『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

手渡したい戦争文学

2017-06-22 17:46:28 | アメリカ文学


『ナオミの秘密』(1995年)マイロン・リーボイ作 若林ひとみ訳 岩波少年文庫
 ALAN AND NAOMI,1977 Myron Levoy


今日の一冊はコチラ。うん、想像に難くありませんが、絶版です。読まれないには惜しい作品。ぜひ図書館で探してみて下さい。

舞台は第二次世界大戦末期のニューヨーク。ナチから逃れて来て、精神的に病んでしまい、誰とも口を聞かなくなってしまったナオミと、彼女を立ち直らせようとするアランという男の子の物語です。アメリカでは映画化もされています。

正直言うと、あらすじだけで、本文読む前から気分がどよ~んとしてたんです。でも、次回児童文学ピクニックのテーマは“秘密”だし、読まねばなあ、みたいな義務感から読みました、実は。ユダヤ人、ナチ、この二単語が出てくるともう苦しくて苦しくて、目をそむけたくなる。でもね、作者の筆力なのか、12歳という多感な時期の少年の心理も丁寧に描いていて、ぐいぐい読ませる!感情移入して、一気読みでした!


■同じユダヤ人でも、背負ってきたものがこんなにも違う


アランはユダヤ人なので、多少の差別は受けていますが、ニューヨーク在住なのでナチとは無関係に、それなりにいい少年時代を送っています。スティック・ボール(簡易野球)に夢中になったり、カトリックだけれど親友のショーンと飛行機に夢中になったり。

ところが、ナオミのほうは壮絶な人生を送ってくるんですね。ナチに抵抗運動をしていた父親を目の前で殺され、命からがらフランスから親戚のリープマンさんのところにたどり着くのに、3年も(!)かかるのです。ナオミが過ごしてきた時を思うと、胸がしめつけられる思いです。戦争って本当にいや!!!

それにしても、ユダヤ人の人たちの絆の強さには驚きます。海外にいる同じ民族の絆とでもいうのかな。もう大きな家族なんですね。みんなで、一丸となって、ナオミを救おうとする。それは、もうとっても素晴らしいこと。でもね・・・そこで、白羽の矢がたったのが、同世代のアランなのですが、これは正直言ってアランがかわいそうでした。女の子の相手をするのが一番恥ずかしい年ごろ。友だちとも遊びたい、でもその時間をナオミに割かなければいけない。12歳の男の子には荷が重すぎる仕事なんです、はっきり言って。12歳前後の同世代の子どもたちが読んだらどう感じるんだろう?ぜひ読んでもらいたいなあ。


■嫌々始めたことからも、目が開かれることがある


自由を奪われるアラン。あまりの責任の重さに、私も最初はアランに丸投げした大人たちに憤っていました。が、アランが次第にナオミに惹かれはじめると、人生何が幸いするかワカラナイなあ、と

ナオミは本当は頭がよくて、魅力的な子なんです。アランも頭のいい子なので、すぐにそれに気づく。そして、大人たちがお礼を言うたびに嫌な気持ちになるんです。最初は頼まれたから仕方なく、嫌々始めた。でも、今ナオミに接しているのは自分の意志。だから、大人たちから「お願い」と言われると、「あなたたちのためにするんじゃない!」と言うようになるのです。だってね、アランはナオミの相手をすることで友だちまで失ったんです。けれど、そこからは自分の意志で、大人たちのためではなく、ナオミのために相手をしている。だから、お礼を言っていいのはナオミだけ。でも、ナオミはぜったいにお礼なんか言わない・・・その必要がないことを知っているから、と。


■ツライ現実の中にある希望


アランの友情のおかげで、ナオミがだんだんと回復していくさまは、心躍ります
そして、ついに、なぜナオミがひたすら紙を細かくちぎっていたかの秘密が明かされる場面で涙。本当に、戦争の残虐さというものは、あとあとまで尾を引くもので、なかなか終わりが来ないのです。ナオミが過去のことを口にできたことで、ああ、これからは回復に向かう!と思った矢先の悲劇。終わり方は、そんなあ、、、、とアランと一緒に地面に顔を押し付けて泣きたくなるような悲しい結末です

それでも!この物語に希望を感じるのは、既に読者もナオミを知ってしまったからなのかも。アランのお父さんの言うように、大丈夫、大丈夫、時間が解決してくれる、って心のどこかで信じてる。ナオミの底力を信じてる。信頼と友情の物語です

表紙絵はあの太田大八さんによるもので、読み終えた後だと、ああアランとナオミだなあ、って思う。けれど、この内容とこの表紙から中身が読みたくなるかというと・・・現代っこには難しい気がしました。だからこそ、手渡す人が必要なのよね。絶版にするには、モッタイナイ手渡していきたい物語です。

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