『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

母親が幸せになって悪いか?自分が最優先ってどう?

2017-06-17 05:06:10 | 北欧文学


『冬の入江』(1999年)マッツ・ヴォール作 菱木晃子訳 徳間書店 392頁
VITER VIKEN by Mats Wahl,1993


今日の一冊はコチラ。季節外れのタイトルではありますが、次回児童文学ピクニックのテーマが『秘密』であることから読んでみました。

≪『冬の入江』あらすじ≫
ストックホルムに住む十六歳の少年ヨンは、親友のスルッゴとつるみ、いつも悪事を働いていた。ある夏の日も盗んだカヌーで湖を渡っていると、溺れかけた小さな女の子が。その子を助け、その女の子の姉エリザベスと一目で恋に落ちたヨン。偶然にも通い始めたばかりの専門学校の俳優養成コースで、エリザベスに再会し、惹かれあう。しかし、幸せな時間もつかの間、ヨン自身が抱えた秘密のせいで、二人の間には深い溝ができてしまう。
愛とは?友情とは?憎しみとは?憧れとは?16歳の主人公が直球で読者に語りかけてくる。



■苦しい現代の若者たち

作者は『マイがいた夏』のマッツ・ヴォール(そのときの紹介記事はコチラをクリック)。『マイがいた夏』がぐいぐい読ませたので、今回も楽しみに読みました。

うん、ぐいぐい読ませる。でも、苦しい。もどかしい。

スウェーデンの現代の若者像ってね、なんだか逃げ場がなくて苦しいのです。もっとも、そういう状況だけを切り取っているのかもしれませんが・・・。美しく豊かな自然とは、対照的に、人々の生活はなんだかすさんでる。性に奔放。ど、どうした、スウェーデン!?エルサ・ベスコフや、リンド・グレーンの描く『長くつしたのピッピ』や『やかまし村』のようなスウェーデンどこーーー!?!?

でも、きれいごとに反発したくなる世代にはこういう物語はグッとくるのかもしれません。『ノーラ12歳の秋』(そのときの紹介記事はコチラをクリック)も苦しくて苦しくて・・・でも子どもの読者たちからの支持は絶大で。

この物語は悲しい人間の宝庫。
義父から虐待を受けている主人公のヨンは、黒人とのハーフで、“色付き”ということで差別も受けます。でもね、お嬢様であるエリザベスとて幸せではないのです。自分を認めてくれない父に苦しみ、タバコが手放せないニコチン中毒。親友スルッゴの実父もどうしようもないヤク中(だけど、ジャズ好きでなんか憎めない)。スルッゴは浅はかだけれど、友情にだけは熱い。なのに、ヨンと仲たがいしたとき、腹いせにネオナチのような組織に足を踏み入れて抜け出したくても、抜け出せなくなる。ヨンの母親と姉は典型的なDVダメ男で前科者のロルフに夢中。みな、どうしようもなく自己肯定感が低いんだな。



■ 男女の仲優先ってどうなの?役割としての母親はいらない?

でね、個人的に思ったのが、スウェーデンのお国柄なのか、男女の仲を最優先させすぎるんじゃないかな、と。別にそれが悪いということはないのですが、子どもの前でそれを見せるのはどうなのか、と古いタイプの日本人の私は思ってしまうわけです。

ヨンの素行はまあひどい。けれど、彼の心の叫びを聞いていると、いかに母親&父親からの愛情を求めていることか。母が恋愛したって、もちろんいいんです。母がまず自分の幸せを追求する、いいじゃないですか。大いに賛成です。でもね!!!子どもの前で見せつけて、子どもよりそちら優先させてる態度を、子どもに見せていいかというと、それは別問題!(と、個人的には思う)だってね、非行とも思える行いの数々、あきらかに母からの愛欠乏が原因だもの。

大人がね、大人になりきってないんです。自分満たし(男探し、女探し)に必死で。子どもが寂しいとか、そういうことに目がいかない。いっても、“それはアナタ自身の問題でしょ”くらいな感じ。

母が自分の幸せ最優先でもいい。それ、大事。でもね、目の前に子どもがいるときは、その子だけに集中して。心の叫び聞いて。
日本は、結婚したら妻が“母親”オンリーになっちゃった、という話をよく聞きます。役割オンリーも歪みを生じて、“自分を生きようよ!自分を取り戻そうよ!”というのが今ブームのような気がしますが、役割は役割で割り切って大事なんじゃないかなあ。ある程度は。

私は、『子どもへのまなざし』を書いた児童精神科医の佐々木正美さんが好きなのですが、佐々木さんがおっしゃるのは、まず母性が先ですよ、って。



不良が更生しないのは、この母性(無条件の愛)の部分が満たされていないからだ、って。まず、母性によって「自分は自分でいいんだ」という自尊心が育っていないと、厳しいしつけや教育的な父性的なものは通じない、と。
私自身、父性性が先にたってしまって、子どもたちにはかわいそうな思いをさせたので、余計に実感しています。母性性が先なんだ!って。ヨンが求めているのは母性性だ、って。

なぜみな、そろいもそろって、こう自己肯定感が低くなってしまうのか、を個人的にはすごく考えさせられた物語でした。
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