村上春樹原理主義!

作家・村上春樹にまつわるトピックスや小説世界について、適度な距離を置いて語ります。

「ピーター・キャット」のころの村上春樹を見つけた

2016-11-29 20:13:38 | トピックス
アマゾンの 村上春樹さんの本のカスタマーレビューを読むと、
時々、あれっという文章に巡り合うことがあります。
このレビューもそう。
コピペなんかして、アマゾンとか、レビュアーに怒られそうだけど。
なかなか素敵な文章です。
 
千駄ヶ谷でジャズバーの「ピーター・キャット」をやっていた当時の
村上さんのポートレート。
このレビューは『職業としての小説家』のところで
見つけたもの。
 
保存しておきたいという気持ちも、わかるでしょ?


【アマゾン『職業としての小説家』カスタマーレビューより引用】
 

若い頃、千駄ヶ谷に住んだことがある。商店街の一角に「ピーター・キャット」という名の粗末な小屋のようなジャズ・バーがあって、群像新人賞を獲ったばかりの村上春樹さんが店主をしていた。受賞作の「風の歌を聴け」を読んで気にいった私は、店の前を通るたびに彼に出会えたらと願った。めったに会えなかったが、それでも何度かチノパンにセーター姿の村上さんを見かけた。いかにも無口で、実直で、人見知りしそうな若者だった。そんな彼に、いつか大物になって欲しいと私は密かに願っていた。

第二回「小説家になった頃」に作家デビューまでのいきさつが綴られている。この章が本書でもっとも読み応えのある部分であった。就職が嫌で、好きな音楽で食べていきたいと考えて、多額の借金を背負って店を開店したこと。何とかやって行けそうになったある日、神宮球場の外野の芝生に寝転んでビールを飲んでいて「小説を書こう」と思いついたこと。プロットを考えずに書き出したこと。仕事を終えてから台所のテーブルで明け方まで毎晩書いたこと。書いた文章をいったん英語に直し、さらに日本語に「翻訳」し直した。小説を書いているとき、「文章を書いている」というよりは「音楽を演奏している」というのに近い感覚があった。その感覚をいまも大事に保っていると言う。文章を書くことに対する彼の姿勢は当時から一貫している。この時期に作家・村上春樹のスタイルが形つくられたことがよくわかる。

本書には村上さんの小説の書き方が述べられている。継続性のある仕事の進め方。ひとつの作品に全力を傾注する環境づくり。これ以上のものは書けないと断言できるための推敲の連続。強い心を維持する体力づくりの重要性。小説を書き続ける理由。そして、メラメラと燃え上がる小説への熱い思い。面白いことに、述べられている内容は、小説の書き方をテーマにしながら、ほとんど村上さんの生き方のポリシーを語っているのだ。小説を書くのに必要なノウハウを得るなら、本書よりも大沢在昌氏の「売れる作家の全技術」(角川書店、2012年)のほうが余ほど役立つだろう。

どの職業においてもプロフェッショナル・レベルに達するには必要な修行がある。身に着けなければならない習慣と考え方がある。だからここで紹介される村上さんの小説家としての心構えや生き方は、真の職業人を目指す人には興味を引く内容であろう。村上さんの小説が好きではない人でも、小説や文学に関心がない人でも、本書には役立つヒントが豊富に含まれているのだ。本書は村上春樹書下ろしの、新しいタイプの「自己啓発本」と言ってもいいかも知れない。

村上さんの文章は、独自の深遠な思想をこれ以上は易しくできないくらい噛み砕いて書かれている。それはまるで若い聴衆を前にして、「僕はこのように生きてきたんだけど、少しでも参考になるといいな」と話しかけているようだ。一度しかない人生をいかに生きるべきかを率直に、自信をもって記しているが、いささかの傲慢さも説教臭さもない。読み終わって、確たる自分をもって、さらなる高みをめざして奮闘する孤高の村上さんの姿に心打たれた。同時に村上さんと再び出会えた懐かしさがこみあげてきた。私の予感は間違っていなかったのだ。

「僕はいまだに発展の途上にある作家だし、僕にとっての余地というか、『伸びしろ』はまだ(ほとんど)無限に残されていると思っているのです。」(294ページ)

村上さん、ますます元気で、いい小説をたくさん書いてください。


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