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2016年ポーランド映画『残像』

2017年06月15日 | 映画
 6/13(火)、梅雨寒の日、神保町岩波ホールにて。監督は、昨年10月に亡くなったアンジェイ・ワイダ。脚本は、監督自身と、『カティンの森』の原作者でもあったアンジェイ・ムラクチクが共同したようだ。この作品が、ワイダ監督の遺作になる。

 

 予想したとおり、テーマも映像も重い作品だった。

 実在したポーランドの画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ(1983~1952)の亡くなる前4年間を描いた佳作。主人公は、第一次世界大戦で片腕と片足を失いつつも、前衛画家であり、独創的な芸術理論を持ち、大学での講義は学生にも人気がある。しかし、それゆえか自信家で家庭を顧みることなく、女学校に通う娘との間には亀裂が生じている。第二次世界大戦後の、ソ連型社会主義が浸透してゆく東ヨーロッパ。その中で、ポーランドも次第に言論・表現が統制されてゆく。ストゥシェミンスキは、表現の自由が失われてゆくことに反発するというよりも、自らの芸術と理論が当局の方針に基本的に相容れないことに反発してゆく。前後の見境のない反発のなかで、やがて日々の食にも事欠くようになり、病に蝕まれ芸術とは程遠いポスター書きやマネキンの装飾をやるようになり、マネキンの中で倒れ死を迎える。

 
 アンジェイ・ワイダは、この作品で主人公の画家に自分を投影しているようにも感じた。社会主義国ポーランドの中での映画制作は、表現の自由が限られ、常に圧力がかかる、その中で表現者は健康でいられるはずもなく監督自身が90歳という天寿を全うできたのは偶然としか言いようがない。監督自身も映画の主人公のように、失意の内に死んでいても不思議ではなかったのだ。さらに、この作品の中には、もうひとつの重要なテーマがあるようにかんじた。それは、怖いのは表現の自由が抑圧されることそのことだけではなく「目的が手段を浄化してしまう」ということだ。映画の中で、「搾取の無い社会の為に・・」というセリフが何回か出てくる。それ自体は素晴らしい目的であり理想でもある、と言えるだろう。しかし、その理想の実現のために何をやっても良い、ということにはならない。「方法の問題」は、古くて新しい、いわば永遠の課題、ともいえる。
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