日経新聞 インターネット『「実験会社」アマゾンの戦い』=本社コメンテーター 村山恵一=

2017年06月17日 10時25分29秒 | インターネット
日経新聞 2017年6月16日(金) P.6 オピニオン面
連載コラム『Deep Insight』

『「実験会社」アマゾンの戦い』=本社コメンテーター 村山恵一=

 株式上場から20年を迎えた5月、米アマゾン・ドット・コムの株価が初めて1000ドルを突破した。

アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、フェイスブックとともに時価総額の世界トップ5に名を連ねる。

 2016年の純利益は24億ドル(約2600億円)と他の4社より1桁小さい。
にもかかわらず株価で伍(ご)しているのは、将来への期待が大きいからだ。

潜在力は本物か。
確かめるため本拠地のワシントン州シアトルを訪ねた。

    ◆    ◆

 まず向かったのは市の中心から車で約1時間の「フルフィルメントセンター(FC)」。
ネット通販の商品を蓄え、顧客に発送する倉庫だ。

14年の開設で、家電や日用品などかさばる商品を扱う。
アメフトの競技場28個分と広い。

 1千人以上が働くが、欠かせないのが数百台のロボットだ。
商品が積まれた重い棚を必要な時、必要な場所に自動で運ぶ。

棚の商品を出し入れする従業員は、倉庫内を歩き回らずにすむ。
自動化されたFCは世界に25あり、計8万台のロボットが稼働する。

人と機械のコラボで大量の商品をさばき、通販の「早い、安い」を支える。

 規模の経済を生かすのは、看板事業になったクラウドサービスも同じ。

世界にデータセンターを設け、企業は公的機関といった顧客にネットでIT(情報技術)を届ける。

16年の売上高は120億ドルを超えた。
「これまでに61回値下げした」。

ワーナー・ボーガス最高技術責任者(CTO)は語る。

    ◆    ◆

 巨大でも、鈍重でもいけない。

創業者のジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)は4月、株主にあてた手紙にこう書いた。

「大組織の内部に、どうデーワン(1日目)の活力を保つか」。
大企業の地位に安住することを戒(いまし)める。

 その姿勢は原点の書籍販売によく表れている。
膨大な品ぞろえができるネット書店を開いたのは1995年。

07年には電子書籍端末を開発し、60秒で好きな本が手に入るしくみをつくった。
デジタル技術で出版業界の風景を一変させたが、アマゾンは止まらない。

 今度はリアル書店。
ネット販売で得たデータをもとに厳選した本を売る。

1号店はシアトルにある。
音楽が静かに流れる店内では、表紙が見えるよう本が並ぶ。

場所を取るが、顧客に本との触れ合いを促す工夫という。

 同社が誕生した90年代半ば、起業家たちがアイデアを競うフロンティアはネット空間だった。

今、あらゆるモノがネットにつながるIotやビッグデータなどの技術が進化し、腕を振るえる領域はリアル空間へと広がっている。

 ラッセル・グランディネティ上級副社長が話す。
「顧客の期待はどんどん高まる。 驚かせる発明を続けなければならない」

 例えば14年に売り出した「エコー」。
話しかけて操作する人工知能(AI)スピーカーだ。

成長市場と見込まれ、アップルも年内に追随する。
「音声操作は大きく育つ。 アマゾンが競争をけん引している」。

エコーで使えるソフトを開発するシアトルの技術者、エリック・オルソン氏は興奮する。

 もちろんアマゾンも壁にぶつかる。
3年前に発表したスマートフォンは不発に終わり、巨額の損失を出した。

日本では通販の荷物急増と人手不足が重なり、宅配サービスの維持に支障をきたす。

 ライバルも強力だ。
同じワシントン州のマイクロソフト。

ソフトの巨人としてパソコン産業に君臨したのも今は昔で、足元では、ハード分野を攻める。

目の前に様々なな映像を表示する眼鏡型機器を独自に編み出し、働き方改革の道具として企業に売り込む。

 シリコンバレー勢のアルファベットは自動運転のほかITを駆使した医療を手がけ、とうに検索ビジネスの枠を超えている。

フェイスブックも、頭にもい浮かべるだけで文章を入力できるコンピューターシステムの研究に着手した。

型破りな発想はアマゾンの専売特許とはいえないが、ネットとリアルをまたにかけて事業革新をもくろむ「融通むげさ」は目を引く。

    ◆    ◆

 さらに難題もある。
世界ではアマゾンを含むITトップ5への風当たりが強い。

膨大な顧客データを握るなどして勢いづく姿に規制当局が目を光らす。
「競争を阻害する」と事業モデルやビジネス慣行に注文を付ける例も目立つ。

 確かに、社会との共生なしに、長期の成長は望めない。
解はあるか。

アマゾンの本社地区があり、従業員3万人が働くシアトル中心部を改めて歩いてみる。

 事業拡大に伴う開発工事が進む中、すでに30のアマゾンビルが立ち並ぶ。

通りに面した一等地にはレストランやコーヒー店などが入居し、にぎわっているのに気づく。

聞けば、地元企業をテナントとして招き入れ、その商売を側面支援しているのだという。

 「従業員が仕事に励む場所だけでなく、活気あるコミュニティーをつくる」とジョン・シャートラー副社長。

新設するビルの半分をホームレスの住居にあてることも決めた。
まだ局地的な動きではある。

だが、自社の繁栄を地域と分け合い、社会を置き去りにしない取り組みは、ライバルより一歩踏み込んでいるようにみえる。

 成熟し落ち着いたデーツー(2日目)企業になれば、血行が滞(とどこお)り、死が訪れるーー。

それに徹底して抗(あらが)うのがベゾス流。
もはやアマゾンを小売業者やネット大手と呼んでもピンとこない。

名づけるなら「実験会社」か。
斬新な試みを絶やさない経営。

それが時代を味方に付ける条件だ。


●関連日経記事
:2014年4月2日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 インターネット「アマゾン、クラウドで世界席巻」=米国防総省、品質に『お墨付き』=』(2014年4月1日付)

●関連日経記事:2016年9月4日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 海外メディア「アマゾンが握るクラウドの未来」=クラウド基盤の計算能力が圧倒的に高い=』(2016年8月30日付)

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