Neurology 興味を持った「神経内科」論文

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純粋自律神経不全症は,多系統萎縮症,パーキンソン病の病態抑止療法のターゲットである!

2017年04月19日 | 脊髄小脳変性症
純粋自律神経不全性(pure autonomic failure; PAF)は,多系統萎縮症(MSA),パーキンソン病/レビー小体型認知症(PD/DLB)を発症(conversion)しうることが知られている.もしPAFの段階で,このconversionを予測できれば,MSAやPD/DLBのごく早期(premotor phase)での診断が可能になり,病態抑止療法の実現につながるかもしれない.今回,米国Mayo Clinicが,2001年から2011年にかけての後方視的研究の結果,PAF症例のうち,いつ,どの程度,どの疾患にconversionするかを検討した論文を報告した.

対象は,起立性低血圧(30/15 mmHg以上の低下)を認め,末梢神経障害やAdie緊張性瞳孔等の合併,免疫療法への反応,中枢神経変性の合併,傍腫瘍症候群やシェーグレン症候群を示唆する抗体陽性などを除外したpossible PAF症例とし,最終解析は3年間以上経過観察できた症例に限定した.自律神経機能の評価は膀胱機能,睡眠(レム睡眠行動障害,睡眠時無呼吸)のほか,著者のLow PAが1993年に開発した総合的自律神経機能評価法Composite Autonomic Severity Score(CASS;自律神経機能検査第4版に詳しい)や温度発汗試験(Thermoregulatory sweat test; TST)を行った.ちなみにCASSは,大別するとValsalva法を用いた血圧変化,定量的軸索反射性発刊試験(QSART),呼吸性心拍変動検査,起立試験の4つを行う.検査の40%をadrenergic 機能,30%ずつを末梢性発汗(sudomotor)機能,cardiovagal機能に配分できる.またパーキンソニズムとも小脳症状とも判断のつかない軽微な運動徴候(歩行障害や振戦など)の有無も確認した.

さて結果であるが,318名がpossible PAFの基準を満たし,経過観察が3年未満のケースや軽微な運動徴候に関する記載がないものを除外すると79名が最終解析された(図).このうち,41名が症状のconversionがないstable PAFであったが,37名はconversionし,内訳はMSAが22名(59%)と最も多く,PD/DLBは11名(30%),4名は明らかな運動徴候を呈したものの両者の診断基準を満たさなかった.MSAへのconversionは中央値2.4年(四分位範囲1.9-3.3年)に生じ,大半がPAFの発症3年以内であった.一方,PD/DLBは中央値3.9年(4.2-8.4)でより長かった.Conversion率は,possible PAFを分母にすると12%(37/318名),3年以上経過したPAFを分母にすると47%(37/79名)になる.以上より, MSAがPD/DLBの2倍の頻度であったが,conversionまでの期間の長短が影響している可能性もある.

つぎにMSAへのconversionの危険因子の検討が行われた.MSA群とstable PAF群が,PAFと診断された時期の臨床像を比較すると,MSA群では重度膀胱障害が多く,総CASSスコア低値,cardiovagal CASSスコア低値,発汗異常の中枢・交感神経節前パターン,坐位および起立時のノルエピネフリン値高値という特徴が見られた.軽微な運動徴候もMSA群で多かった(32% vs. 12%).

一方,PD/DLB群はstable PAF群と比較して,総CASS スコア低値,adrenergic CASSスコア低値,末梢性発汗機能スコア低値,起立時のノルエピネフリン高値,高齢を認め,MSAとは異なっていた.軽微な運動徴候も多かった.

以上より,2つの疾患ではconversionの危険因子が異なるため,両者の発症の鑑別が可能となるものと考えられ,以下の2つのスコアが作成された.

MSA conversion score(0~5点)
1)CASS vagal score < 2
2) 神経節前性発汗障害パターン
3) 重症膀胱障害(尿失禁,尿閉,カテーテル留置)
4) 臥位ノルエピネフリン > 100 pg/mL
5) 軽微な運動徴候
➔ 0ないし1点でconversionの可能性は低い(stable PAF)
➔ 3点以上でMSAへのconversionの可能性は高い

PD/DLB conversion score(0~3点)
1) CASS total score < 7
2) 起立時ノルエピネフリン上昇 > 65 pg/mL
3) 軽微な運動徴候
➔ 0ないし1点でconversionの可能性は低い(stable PAF)
➔ 2点以上でPDへのconversionの可能性は高い

本研究の問題点としては,単一施設の評価であること,後方視的研究であること,PAFの希少性を考えると十分な症例と考えられるものの,オッズ比,感度,特異度を求めるにはまだ不足していることが挙げられる.

以上,PAFでは12%~47%の症例が診断から数年の間にconversionすること,MSAではより早期であること,特定の危険因子の組み合わせにより,高い感度・特異性を持ってconversionの予見が可能であることが明らかになった.今回の知見は,RBDについでPAFも,MSAやPD/DLBの病態抑止療法の標的になることを示している.その意味で非常に大きな成果である.一方,conversionを予見するためこれだけの自律神経機能検査をきちんと行うのはなかなか大変だと思った方も多いのではないだろうか.症例数にしても,これだけの検査を長期にわたり行ってきたことに関しても,さすがMayo Clinicと脱帽する論文であった.

Singer W et al. Pure Autonomic Failure: predictor of conversion to clinical CNS involvement. Neurology 88;1129-36, 2017



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