『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

住職最高!『小やぎのかんむり』

2017-07-12 17:31:27 | 日本文学


『小やぎのかんむり』(2016年)市川朔子作 講談社

今日の一冊はコチラ。
市川さんの描く物語は、『よるの美容室』(記事はコチラをクリック)もそうだったけれど、丁寧で、優しくて、登場人物とお友だちになってしまう。だから、心に残る。うっかり電車の中では読めません。涙があふれてしまうから
ちなみに、子ヤギではありません、小やぎ。なぜかというとマーシャ・ブラウンの『三びきのやぎのがらがらどん』の大きいやぎ、中くらいのやぎ、小さいやぎに登場人物たちをなぞらえてるからなんですね。このロングセラー名作絵本↓



この物語、思春期の子たちはもちろんのこと、いまだ親の呪縛から逃れられない、いい子を演じてしまいがちな大人も読んでもらいたいな。

≪『小やぎのかんむり』あらすじ≫
親に対して、複雑な思いを抱く中3の夏芽が飛びこんだのは、小さな山寺でのちょっと不思議なサマーキャンプ。ふたを開けてみると、なんと参加者は夏芽一人。そこへ、5歳児の雷太やヤギの後藤さん、高1の葉介も加わり、人の温かさを知った夏芽のひと夏の成長物語。


夏休みに田舎でのサマーステイ(orキャンプ)を通じて、成長する物語は、児童文学の鉄板ですね。こちらは、日本なのでお寺が舞台というところが興味深かったです。以下ネタばれも含みますので、楽しみに読みたい方はここまでで


***********

お寺の規則正しい生活、凛とした空気、いいなあ。でも、住職は笑っちゃうくらいちゃらんぽらんで、そこがサイコー(笑)。凛としたところと、肩の力の抜け具合のバランスがすごくいい。

このお寺に集まる人は、それぞれ背景があります。
主人公夏芽は、外ヅラはいいけれど、いま盛んに言われているパワハラ&モラハラの父親に苦しんでいる。母親は優しく気づかいのできる人だけれど、父親の顔色ばかり伺って、夏芽の本当の気持ちを見ようとしてくれない。悪い母親じゃない、だからこそ苦しい。

修行見習い中の穂村さんは、実は自分の不注意のせいで我が子を亡くしている。住職の孫で、サマーステイ発起人の美鈴さんは、両親と折り合いが悪く、家を飛び出している。そして、雷太は父親のDVから逃れ、母親に騙されるようにして寺に置いて行かれた子・・・。

雷太をめぐり、色んな事件も起こります。でも、それはそれぞれ自分のことを見つめ直すきっかけにもなるのです。

いつもカラオケなどで遊びほうけていて、ほとんどお寺にいない住職。へらへら、ちゃらんぽらんに見えるけれど、必要なときには鋭い発言でうならせる。ああ、この住職のファンになっちゃった
以下、住職名言集です。

雷太の事情を知り、自分はどうしたらいいかと聞く夏芽に対し、タケじいが言ったこと
「でも」
「はき違えてはいかんよ」
・・・
「べたべた優しくすることはない。同情もいらん。ふつうにしていなさい。あの子はもう守られている。-間違っても、あんた自身が、引きずられてはいかんよ」(P.93)

「・・・恩に着ることなんかない、子どもはみーんな、のうのうと生きてればいい・・・」(P.108)

「-その我慢は、自分を生かす我慢か。それとも殺す我慢か?」(P.159)

「苦行など、つまらん。その先に、御仏はおわさん。・・・・『どんなに行っても、その先には、〈我〉しかおらんよ』」(P.171)

「-親子は、縁だ。あんたとこの世を結んだ、ただのつながりだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「愛とか絆とか、そこに意味を持たせようとするから、なんだかおかしなことになる。-そんなもの、運がよければあとから出てくるもんだ。ないものをあると仮定するからゆがむ。苦しむ。はじめからありはしないのに」(p.235)



これだけ読んでも???かもしれません。これがね、必要なときだけバシっと出てくる発言なのです。普段はカラオケに入り浸りでもね(笑)。本当の意味で悟っていて、人生を味わうということは、今を楽しむということを知っている住職なのです


ステイ期間が終了し、夏芽はまた元の世界へ戻ります。両親のほうは何一つ変わっていません。それでも、夏芽が自己肯定感を取り戻したことで、読者は明るい未来しか見えない気がするのです。これからも、嫌なことはあるだろう、ひどいこと言われるだろう、それでも、夏芽は大丈夫!ってね。

中学生以上&大人に、この夏ぜひおすすめしたい一冊です





ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 他人事ではない『ともだちの... | トップ | 不都合なものは消えてよい? »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL