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山本(曻地)三郎著『しいのみ学園』2009年改訂復刻KATI出版

2016年09月17日 | 本と雑誌
 2013年に107歳で亡くなった曻地三郎氏の代表的著作『しいのみ学園』。山本は旧姓で、この本の初版は1954年。図書館で借りてすでに読んでいるが、今回、改訂復刻版がネットで安く出ていたので、それを買って読み直した。



 著者の曻地三郎先生は、医学・哲学・教育学そして文学博士であり、自身の長男と次男が小児麻痺を患ったことから開園した「しいのみ学園」の園長を長く勤められ、障害児の可能性を信じ、研究・実践活動を続けた世界的にも有名な教育者で、晩年にはテレビ出演も多かった。
 この本は1955年に香川京子主演で映画化もされ、昭和30年代のベストセラーになったという。その後、続編が書かれ、正・続を合わせた再編集版が出て、さらにその後の子どもたちの消息をまとめた『しいのみの子供たち』が1979年に出ている。しかし一過性の人気に終わったのか、再編集して文庫化され再販される、ということもなく、残念ながら現在では古本として辛うじて入手出来る程度だ。

 子どもというのは、環境によっては残酷になったり温厚になったりする。それだけに、背中を見られている大人は日々の言動に留意すべきなのだ。この本を読むと、それを痛切に感じる。また、心を閉じていた障がいを持った子供が心を開いてゆく描写は、何度読んでも感動する。著者のマヒを負った長男の方は1976年に39歳で、次男の方は2002年にそれぞれ亡くなっている。学園の運営を手伝っていた長女の方も2003年に他界されており、それに先立ち1996年に奥さまも他界されている。家族全てを失いながらも、笑顔と活動力を失わず、100歳を超えても研究と公演活動に励まれた。私財を投げうって障がいを持つ子どもの教育に挺身することだけでも並大抵のことではないのに、家族を失った後も地道な活動を続ける。これには、実にどうも、頭が下がる思いだ。

 わたしがギターを学ぶ時もっともお手本した人はブラウニー・マギーという人だが、この人は子どもの頃小児麻痺にかかり足が少し不自由な人だったという。それにめげずに独自のギタースタイルを生み出し息の長い演奏活動を続けた。さらには、7月の相模原の事件、あってはならない障害者殺傷事件に対するネット上の肯定的な反応が多かったことを鑑み、あらためてこの本を多くの人に手に取ってもらい「人の持つ可能性」について知ってもらいたいと考えている。
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