5月16日(土)ウィーン国立歌劇場オペラ公演
ウィーン・シュターツオーパー
【演目】
ワーグナー/楽劇「ラインの黄金」
【配役】
ヴォータン:ユハ・ウーシタロ(Bar)/ドンナー:マルクス・アイヒェ(Bar)/フロー:ゲルゲリー・ネメティ(T)/ローゲ:アドリアン・エレード(T)/フリッカ:ジャニーナ・ベーチレ(MS)/フライア:リカルダ・メルベス(S)/エルダ:アンナ・ラルソン(A)/アルベリヒ:トーマス・コニーチェニ(Bar)/ミーメ:ヘルヴィヒ・ペコラーロ(T)/ファーゾルト:ソリン・コリバン(B)/ファフナー:アイン・アンガー(B)/ヴォークリンデ/イレアナー・トンカ(S)/ヴェルグンデ:ミヒャエラ・ゼリンガー(MS)/フロスヒルデ:エリザベト・クルマン(A)
【演出】スヴェン=エリック・ベヒトルフ
【舞台】ロルフ・グリッテンベルク 【衣装】マリアンネ・グリッテンベルク 【映像】フリードリッヒ・ツォルン
【演奏】
ハンス・ウェルザー=メスト指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団
僕はワグネリアンってわけじゃない、というかワーグナーのオペラは家ではまず聴かないが、ウィーンのシュターツ・オーパーでリングの公演が観れる、というならやっぱり是非行ってみたくなる。そして前売りはとっくに売り切れの状態で当日なんとか手に入れたチケットで観た初体験の「ラインの黄金」は期待にたがわぬ、いや衝撃的とも言える体験となった。
まずは粒揃いの歌手陣。端役がないと言ってもいいほどどの役も重要な役割を担い、体力も求められるこのオペラで、登場した歌手達は例外なく超一級。日本のオペラだってレベルは高いとは思うが、日本に今夜の歌手の中から一人でも来れば、誰であっても主役を担えて大喝采を浴びるだろう。誰もが自信に満ち溢れ、強烈な存在感と揺るぎのない歌唱で自分の役を十二分に果たしている。
最初に登場するラインの乙女達の水もしたたる妖艶な歌に魅了されていたかと思えば、続いて登場するアルベリヒの肉欲に取り付かれたおぞましいほどの凄みに圧倒される。アルベリヒ役のコニーチェニは最終場で指輪のもたらすであろう災いを予言する場面までとにかく驚くべき集中力と高いテンションを保ち、終始このオペラに凄みを効かせ続けた。
第二場ではいよいよヴォータンとフリッカの出番。ヴォータン役のウーシタロの地に足が付いた貫禄と威光を放つ歌唱の素晴らしさ、フリッカを歌ったベーチレ(Baechle)の芯の強さと懐の深さ、そしてフライヤを歌ったメルベスの瑞々しい芳しさ。凄まじい巨人のライトモティーフと共に現れるファーゾルトとファフナーのコブだらけの真っ黒な巨体にまず圧倒され、その巨人達を歌ったコリバンとアンガーのこれまたすごいパンチのある存在感の歌に打ちのめされる。
そこに遅れて登場するローゲ(エレード)の何とも旨い歌い回しと絶妙な演技。エレードは全幕を通して巧みな歌で巧みに立ち回り、オカマっぽくヴォータンに取り入ったり、怒り狂う巨人達や、ドンナーやフローらをなだめすかしたり、或いは最後にヴォータンに指輪を諦めさせる重要な場面での巧さ、演出が求める効果を更に上回るような名演技と名歌唱に仰天!
出番は少ないが、ミーメ役のペコラーロもただやられるだけの情けないキャラクターを遥かに上回るインパクトを与え、エルザ(ラルソン)の妖しくも凛とした風格、弱音での存在感に耳を奪われた。
歌手達は例外なく自らの役を強烈に印象づけ、ワーグナーがそれぞれの役に与えたライトモティーフの効果を倍増させた。
オーケストラの素晴らしさも筆舌に尽くしがたい。指揮のウェルザー=メストはワーグナーの芳醇な響きを助長するよりもエッジを効かせた鋭く深く切り込んで行くアプローチで鮮やかに場面の情景と登場人物の心情を描き、迫真のドラマを展開して行った。オーケストラは実に明確で木目細かなテクスチュアとすごい底力でそんなメストの意図を見事に体現、さすがはウィーン・フィルの母体のオーケストラだ。
この公演の素晴らしさはベヒトルフの新演出の功績も大きい。舞台装置は至ってシンプルだが、それぞれの場面を的確に印象付けていた。深い青緑の大きな布を何枚も配置したライン川の第1場、神々の住む天上の世界の第2場は大きな平たい岩をいくつも配し、できたての城は後方スクリーンにぼんやりと象徴的に映す。第3場ではバラバラにされた金のマネキンと夥しい数の金の頭部が整然と棚に並べられていた。
こうしたシンプルな舞台装置を最大限に効果的に用い、各場面を鮮やかに、巧みに表現する。布を揺らしたり、それでアルベリヒをくるんだりして生き物のように変幻自在の波の様子を表現した第1場、金塊が姿を現す眩いばかりの描写も見事。長髪でソフトタッチで頭が回りそうなローゲが地下世界の棚の隙間をスルリスルリと忍者のように行き交う姿は、邪悪なアルベリヒと神々との間を巧みに取り成すかのようだ。このローゲの様々な役回りが与えた印象は本当に大きい。バラバラのマネキンは最終場で巨人達の要求でフライヤの姿が隠れるまで金塊が積まれていく場面で組み立てられる。
そして迎えた神々がワルハラ城に入城する最終シーンは、背後のスクリーンにシルエットで浮かび上がった神々が圧倒的なオーケストラの後奏と共に徐々に高みへと昇って行く。音楽と情景との完全なる合一!自分まで神々と一緒に天上のワルハラ城へ昇って行くような異次元体験を感じ、トリハダがとまらない。こうして感想を書いているだけでまた全身がゾクゾクしてくる。
一つも空きのない超満員の客席からは割れんばかりの拍手と怒涛のようなブラボーの大合唱。とりわけ客席が最高潮に盛り上がったのはローゲ役のエレードとアルベリヒ役のコニーチェニ、そして指揮のウェルザー=メストが登場したとき。演出家は登場しなかったが、演出のベヒトルフにもブラボーを送りたい。すご過ぎる公演だった!
カーテンコールでも2人の巨人の井手達は超目立つ!
「ラインの黄金」 チケット入手物語
ウィーン・シュターツオーパー
【演目】
ワーグナー/楽劇「ラインの黄金」
【配役】
ヴォータン:ユハ・ウーシタロ(Bar)/ドンナー:マルクス・アイヒェ(Bar)/フロー:ゲルゲリー・ネメティ(T)/ローゲ:アドリアン・エレード(T)/フリッカ:ジャニーナ・ベーチレ(MS)/フライア:リカルダ・メルベス(S)/エルダ:アンナ・ラルソン(A)/アルベリヒ:トーマス・コニーチェニ(Bar)/ミーメ:ヘルヴィヒ・ペコラーロ(T)/ファーゾルト:ソリン・コリバン(B)/ファフナー:アイン・アンガー(B)/ヴォークリンデ/イレアナー・トンカ(S)/ヴェルグンデ:ミヒャエラ・ゼリンガー(MS)/フロスヒルデ:エリザベト・クルマン(A)
【演出】スヴェン=エリック・ベヒトルフ
【舞台】ロルフ・グリッテンベルク 【衣装】マリアンネ・グリッテンベルク 【映像】フリードリッヒ・ツォルン
【演奏】
ハンス・ウェルザー=メスト指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団
僕はワグネリアンってわけじゃない、というかワーグナーのオペラは家ではまず聴かないが、ウィーンのシュターツ・オーパーでリングの公演が観れる、というならやっぱり是非行ってみたくなる。そして前売りはとっくに売り切れの状態で当日なんとか手に入れたチケットで観た初体験の「ラインの黄金」は期待にたがわぬ、いや衝撃的とも言える体験となった。
まずは粒揃いの歌手陣。端役がないと言ってもいいほどどの役も重要な役割を担い、体力も求められるこのオペラで、登場した歌手達は例外なく超一級。日本のオペラだってレベルは高いとは思うが、日本に今夜の歌手の中から一人でも来れば、誰であっても主役を担えて大喝采を浴びるだろう。誰もが自信に満ち溢れ、強烈な存在感と揺るぎのない歌唱で自分の役を十二分に果たしている。
最初に登場するラインの乙女達の水もしたたる妖艶な歌に魅了されていたかと思えば、続いて登場するアルベリヒの肉欲に取り付かれたおぞましいほどの凄みに圧倒される。アルベリヒ役のコニーチェニは最終場で指輪のもたらすであろう災いを予言する場面までとにかく驚くべき集中力と高いテンションを保ち、終始このオペラに凄みを効かせ続けた。
第二場ではいよいよヴォータンとフリッカの出番。ヴォータン役のウーシタロの地に足が付いた貫禄と威光を放つ歌唱の素晴らしさ、フリッカを歌ったベーチレ(Baechle)の芯の強さと懐の深さ、そしてフライヤを歌ったメルベスの瑞々しい芳しさ。凄まじい巨人のライトモティーフと共に現れるファーゾルトとファフナーのコブだらけの真っ黒な巨体にまず圧倒され、その巨人達を歌ったコリバンとアンガーのこれまたすごいパンチのある存在感の歌に打ちのめされる。
そこに遅れて登場するローゲ(エレード)の何とも旨い歌い回しと絶妙な演技。エレードは全幕を通して巧みな歌で巧みに立ち回り、オカマっぽくヴォータンに取り入ったり、怒り狂う巨人達や、ドンナーやフローらをなだめすかしたり、或いは最後にヴォータンに指輪を諦めさせる重要な場面での巧さ、演出が求める効果を更に上回るような名演技と名歌唱に仰天!
出番は少ないが、ミーメ役のペコラーロもただやられるだけの情けないキャラクターを遥かに上回るインパクトを与え、エルザ(ラルソン)の妖しくも凛とした風格、弱音での存在感に耳を奪われた。
歌手達は例外なく自らの役を強烈に印象づけ、ワーグナーがそれぞれの役に与えたライトモティーフの効果を倍増させた。
オーケストラの素晴らしさも筆舌に尽くしがたい。指揮のウェルザー=メストはワーグナーの芳醇な響きを助長するよりもエッジを効かせた鋭く深く切り込んで行くアプローチで鮮やかに場面の情景と登場人物の心情を描き、迫真のドラマを展開して行った。オーケストラは実に明確で木目細かなテクスチュアとすごい底力でそんなメストの意図を見事に体現、さすがはウィーン・フィルの母体のオーケストラだ。
この公演の素晴らしさはベヒトルフの新演出の功績も大きい。舞台装置は至ってシンプルだが、それぞれの場面を的確に印象付けていた。深い青緑の大きな布を何枚も配置したライン川の第1場、神々の住む天上の世界の第2場は大きな平たい岩をいくつも配し、できたての城は後方スクリーンにぼんやりと象徴的に映す。第3場ではバラバラにされた金のマネキンと夥しい数の金の頭部が整然と棚に並べられていた。
こうしたシンプルな舞台装置を最大限に効果的に用い、各場面を鮮やかに、巧みに表現する。布を揺らしたり、それでアルベリヒをくるんだりして生き物のように変幻自在の波の様子を表現した第1場、金塊が姿を現す眩いばかりの描写も見事。長髪でソフトタッチで頭が回りそうなローゲが地下世界の棚の隙間をスルリスルリと忍者のように行き交う姿は、邪悪なアルベリヒと神々との間を巧みに取り成すかのようだ。このローゲの様々な役回りが与えた印象は本当に大きい。バラバラのマネキンは最終場で巨人達の要求でフライヤの姿が隠れるまで金塊が積まれていく場面で組み立てられる。
そして迎えた神々がワルハラ城に入城する最終シーンは、背後のスクリーンにシルエットで浮かび上がった神々が圧倒的なオーケストラの後奏と共に徐々に高みへと昇って行く。音楽と情景との完全なる合一!自分まで神々と一緒に天上のワルハラ城へ昇って行くような異次元体験を感じ、トリハダがとまらない。こうして感想を書いているだけでまた全身がゾクゾクしてくる。
一つも空きのない超満員の客席からは割れんばかりの拍手と怒涛のようなブラボーの大合唱。とりわけ客席が最高潮に盛り上がったのはローゲ役のエレードとアルベリヒ役のコニーチェニ、そして指揮のウェルザー=メストが登場したとき。演出家は登場しなかったが、演出のベヒトルフにもブラボーを送りたい。すご過ぎる公演だった!
カーテンコールでも2人の巨人の井手達は超目立つ!
「ラインの黄金」 チケット入手物語
拝見していて、想像が膨らみました。
ウィーン国立歌劇場のHPを観ましたが、ラインゴールドだけはビデオがありませんでした(残念)
メストのワーグナーはスリムで、私も大好きです。
先日NHKFMで、このチクルスの最終「神々のたそがれ」を放送しましたが、素晴らしいものでした。
うしたろう氏も新国で聴いたことがありますが、やはり本場でウィーンフィルをバックにしたワーグナー上演は格別なものでしょうね!
続く記事も楽しみにしております。
新国立劇場での「リング」前半も良かったですよ!
後日旅のレポートで詳しく書こうと思っているのですが、この公演のチケットは1ヶ月前のオンライン売り出し時には既に完売、「チケット求む(Suche Karte!)」の紙を持ってやっとのことでいい席(Galerie)を個人買いで割安(70ユーロ)で手に入れることが出来ました。その前にダフ屋にしつこくつきまとわれたのですが、こちらは50ユーロのチケットが180ユーロでした!いざとなったら200までは出そうと思っていましたが、ラッキーでした。あのダフ屋の券は売れたのかな…?
アバドの演奏会の感想は数日中にアップします!