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司法修習について(刑事裁判起案)

2016-09-19 02:56:55 | 司法修習
3.刑事裁判

(1) 事件記録の概要

公判前整理手続きから、被告人質問終了までの一連の手続に関する資料になります。
具体的には、証明予定事実記載書面・予定主張書面、公判調書、証拠等関係カード、各書証、尋問調書、被告人質問調書などです。


(2) 設問の概要

私の年次から傾向が変わったようで、公判前整理手続から刑事手続の進行に沿って、事件を扱う裁判官の視点から、主に争点整理や事実認定を検討させる問題が出題されました。

争点整理に関する設問は、公判前整理手続における当事者間のやり取りを想定し、証明予定、予定主張及び証拠等関係カードのみを見て、担当裁判官の視点から本件でどのような事実が争点になりそうかを予測し、答えさせるものです。
公判段階の記録を見たうえで解答することも可能ですが、先入観を持ってしまうとかえって重要な点を落としてしまうこともあるので、素直に指示に従っておいた方が無難です。

争点となる事実は、犯人性、又は殺意・不法領得の意思等の主観的構成要件事実のいずれかであることが多いです。
解答では、これらの事実を基礎づける間接事実レベルの争点も指摘することになります。

事実認定に関する設問は、公判段階の記録にもすべて目を通したうえで、争点となる事実が認められるかを検討させるものです。大抵は公判供述の信用性が問題となります。

その他、小問として、勾留・保釈の要件を検討させる問題や、量刑を判断させる問題も出題されます。


(3) 解答のポイント

争点整理に関する設問は、導入されて間もないということもあり、総じて修習生の出来が悪く、教官の解説もつかみどころがなかった印象なので、本年から何かしら改善がされているかもしれません。

もっとも、教官が口酸っぱく注意していたのは、同様のテーマが争点となる事案でも、その中で重要となる事実は事案により異なるので、紋切り型の解答はよくないということです。

例えば、「殺意」が争点となる事案では、まず同じ「殺意」でも「突発的殺意」又は「計画的殺意」のいずれにあたるのかをまず検討し、そのうえで「殺意」を基礎づける間接事実(例えば「凶器の形状」や「創傷の部位」)のうち、検察官がどれに重点的を置いて主張しているのかを吟味しなければなりません。メリハリをつけず、教科書的な「殺意を基礎づける事実」をべたっと貼り付けたような答案は評価が低くなると思われます。

どの事実が重要になるのか(すなわち推認力が強いか)は、知識というより感覚の問題になるので、その意味で綿密な対策が必要になるところではないかもしれません。

事実認定においても、公判供述の信用性は一定のメルクマールに従って検討することになりますが、それ以上の知識が必要となるわけではなく、むしろ相場感を養っておくことが必要です。

大まかな流れとしては民事裁判と同様、間接事実を拾い出したうえで、要証事実に対する推認力の強さを検証します。ただし、民事裁判よりも事実を認定する心証レベルが高い印象なので、推認過程においてどのような反証可能性があるのかを丁寧に検討することが必要です。
その意味で、刑裁教官曰く、答案上に悩みを見せることが点数につながるとのことです。

刑裁では各設問で解答の目安となる枚数が指定されており、事実認定問でも10枚程度と、書く分量はそれほど要求されておらず、時間にも余裕があると思います。しかし、限られた枚数内で要を得た解答を仕上げないといけないので、民事裁判起案のように量を書いてカバーすることができず、外してしまうとダメージが大きい点に注意が必要です。

なお、保釈要件を検討させる問題や、量刑を答えさせる問題は、逆に教科書の知識があれば簡単に点数を稼げるところなので、確実に解答しましょう(なお、身柄拘束については、近年被告人の権利を重視する傾向にあるようです。)。


(4) 対策用文献

ア.白表紙

事実認定については「刑事裁判修習読本」と呼ばれる冊子が中心となりますが、難解かつ抽象的なので、入門のテキストとしての使い勝手としてはどうなのかなという感じです(もちろん、一定程度起案をこなしたうえで一読すれば、理解は深まると思います)。
導入修習前にちらっと見ておきたいという程度であれば、むしろ「事実認定ガイド」というホチキス止めのプリントで十分かと思います。

争点整理については、「プラクティス刑事裁判」という冊子に一連の流れが書いてあるので、こちらはよく読んでおきましょう。量刑の決め方についても解説が載っています。

イ.刑事事実認定重要判決50選(上・下)

テーマごとに判決において着目されている重要なポイントが整理されており、辞書的な使用を前提にすれば有用です。
ただし、これを熟読すれば起案の成績が上げるというものでもないと思います。内容は充実していますが、刑事系をどうしても極めたいという人でなければ必須ではないです。

ウ.予備試験法律実務基礎科目ハンドブック〈2〉刑事実務基礎(辰已法律研究所)

事実認定の際の考慮要素や保釈要件等、起案に必要な知識が端的にまとまっていて使い勝手が良いです。

エ.実例刑事訴訟法(Ⅰ~Ⅲ)

刑訴の細かい知識をフォローするのには最適ですが、起案の出題傾向の変化に伴い、そのような知識を正面から問うような問題は出されなくなってきているので、必須ではありません。


オ.非公式資料

修習生の有志が作成した事実認定のためのポイント集が出回っており、そこそこクオリティが高いものとなっています。起案直前や二回試験前に見直すための資料としてはちょうど良いです。

また、起案に関する資料は複写厳禁ですが、どういうわけか、過去の起案問題、優秀答案及び解説(と思われるデータ)が出回ってきます。

刑裁起案は、より多くの問題を検討し、事実認定の感覚を養っておくことが重要なので、運よく入手できた人は、修習生同士でゼミを組むなどして検討してみると、実力がかなり伸びると思います。

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