下に三行にわたり、黒インク右横書きで「東京」「日本限定版倶楽部」、左横書きで「1934」と印刷されている。本扉となる薄灰色の紙が挿入された次の頁が扉となり、縦書きで「酔ひどれ舩」と印刷され、その裏の頁は白紙、次の頁より本文が始まる。本文は、二つ目の折丁の最後の二頁のみである。三つ目の折丁は八頁からなり、すべて本文が印刷されており、銀糸が通されている。四つ目の折丁は八頁からなり、三頁に本文、次頁が白紙、次頁が奥付、次の三頁が白紙となっており、金糸が通されている。五つ目の折丁は、白紙四、金糸が通されている。
 付録として、八頁の綴じ無し冊子が付されている。縦一九六×横一三八ミリ。二葉の挿画と、アルチュール・ランボー(ARTHUR RIMBAUD)「酔いどれ船」(VATEAU IVRE)のフランス語原文が掲載されている。
 本蔵書は、『書物』第二年第一冊(昭和九年一月)掲載「日本限定版倶楽部消息」に予告されている「原色挿画」を欠いている。本書の「原書が三百五十部の限定版」で、「アルチュル・ランボオの詩一つ一つに一つ宛の挿画を手彩色で描いたもので大変貴重なもの」だが、これを「原画と見わけのつかない程の十数度刷の木版に移し」たものだという。「作者はFEDER氏木版は木版芸術の大家岩田泰治老」で「日本紙鳥の子紙に移し」たものである。「《この挿絵は額縁用としても立派なものでもし希望者がありましたら十四五枚余分が出来る筈ですから一枚三十銭で、限定出版倶楽部会員に限りお頒ちいたします。》」と同誌に告知されている。

【奥付】
印 刷 昭和九年一月二十日
発 行 昭和九年二月一日
    非売本
訳 者 堀口大學
装 釘 秋朱之介
    淀橋区戸塚町一ノ四四九
発 行 竹内富子
    牛込区山吹町一九八
印 刷 萩原芳雄
製 本 橋本久吉
発行所 日本限定出版倶楽部
    東京市淀橋区戸塚町一ノ四四九
    電話 牛込四〇一六

【目次】
酔ひどれ舩
【所蔵】
国立国会図書館         ○
日本近代文学館         ×
北海道文学館高橋留治文庫    ×
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

【解題】
 本書は、日本限定版倶楽部が発行する、堀口大學訳アルチュール・ランボー「酔ひどれ船」限定一五〇部印刷本である。京都ノートルダム女子大学図書館所蔵本は、「第七十五番冊子」である。
 日本限定出版倶楽部は、装丁家秋朱之介が設立した会員制の限定出版書肆である。毎月一円を三ヶ月積み立て、一冊発行するという計画だった。本書は、その第一回配本である。ただし、昭和八年一二月に臨時出版として、堀口大學訳レイモン・ラデイゲ『ドニイズ』限定二五〇部がある。秋朱之介(あきしゅのすけ 本名西谷操)〔明治三六生〕は、詩作を志して大正末年より堀口大學に師事し、昭和初めより限定本出版に携わった編集者、装丁家である。(*「堀口大学訳 酔ひどれ船 特製本 伸展社」の項参照)
 本書以後に出版された、伸展社版『酔ひどれ船』の本文は、ルビ一カ所の異同以外は、本書と同じ。装幀、組版を改めて出版したことになる。この時期に「酔いどれ船」を単独で出版した例は、他に小林秀雄訳『酩酊船』(白水社、昭和六)がある。これも青山二郎装幀による二三〇部限定出版。これ以前に刊行された翻訳は、『上田敏詩集』(玄文社、大正一二)に収録された、上田敏訳「酔ひどれ船(未定稿)」がある。
 以下に「酔ひどれ船」本文、一頁から二頁に掲載された四聯二〇行を示す(ルビは括弧内に示す)。原詩が一聯四行構成になっており、本書では、一聯を一頁に配置している。

非情の河また河と下(お)りゆくに
船曳人(ふなびと)が綱を引く手の覚えいつか失せたり、
喧(ののめ)き喚(をめ)く赭肌(あかはだ)の蛮人等(ばんじんら)、水夫(かこ)を裸になして、
彩(いろど)れる杙に釘付け、射(い)殺して果てたれば、

フラマンの小麥、イギリスの綿花運ぶ我に、
乗組の憂き目など關係(かかはり)もなき空事(そらごと)ぞ。
船曳等去(い)んでより、擾(じやう)々のはたと熄み、
河はわが思ひのままに我を運び行きぬ。

猛りどよめく大海(たいかい)の潮(うしお)のままに、
その冬ゆ、ひた走(は)せたり、幼兒(みどりご)の頑是(ぐわんぜ)なき如(ごと)、
本土(くが)と切れ海底(うなぞこ)へ陥ち沒(しづ)むべう半島なりとも、
かかる激(はげ)しき混沌に曾つて揉まれしことやある。

朝朝(あさなあさな)の海の上(へ)のわが目醒をば嵐の呪ひぬ。
限りなき牲(にへ)の貢を浮ぶてう波の上(へ)にして、
跳りぬ我はコルクの栓よりも身は猶輕(かろ)く、
幾夜さり、行船(ゆくふね)の眠む氣(げ)なる舷燈も顧(かへりみ)ずして。
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鈴木信太郎訳  ポエジイ  白水社

2015年11月03日 14時25分07秒 | 訳詩集





【書誌】
本体 縦三二〇×横二一五ミリ〔判型は本体と同じ〕 白
帙  縦三二〇×横二一五ミリ (収納時) 灰色
函  縦三三〇×横二二〇ミリ 灰色
本文 一四五頁 一段組

フランス装並製本、角背、和紙貼帙、差込式和紙貼函付。本体は紙表紙を折り込んだフランス装。見返し側に三方折込み。本体表紙から裏表紙にかけて、古代ローマのトガを纏った群像、帆船、洋館、馬、気球、地球の公転図などを組み合わせた図版が印刷され、表紙には「Poésies」の文字が配される。図版は、高畠達四郎による。セロファンの保護紙付。帙および函は、和紙貼装。帙に紐はなく、本体を挟み込む形。背には「ポエジイ 鈴木信太郎」の筆字が印刷されている。函の表側には、赤色の題簽が貼付されている。題簽は、赤地に白で「ポエジイ」「鈴木信太郎」の文字、頭に籠を載せたローマの女性の意匠が印刷されている。
本文は耳付きの和紙。天、地、小口側を広くとった版面。見返し裏頁右上に、チューリップの意匠を色刷りした蔵書票が貼付されている。上部に手書き「ex.LIbRIS」の文字、下部に手書き「S.INAGAKI」の署名。扉は、上部に筆書による「Poésies」の文字、その下左側に筆書「ポエジイ」、中央に裸婦の絵、右下に活字で「鈴木信太郎譯」「白水社刊行」が二行にわたり印刷されている。各章扉は、作者名が、上部左寄りにフランス語アルファベット表記が朱色横書、その下に日本語表記黒色縦書で印刷されている。それぞれの詩の題名は朱色。奥付の次々頁に貼付された標題紙に次のように記載される。「本書は限定印行発行部數五百。/その三十五部は、越前國今立郡岡本村杉原半四郎 別漉鳥子程村紙刷、漢字番號壹より參拾五に至る。内、壹より拾八までの十八部、非賣。/その二十五部は、信濃國戸隠山中柵 佐藤善一朗 特漉月明紙刷、羅馬數字番號ⅠよりXXVに至る。内、ⅠよりVIIIまでの八部、非賣。/その四百四十部は、信濃國麻績矢倉 平田吉雄  特漉山鹿紙刷、亞刺比亞數字番號1より440に至る。内、1より17までの十七部、非賣。而して本冊はその」京都ノートルダム所蔵本は「第58」。
【奥付】
印 刷 昭和九年十一月 十日
発 行 昭和九年十一月二十日
定 価 五圓
訳 者 鈴木信太郎
発行者 岡 
発行所 白水社
    東京市神田區小川町三丁目八番地
印刷者 白井赫太郎
印刷所 興社印刷所
    東京市神田區錦町三丁目十七番地
    印刷担当者 横井作次郎
製本者 中野和一
製本所 中野製本所
    東京市京橋區越前堀三丁目二番地
    製本担当者 麻生勇助
【目次】
シャルル ボオドレエル
 交感 猫 旅のいざなひ
ボオル ヴェルレエヌ
 都に雨の降るごとく しなやかなる手の接吻くるピアノ グリイン
ステファヌ マラルメ
 海の微風 詩の賚 聖女 道化懲戒 禮 半獣神の午後 冬の戦慄 未来の現象
アルチュル ランボオ
 小年時
ジャン モレアス
 賦
エミル ヴェルハアレン
 雨
アンリ ド レニエ
 爐火
レミ ド グウルモン
 ゆふぐれ

【所蔵】
国立国会図書館         ○
日本近代文学館         ×
北海道文学館高橋留治文庫    ×
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔明治大学、青山学院大学、明星大学、立正大学、静岡大学〕

【解題】
 本書は、鈴木信太郎によるフランス訳詩集である。鈴木信太郎(すずきしんたろう)〔明治二八~昭和四五〕は、フランス文学者、翻訳者。大正一〇年より東京帝国大学仏文科に教員となり、同僚の辰野隆(たつのたかし)〔明治二一~昭和三九〕と共に、日本におけるフランス文学研究の推進に貢献した。二人が在職中に、渡辺一夫、小林秀雄、中嶋健蔵、今日出海ら、新進のフランス文学者を輩出し、帝大仏文科は文学者の拠点ともいうべき趣があった。翻訳に、マラルメ『半獣神の午後』(江川書房、昭和八)、『ヴィヨン詩鈔』(全国書房、昭和二三)等、研究書に、『ヴィヨン雑考』(創元社、昭和一六)、『フランス象徴詩派覚書』(青磁社、昭和二四)等、また、『フランス詩法』上、下(白水社、昭和二五、二九)により芸術院賞を受賞。
 鈴木信太郎はすでにフランス詞華集として、『近代佛蘭西象徴詩抄』(春陽堂、大正一三年)を刊行しており、収録作品が重なるものもあるが、構成は異なっている。『近代佛蘭西象徴詩抄』は、詩の他に、詩人に対する回想や批評など同時代の文章の翻訳を載せ、象徴詩を紹介する啓蒙的な意図がある。本体は、一九三×一三〇ミリ、判型一八七×一二五ミリ、四六判、紙装上製本、丸背、差込式貼函付。これに対し本書は、大版の書籍で、序や解説はなく、装幀や詩を直截に味わう作りとなっている。本書に収録された詩のうち、ボードレール「交感」「猫」、ヴェルレーヌ「都に雨の降るごとく」「しなやかなる手の接吻くるピアノ」、ランボオ「少年時」、ヴェルハーレン「雨」、レニエ「爐火」は、『近代佛蘭西象徴詩抄』にも収録されている。ただし、本文は改訂されている。
 表紙画を担当した、高畠達四郎(たかばたけたつしろう)〔明治二八~昭和五一〕は、洋画家。大正一〇年より渡仏し、現地で創作活動を行い、昭和三年に帰国した。この間、大正一四年、友人の鈴木信太郎をパリに迎えている。帰国後は、フランスの風景を題材とした作品を発表する。自然観照に基づくプリミティヴィスムが、その作風とされる。昭和二七年「暮色」で第三回毎日美術賞を受賞した。(『日本美術年鑑昭和五二年版』東京国立文化財研究所)
 本書には、先に紹介した標題紙に表記されていた五百部の他に、部数外の冊子が存在する。五百部のうちアラビア数字版は、限定本の内容を示す標題紙が貼付されていたが、部数外の冊子は、奥付の次々頁に、同内容が直接用紙に印刷されている。その左下に名刺ほどの大きさの紙が貼付され、「限定印形部數五百の他、特漉山家紙刷、三十部、番號AよりZ、及び、aよりdに至る、その」と記されている。京都ノートルダム女子大学所蔵本は、「第H」。
 
 次に「交感」本文を示す。


   交感  ボードレール

自然(ヽヽ)は(かみ)の宮(みや)にして、生(せい)ある柱(はしら)
時(とき)をりに 捉(とら)へがたなき言葉(ことば)を洩(も)らす。
人(ひと)、象徴(しやうちよう)の森(もり)を經(へ)て 此處(ここ)を過(す)ぎ行(ゆ)き、
森(もり)、なつかしき眼相(まなざし)に 人(ひと)を眺(なが)む。

長(なが)き反響(こだま)の 遠方(をちかた)に混(まじ)らふに似(に)て、
奥深(おくふか)き 暗(くら)き ひとつの統一(とういつ)の
夜(よる)のごと光明(くわうみやう)のごと 廣大無邊(くわうだいむへん)の中(なか)に、
馨(かをり)と 色(いろ)と 物(もの)の音と かたみに答(こた)ふ。

幼童(をさなご)の肉(にく)のごと鮮(あざ)やかに、木笛(オオボア)のごと
なごやかに、草原(くさはら)のごと(みどり)なる、薫(かをり)あり。
――あるは、腐(くさ)れし、豊(ゆたか)なる また ほこりかの、

無限(はてなし)のものの姿(すがた)にひろがりて、
龍涎(りゆうぜん)、麝香(じやかう)、安息香(あんそくかう)、燒香(せうかう)のごと、
精神(こころ)と官覺(にく)の法悦(ほふえつ)を歌(うた)へる、薫(かをり)。
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堀口大學著 ヴェルレエヌ研究  第一書房

2015年08月24日 16時22分26秒 | 詩人論


【書誌】
本体 縦二〇七×横一四七ミリ 〔判型二〇三×一四〇ミリ〕紺色
函  縦二一五×横一四七ミリ 薄茶
本文 八五三頁 一段組
 布装上製本、丸背、黒天染、差込式貼函付。本体表紙および裏表紙は無地。背に「ヴェルレエヌ研究」「堀口大學著」の文字が金箔押し。函は表に題簽が貼付される。題簽の内容は、上部に「堀口大學著」が黒、「ヴェルレエヌ」が竹色、「研究」が黒で上より並ぶ。その下に、鳩の意匠を用いた第一書房商標が竹色で印刷。その下に「東京」が竹色、「第一書房」が黒、「刊行」が竹色で、横一列に並ぶ。背に題簽が貼付。内容は、「ヴェルレエヌ研究」が竹色、その下に「堀口大學訳」が黒で印刷される。
【奥付】
印 刷 昭和八年三月十五日
発 行 昭和八年三月十八日
定 価 二圓八十銭
訳 者 堀口大學
発行者 長谷川巳之吉
発行所 第一書房
    東京市麹町區一番地五
    振替 東京六四二二三番
    電話 九段三三四四番
印刷者 萩原芳雄
制本者 橋本久吉
【目次】
はしがき
第 一 章 生ひ立ち
第 二 章 習作時代
第 三 章 市役所時代
第 四 章 「土星びとの歌」
第 五 章 「なまめかしき讌」
第 六 章 結婚
第 七 章 「やさしき歌」
第 八 章 ラムボオ
第 九 章 入獄
第 十 章 「言葉なきロオマンス」
第十一章 「教師となり農夫となる」
第十二章 「智慧」及び文學生活
第十三章 「昔と今」「愛」「平行して」「幸福」及び末年の詩集
第十四章 病院及びカッフエ時代
第十五章 その末年
第十六章 ヴェルレエヌ書史
 土星びとの歌 女たち なまめかしき讌 やさしき歌 言葉なきロオマンス 智慧 呪はれたる詩人 昔と今 或る鰥の思ひ出 ルヰイズ・ルクレルク 愛 平行して 女人たち 献詞 室内装飾及び應用美術 詩選 幸福 人さまざま かの女の為めの歌 わが病院 内なる祈り 獄中記 かの女の名譽のための頌歌 哀歌 和蘭に於ける十五日 冥府にて エピグラム 懺悔録 肉 嘲笑 第一全集 第二全集 遺稿 遺稿 オンプレス 一仏蘭西人の仏蘭西旅行 ビブリオ・ソンネ 落穂集 和蘭に於ける十五日に關する書翰集 宗教詩集 ヴェルレエヌ書翰集
ヴェルレエヌ文献
索引

【所蔵】
国立国会図書館         ×
日本近代文学館         ×
北海道文学館 高橋留治文庫   ○
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔明治大学、法政大学、日本大学、北海道教育大学、東北大学、関西学院大学、甲南女子大学、神戸大学、大分大学 他〕

公共図書館所蔵〔神戸市立図書館〕

【解題】
 『ヴェルレエヌ研究』は、堀口大學によるヴェルレーヌの生涯および作品の解説書である。堀口大學(ほりぐちだいがく)〔明治二五~昭和五六〕は、詩人、翻訳家。訳詩集『月下の一群』(第一書房、大正一四年)で知られるが、詩集『月光とピエロ』(籾山書店、大正八)、『水の面に書きて』(籾山書店、大正一〇)、『新しき小径』(アルス、大正一一)など、随筆集『季節と詩心』(第一書房、昭和一〇)などの他、詩、小説、戯曲など多数の翻訳書を出版している。ポール・モーラン『夜ひらく』(新潮社、大正一三)の翻訳は、横光利一ら後の新感覚派運動に影響を与えたとされる。(松本和男編『堀口大学研究資料集成第一輯』私家版、平成一八)
 「はしがき」に触れられているように、本書は「世界文学大綱」の一分冊として出版された『ヴェルレエヌ』(東方出版、昭和二)の再版である。再版の理由は、「先の「世界文學大綱」が、分賣を許るさない豫約による少部数の出版だつたのと、價もまた高かつた為め、ひろく一般好事家の机上にゆきわたり得ない憾みがあつた」からだという。また、「新版にあたつては、前版の魯魚の誤を訂したほか、卷末に詳細な索引を附して照合探索の便に供した」とする。索引以外は、『ヴェウレエヌ研究』の構成は、『ヴェルレエヌ』と変わらないが、組版は改められている。『ヴェルレエヌ』は、全八三九頁、一段組、紙装上製本、丸背、差込式貼函付。ただし『ヴェルレエヌ』では、「一八六九年のヴェルレエヌ(ペアロン筆)」「ポオル・ヴェルレエヌの母」「ポオル・ヴェルレエヌ筆蹟」の項目が目次に表記されながら、本文に図版が掲載されていない。『ヴェルレエヌ研究』では、「ヴェルレエヌ紀念像(ニイイテルホオゼルン・ロド作)」「幼時のヴェルレエヌ」「詩人の父」「詩人の母」「ヴェルレエヌの詩の原稿」「詩人ヴェルレエヌ像(カリエエル作)」「エドカア・カアインの描いたヴェウレエヌ」「ヴェルレエヌ(ヂェルシエル寫)」「プルセル病院に於ける詩人(一八九〇年)」「展覧會に於けるヴェルレエヌとモレアス(カザル作ポスタア)」「アカデミイ立候補當時のヴェルレエヌ」「詩人のデスマスクをとる」「ヴェルレエヌの死顔(カザル画)」「リスボンヌ病院入院中の詩人(カザル作)」の図版が掲載される。
 「はしがき」は、「昨今、仏蘭西に於いても、「詩人よ、ヴェルレエヌに還れ!」の聲のやうやく旺んならんとする時、この國の詩に關心のある精人一粲に供するを得ば幸甚である」とする。『ヴェルレエヌ研究』は、一八四四年に生まれた生い立ちから始まり、第一詩集『土星びとの歌』(一八六六)についてサント・ブーヴに書簡で激励され、『なまめかしき讌』(一八六九)出版の後、一八七〇年に結婚するといった伝記を追う。結婚前の恋慕の情を表した詩を集めた『やさしき歌』は、「詩人のペンの先からほどばしり出でた心の呼び聲」を反映した、それまでのパルナシアンの伝統から離れた改革をなしたとする。一方で「彼と結婚、それは兩立しない別個の存在であつた」とし、その不幸が後の詩業の動機となるともいう。また、もう一つの大きな事件、ランボオとの出会いが、「薄志弱行漢であるヴェルレエヌを、全然征服しつくし、魅了し、呪し」たとする。さらに、ランボオに対する傷害事件で入獄した間に、『智慧』(一八八一)に収められた信仰の詩歌を書き上げるが、「誘惑に陥り易い素質持つに到」り、「社會の外の人間」になったとする。その不幸な「ボヘミアン生活」の中で「下劣な物質的生活」の中にあって、「デリケイトな甘味の詩」と「純粋な宗教心」を維持し続けたところに、「藝術の、詩の炎」があったとする。生活を浄化した詩的表現に、ヴェルレエヌの特質を見るのである。また、本書は伝記だけでなく、ヴェルレエヌの詩作を原文、翻訳共に掲載しているところに特徴がある。詩を味わうと共に、参考文献を参照することで、ヴェルレーヌ理解を深めることができるように配慮した啓蒙書である。
 堀口大學は、第一書房が廃業するまで「二十年近く、脇目もふらずに第一書房一本でやって来たでしょう」と述べ、「僕の書いたものは、いいの悪いの選ばずに、何でも引き受けてくれた。(中略)売れそうもなくつたつて、いいものだと思えば、日本の文学の明日のために役立つと思えば、やっぱり訳したいもの。僕にこれが出来たのは長谷川第一書房のおかげでしたよ」と回顧する(関容子『日本の鶯 堀口大學聞書き』角川書店、一九八〇)。第一書房は長谷川巳之吉(はせがわみのきち)〔明治〕が大正一二年に創業、昭和一九年に廃業するまでに、詩集を中心とした文学書、哲学や音楽など文化評論を、七五〇点以上出版した書肆である。(林達夫他編『第一書房長谷川巳之吉』日本エディタースクール、昭和五九)堀口大學は本書出版以前に、『月下の一群』に始まり、アポリネール『動物詩集』(大正一四)、『ヴェルレエヌ詩抄』(昭和二)など多くの翻訳を刊行している。初期は、『上田敏詩集』(大正一四)など評価の定まった詩人の詩集や、フランス文学の翻訳、教養書の出版から始まったが、雑誌『セルパン』(昭和六・五~一六・三)の発行で、モダニズム文化を紹介する役割を担った。また第一書房は昭和初期に、『萩原朔太郎詩集』(昭和三)〔新菊判、総革金泥装三方金 六円〕に代表される「豪華版」を多く出版した。円本流行により書籍の値段が下がる中、上質な材料を使用した、上質で高価な本を販売するという、独自の経営を展開した。(長谷川『美酒と革囊』河出書房新社、平成一八)本書の二円八十銭も安価とは言えない値段である。
 次に本書より『智慧』「Ⅶ」の本文を示す。
   七
屋根の向ふに
静かに澄んだ青空!
屋根の向ふに
葉をゆる一本の木。

青空に聳えて見える
寺の鐘が鳴り渡る
木の上にとまつた小鳥が
胸のなげきを歌ふ。

ああ、神様、これが「人生」でございませう
静かに單純に其所にあるそれが。
あの平和なるもの音は
市(まち)の方から來る。

――どうしたと云ふのか
絶え間なく泣いてゐるお前は。
一體お前はどうしたと云ふのか
お前の若さを?
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三好達治訳 巴里の憂鬱  厚生閣書店

2015年06月21日 23時29分11秒 | 訳詩集




【書誌】
本体 縦一八三×横一三八ミリ〔判型は本体と同じ 四六判〕 黒色マーブル紙 紙カバー濃青色
本文 一七六頁 一段組
紙製並製本、角背。本体は、黒色マーブル紙を折込表紙とする。表紙には、囲みの中に「現代の藝術と批評叢書」「巴里の憂鬱」「シャルル・ボオドレエル」「三好達治譯」とそれぞれ黒インク右横書で上から並ぶ、オレンジ色の題簽が貼付されている。カバーは、表紙側に縦長四角の白抜きの中に、噴水の意匠、その下に「巴里の憂鬱」「現代の藝術と批評叢書」「15」「シャルル・ボオドレエル」「三好達治譯」「厚生閣書店」とそれぞれ黒インク右横書で上から並ぶ。背には、「現代の藝術と批評叢書」が二行、「15」「巴里の憂鬱」、「シャルル・ボオドレエル」「三好達治譯」が二行で、それぞれ黒インク縦書で上から並ぶ、白の題簽が貼付。裏表紙は、「現代の藝術と批評叢書」一七冊までの広告が黒インクで印刷されている。巻末広告によれば「四六判フランス装」。
【奥付】
印 刷 昭和四年十二月 十日
発 行 昭和四年十二月十五日
定 価 一圓二拾銭
訳 者 三好達治
発行者 岡本正一
    東京市麹町區下六番町四十八番地
発行所 厚生閣書店
    東京市麹町區下六番町四十八番地
    振替 東京五九六〇〇番
    電話 九段三二一八番
印刷者 溝口 榮
    東京市牛込區西五軒町二十九番地
印刷所 厚生閣印刷部
    東京市牛込區早稲田鶴巻町四百三番地
【目次】
巴里の憂鬱
アルセーヌ・ウーセイに與ふ
1異國人 2老婆の絶望 3藝術家の告白 4嫖輕者 5二重の部屋 6人みなシメールを負へり 7愚人と女 8犬と香水の壜 9けしからぬ硝子屋 10夜の一時に 11野蠻な妻と気取つた戀人 12衆人 13寡婦 14老香具師 15菓子 16時計 17毛髪内の半球 18旅への誘ひ 19貧者の玩具 20妖精の贈り物 21誘惑 22暮のかはたれ 23孤獨24計畫 25美女ドローテ 26貧者の眼 27悲壮なる死 28贋造貨幣 29寛大なる賭博者 30紐 31天稟 32酒杖 33醉へ 34ああ既に! 35窓 36描かんとする願望 37月の贈り物 38何れが眞の彼女であるか? 39名馬 40鏡 41港 42戀人の畫像 43意氣な射手 44スープと雲 45射撃場と墓地 46圓光喪失 47小刀孃 48どこへでも此世の外へ 49貧民を撲殺しよう! 50善良なる犬
エピローグ
読者のために
【所蔵】
国立国会図書館         ○
日本近代文学館         ○
北海道文学館 高橋留治文庫   ×
京都ノートルダム女子大学図書館 ○

大学図書館所蔵〔早稲田大学、明治大学〕

【解題】
 本書は、厚生閣書店より刊行された、春山行夫編輯「現代の藝術と批評叢書」一六巻である。春山行夫(はるやまゆきお 本名市橋渉)〔明治三五~平成六〕は、昭和初期のモダニズム運動で活躍した詩人、批評家、編集者である。詩集『月の出る町』(地上社出版部、大正一三)、『植物の断面』(厚生閣書店、昭和四)、『シルク&ミルク』(ボン書店、昭和七)、『花花』(版画荘、昭和一〇)、評論『詩の研究』(厚生閣書店、昭和六)、『ジョイス中心の文學運動』(第一書房、昭和九)など。この頃は、厚生閣書店より発行された『詩と詩論』(昭和三・九~昭和六・一二、改題『文学』昭和七・三~八・六)の編集に携わっていた。同誌第一冊「後記」に「舊詩壇の無詩學的獨裁を打破して、今日のポエジーを正當に示」すと宣言した理念の下に、同人制で創刊された雑誌だ。春山は第一冊に掲載された「ポエジイとは何であるか ―高速度詩論 その一」他で、韻律を重んじる詩論を批判し、詩の本質を追求することを目指し「新散文詩」「シュルレアリスム」等の方法論を提唱する。またその理論の中で、従来の高踏派やデカダンスの文脈による象徴詩理解を退け、表現革命の先駆として意味づけし直した。「現代の藝術と批評叢書」は、『詩と詩論』の活動を反映した出版企画である。象徴詩人ボードレールによる散文詩の出版は、その文脈上にある。三好達治は、『詩と詩論』創刊時の同人だった。
 三好達治(みよしたつじ)〔明治三三~昭和三九〕は、詩人、翻訳家。詩集に『測量船』(第一書房、昭和五)、『南窗集』(椎の木社、昭和七)、『間花集』(四季社、昭和九)など、歌集『日まはり』(椎の木社、昭和九)、翻訳にルイ・フィリップ『母への手紙』(岩波書店、昭和一〇)など。大正一四年東京帝国大学仏文科に入学、在学中に、『青空』(青空社、大正一四・一~昭和二・六)、『椎の木』(椎の木社、大正一五・一〇~昭和二・九、昭和三・一一~四・九、昭和七・一~一一・三)、『亜』(亜社、大正一三・一一~昭和二・一二)の同人となり、詩作を発表する。『詩と詩論』同人の春山行夫、北川冬彦らとこの頃知り合う。『詩と詩論』では、詩、評論、翻訳を発表。昭和九年『四季』(第二次)を、丸山薫、堀辰雄と協同編輯で発刊(昭和九・一〇~一九・六)、モダニズムの方法を受けつきながら、抒情精神の表現を志した。(石原八束『駱駝の瘤にまたがって 三好達治伝』新潮社、昭和六二)
 本書刊行以前に、高橋広江訳『巴里の憂鬱』(青郊社、昭和三)があるが、完訳は本書が初となる。巻末「読者のために」では、ボードレールの小伝と共に、『巴里の憂鬱』成立由来を紹介する。文中で、ボードレールの「絵畫論にしろ、音樂論にしろ、乃至は文學論にしろポオの譯業にしろ、それら悉くが近代的理智と卓抜な筆力との兼備された、大批評であり大文章である」とする。片山正雄「続神経質の文学」(『帝国文学』明治三八・一二)以来、病的精神状態であるデカダンスの詩人とされてきたボードレールを、知性の持ち主として位置づけし直すのである。また、前代のロマンティシズムと区別される所以は、「ある一箇の近代生活のより抽象的なる敍述」だという。「具體的の外界を豊富に記述し、それに伴ふ内面性の単純貧窮を招くことを避けた」ため、「近代的心理の主観の複雑、苦悩の闘争が著しく特色され」るという。さらに、「罪を愛する心はを愛する心の魁」だとし、ボードレールの悪の背景にある神を見ようとしない態度を「日本に於ける總の俗解」であると戒める。
 次に、「どこでも此世の外へ」の本文を示す。
   どこでも此世の外へ
 この人生は一つの病院であり、各々の病人が絶えず寝台を代へたいと願つてゐる。ある者はせめて暖爐の前へ行きたいと思ひ、ある者は窓の側へ行けば病氣が治ると信じてゐる。
 私には、今私が居ない場所に於て、私が常に幸福であるやうに思はれる。從つて移住の問題は、絶えず私が私の魂と論争してゐる問題の一つである。
「私の魂よ、答へてくれ、憐れな冷たい私の魂よ。リズボンヌへ行つて住めばどうであらう? あそこはきつと暖だkら、お前も蜥蜴のやうに元氣を恢復するだらう。あの街は水のほとりに在つて、人の云ふには、それはすつかり大理石で造られてをり、そこの住民たちは、樹木を残らず抜き棄ててしまふほど植物を憎んでゐるそうだ。だからその、光線と鑛物と、それを映しとる水とばかりで出來てゐる風景こそ、お前の趣味に添ふだらう!」
 私の魂は答へない。
「お前は、運動するものを見ながら休むのがそんなに好きだから、和蘭へ行つて、あの至福の土地に住みたくはないか? 美術館でその繪を見てさへ屢々お前の感嘆したあの國では、恐らくお前の氣分も紛れることだらう。林立するマストや、家並の下に繋がれた船の好きなお前は、ロッテルダムをどう思ふ?」
 私の魂は黙つてゐる。
「バタビアの方が更にお前の氣に居るだらうか? あそこでは、熱帯地方の美に結婚した。歐羅巴の結氣が見られるのだが。」
 一言も答へない。――私の魂は死んだのだらうか?
「それではお前は、も早苦惱の中でしか樂しまないまでになつてしまつたのか? もしさうなら、死の相似の國に向つて逃げ出さう。――憐れな魂よ! 私が總てを準備しよう、トルネオへ旅立つべく、我らは行李を纏めよう。そしてなほ遠くへ、バルチックの尖端へ行かう、更になほ遠くへ、出來るなら、人生から遠ざかつて、我らは極地へ赴かう。そこでは太陽が斜めにのみ地上を掠め、緩慢な晝と夜との交替が變化を減じて、虚無の半身なる單調をしてゐる。そこで我らは、暗の永い浴みに涵ることが出來るだらう。そしてその時、我らを慰め北極光が、地獄の煙火の反映のやうな、その薔薇色の花束を時々我らに贈るだらう!」
 終ひに私の魂が言葉を放ち、いみじくも私に叫んだ。「どこでもいい! どこでもいい! ただ、この世界の外であるならば!」
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