Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ALSにおける静脈血栓塞栓症の頻度は高い

2014年04月13日 | 運動ニューロン疾患
深部静脈血栓症は,主に下肢あるいは骨盤内に発生する深部静脈内の血栓を指す.原因としては,Virchowの3徴がよく知られており,①血流の停滞,②血管内皮の損傷,③血液凝固能亢進が血栓を引き起こす.急性期には下肢の腫脹や疼痛が出現し,慢性期になると下腿潰瘍や壊疽を来す.しかし,最も重篤な合併症は,肺塞栓症で,死に至ることもある.深部静脈血栓症と肺塞栓症は一連の病態であることから,両者をあわせて「静脈血栓塞栓症」と呼ぶことがある.

神経疾患ではこの静脈血栓塞栓症を合併することが少なからずある.脳梗塞や脊髄外傷はその代表で,下肢の運動障害による血流の停滞が引き金になる.今回,ALSにおける静脈血栓塞栓症の頻度と,その危険因子を明らかにすることを目的とした前方視的研究が,カナダから報告されたので紹介したい.

方法は外来通院中のALS症例連続50例を,登録後6ヶ月目および12ヶ月目に,超音波duplex法を用いて下肢近位部を検査した.主要評価項目は臨床的に重大な静脈血栓塞栓症とした(分類は無症候性・症候性深部静脈血栓症,肺塞栓の3つとした).各症例において,登録から静脈血栓塞栓症の確認,死亡,追跡からの脱落,最終12ヶ月までの期間(単位person-days)を記録した.

さて結果であるが,1年の経過観察期間において,静脈血栓塞栓症は4名で認められ,その内訳は,深部静脈血栓症3名(無症候性2名,症候性1名),肺塞栓1名であった.13,011 person-daysの経過観察で,年間発症率は11.2%であった(4/(13011/365)*100).症候性に限ると5.6%となり,既報の後方視的研究の2報(2.7%,3.3%)より高かった.またこの5.6%という値は,高齢者における疫学研究によるデータ0.59%の10倍であった.

危険因子に関しては,下肢発症,および下肢筋力低下主体のALSでは,発症率は35.8%および35.5%と増加した.静脈血栓塞栓症のリスクはALSFRS-Rサブスコア(下肢)と正の相関(p = 0.03),逆に下肢活動スケールスコアと負の相関(p = 0.02),下肢筋力MRC(Medical Research Council)スケールスコア平均と負の相関(p = 0.03)を認めた.すなわち,下肢の機能が低下し,筋力低下が目立つほど,静脈血栓塞栓症のリスクが高まることを意味する.

結論として,ALS症例では外来通院の時期から健常者と比較し静脈血栓塞栓症を高率に発症し,とくに下肢筋力低下が目立つ症例はそのリスクが高かった.この結果から,下肢の筋力低下を認める症例では,深部静脈血栓症のスクリーニング検査をルーチン検査として検討すべきであること,またハイリスク症例では予防療法を行うことが必要と考えられ,今後,その効果について検討を行う必要がある.

Neurology. Published online before print April 11, 2014
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