『今日の一冊』by 大人のための児童文学案内人☆詩乃

大人だって児童文学を楽しみたい、いや、大人こそ読みたい。
ハッとする気づきのある絵本や児童文学をご紹介♪

希望が見えなくなったら『青空のかけら』

2017-05-15 15:44:11 | イギリス文学


『青空のかけら』(2016年)
S・E・デュラント作 杉田七重訳 鈴木出版
Little Bits of Sky (2016)


やまない雨はない。いつかは青空が広がる。
今日の一冊は、1980年代イギリスの児童養護施設を舞台にした『青空のかけら』です

あ~、これは個人的にはとっても大切な物語になりました!
うちも細々とではありますが、児童養護施設の里子ちゃんのホームステイを受け入れているので、親を思う気持ちなど共感できる部分が多くて、多くて

ただ、海外の児童養護施設と日本のそれの大きな違いは、養子縁組が主体か否かなんですよね。
海外と違い、日本の場合は、実親が養子縁組させない場合が多い。だから、児童養護施設は“仮の場所(=早く出ていきたい場所)”ではなく、高3卒業までいる“居場所”であるのが大きな違いだなあ、と。養子になりたいと切に願う感覚は、日本にはない。

≪『青空のかけら』あらすじ≫
1987年に児童擁護施設にやってきたミラとザックの姉弟。次々と他の子の養子縁組が決まるなか、姉弟まとめての引き取り手はなかなか現れない。そんな中、ミラは偶然自分の部屋の床下から「この部屋で暮らすあなたへ」という手紙を発見!日付は1947年の9月。空想上の親友を手に入れたミラ。そして、ついにミラとザックにも休暇中引き取り手が見つかるものの、二人は失態ばかり。果たしてどうなるのか・・・。



■空想が救う現実の世界

この主人公ミラは空想家。ちょっと『赤毛のアン』とかぶります。けれど、アンのようにおしゃべりでもないし、ワクワクの空想を他人と共有するわけでもない。なので、もっと淡々と地味な感じ。

ミラは日記を書いていたのですが、その理由は存在感のない自分たちだったけれど、誰かに自分たちが生きていたことを伝えたかったからなんですね。そして、もし何かいいことが起きなかったら魔女やお城を登場させたりハラハラドキドキの人生をでっち上げるつもりだった、と言います。現実は動かせなくても、空想の世界なら自在に描ける!こういう子は現実世界でもたくましく生きていけるんですよねえ。

そして、1947年に自分のいた部屋に住んでいた女の子グレンダを見出してからは、彼女はミラの親友になります。見えたり見えなかったりするのだけれど。そこからは、ミラはもう寂しくなくなるのです。空想は、厳しい現実を生きていく際の心の支えになるんだな


■空想+そっと寄り添う自然の無言の力
ミラとザックがスキリーハウスに来たときに、まず心奪われたのは自然豊かな庭!
自然は一人静かになるときも、居場所を作ってくれる存在だなあ、としみじみ。これがあるとないとでは、差が大きい!

そして、その後二人は田舎町に休暇のホームステイに招かれるのですが、これも児童文学の鉄板ですね
田舎に行って、人柄まで明るく変わっちゃう。いかに、自然の果たす役割が大きいことか。
自然と生活が結びついている。頭だけ動かしているのではなく、身体と感覚と感性もフル回転なんですね、だから生きてるって感じて、自分を取り戻せるのかも。色々あるけれど、いつも自然は無言で寄り添ってくれるんです。
“神様は庭にいる”(←これ名言!)と言って、ステイ先のマーサは教会へ行かない(牧師の娘なのに)のですが、そういうことなんだな。
空想と自然があれば最強!


■どんな人にも背景がある、誰にも子ども時代があった
さて、ミラとザックのいるスキリー・ハウスには愛情たっぷりのスタッフが二人いるのですが、長であるミセス・クランクスは、何とも言えずいや~な感じなんですよ。どこが、何が嫌かって、はっきり言えない分モヤモヤするというか。愛情にかけてて、冷たい人間(のように見える)。

ミラも当然嫌っているのですが、ふとしたことで、もしかしたらミセス・クランクスもそう悪くはないかも、と思うんですね。
なぜ心閉ざした人になってしまうのか、人にはそれぞれ背景があるんです。見えてる部分が全てじゃない。これ、とっても大事な気づきだと思うんですね。

もし、ミセス・クランクスを完全な悪者にしてしまったなら、物語はもっと盛り上がったことでしょう。古典児童文学によくみられるような善人VS悪人の構図ね。小公女セーラに出てくるミンチン先生大っキライみたいな。それは、それで読み物として分かりやすいし、面白いのだけれど、やはりその人がどうしてそうなってしまったのか。そういうことに思いを馳せる物語もやっぱり存在していてもらいたい。

ミセス・クランクスの生い立ちは、ある意味衝撃で、あのような大人になってしまったことはとても残念。けれど、とても現実的だなあ、と。

相手が悪なら、滅ぼさなきゃいけなくなる(←セカオワ)。もしくは、それを願ってしまう。
そうじゃないんだよ、って教えてくれる物語が、これからの時代には必要なんだと個人的には思いました。






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