日経新聞 政治『安倍長期政権「見ない化」の果て』=本社コメンテーター 菅野 幹雄=

2017年06月16日 06時16分56秒 | 政治
日経新聞 2017年6月14日(水) P.6 オピニオン面
『長期政権「見ない化」の果て』=本社コメンテーター 菅野 幹雄=

 9日決まった2017年の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)。
1年前には明記した19年10月の消費税増税の記述が消えた。

 昨年は増税延期を決めた年だったから、石原伸晃経済財政・再生相は理由をこう説明し付言した。

「消費増税は避けて通れない。 経済状況があって19年に延期しているが、間違いなく上げていく」

 なぜその言葉を文書にせず、経済相の口頭説明で済ませるのか。

安倍晋三首相の増税へのためらいと、首相判断の余地を残しておこうという周りの忖度(そんたく)が、そこに透けて見える。

    ◆    ◆

 政府の予算や経済運営の見取り図を首相主導の経済財政諮問(しもん)会議で決め、骨太の方針として閣議決定するやり方は小泉純一郎元首相が確立した。

同政権で最後となる06年と今回の骨太の方針を読み比べると、違いは歴然とする。
 
 「人口減少・少子高齢化の経済負荷が本格化するまでに残された時間は10年程度」

 「現世代が自らの負うべき借金の返済を『声なき後世代』へ先送りすることは許されない」

 06年の骨太方針ににじむのは、高齢化が急速に進む将来への危機感だった。

諮問会議は財政健全化に向けて歳出を5年間で11兆円以上減らす目標を、社会保障や公共投資などの分野別に決めた。

 後継政権への「書き置き」。
当時の経済相で5月に死去した与謝野馨(よさの・かおる)氏はそう名付けた。

徹底的に歳出を削り、将来の消費増税を含めた歳入改革にも布石を打つ。
同年、バトンを受けたのは第1次の安倍政権だった。

 その10年が過ぎた。

デフレの長期化や世界金融危機などの逆風もあって改革は未完のままだが、当時の危機感はうかがえない。

 17年度の骨太の方針は冒頭からアベニミクスの成果を次々と列挙し「成長と分配の好循環を創り上げていく」と宣言した。

「人材への投資」として、幼児教育の無償化や高等教育の負荷軽減を新たに打ち出した。
これから一段と給付が膨張する社会保障制度をいかに立て直すかの見取り図はない。

    ◆    ◆

 安倍政権は看板の政策を次々と新しいものに切り替え、前進ぶりを訴える。
骨太の方針はそのショーウインドーと化した。

一方で、中長期の日本を覆(おお)う都合の悪い真実には触れようとしない。

 政府・日銀が目指す2つの「2%」。

実質2%の高い経済成長は財政健全化シナリオの前提であり、消費者物価の2%上昇はデフレ脱却への最終目標だ。

金融政策、財政出動、成長戦略というアベノミクスの3本の矢を4年も放(はな)ち続けても成長率は1%台半ば、物価上昇は0%台前半にとどまる。

 基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年後に黒字にする目標の達成は極めて厳しい。

内閣府の試算では、19年度に2%の成長が実現する楽観的な想定でも8兆円の追加的な収支改善が要る。

だが、日銀の政策委員が4月に示した19年度の成長率見通しは0.7%。
内閣府が厳しめの試算の前提とする1.1%よりも低い。

 脱デフレへ、日銀は長期金利をゼロ%に抑え込む力業(ちからわざ)を駆使する。
景気がやや上向き失業率が歴史的な低水準に下がっても、物価にはなかなか転嫁しない。

 超金融緩和で利払い負担が軽くなると、財政規律を緩める誘惑が働く。

「債務残高の対国内総生産(GDP)比率の安定的な引き下げ」を基礎的財政収支と同列の財政目標にしたのは、その象徴だ。

 歳出を増やして経済をふかしても当面、金利はそれほど上昇せず、規律の乱れは目立たない。

日銀の政策が歳出の大判振る舞いの動因になるなら、皮肉な構図だ。

 消費増税を2度延期し、社会保障の給付の急増に備えた制度改革も手つかずのまま。

そんな安倍政権の手法に慣れた国民の側にも、厳しい現実から目をそらす「見ない化」が浸透し始めている。

 「今の若者世代には将来への深い絶望感が広がっている。 不安がありすぎるため、負担増を拒否して今の生活が楽しめればいいと考えがちだ」と鶴光太郎慶大教授は話す。


同氏らが数年前に実施したネット調査で「増税せず社会保障を拡大」という考えを支持した20歳代の比率は全体の35%と、どの年齢層よりも多かった。

傾向はいま、さらに強まっているとみる。

 負担増を嫌う高齢者が高投票率で政治を動かし、若者に犠牲を強(し)いる「シルバー民主主義」が言われて久しい。

だが、事態はもっと深刻なのではないか。
担い手の若い世代が負担増を拒むようになれば制度が全く立ちゆかなくなる。

 長期政権のもとで「見ない化」はさらに広範囲に及んでいる。

人事権を首相サイドに握られる霞が関の官僚は痛みの政策を進言するのをあきらめ、アカデミズムにも経済界にも徒労感が広がる。

    ◆    ◆

 安倍首相は5月、憲法改正で「20年度の施行」という目標を明言した。

最重要の課題として改憲の2文字が刻まれ、経済政策は骨太な改革よりも足元の景気を腰折れさせない点に軸足が移るだろう。

 25年までには団塊世代がすべて75歳以上となり、少子高齢化の負荷はピークとなる。

「見ない化」がさらに広がり、打つべき改革を怠れば、若い世代に残す負のレガシー(遺産)は甚大になる。

 将来への責任を形に残せないか。
9条改正や教育無償化に加え、財政規律を守る憲法の規定をもうける。

財政の長期展望を示す独立機関を設置して政府に注文を付ける。
様々なアイデアがある。

 小泉時代を抜き、戦後3位の長期政権となった安倍政権。
10年後、20年後の日本に何を引き継ぐかを決める時期に来ている。


●関連日経記事
:2013年4月24日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 ことば「プライマリーバランス(PB)」=基礎的財政収支=』(2013年4月23日付)

●関連日経記事
:2014年5月17日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 経済「世代間協調の不可能性」=財政再建は期待できない・・・=』(2014年5月16日付)

●関連日経記事
:2017年6月16日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 社会「2025年問題から2050年問題」=「団塊世代」問題より深刻な「団塊ジュニア世代」問題!=』(6月15日付)

●関連日経記事:2017年5月28日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 自己啓発「ヤング世代の甘い危機感」=現実の日本経済は「なだらかな下りのエスカレーター」なので…=』(5月27日付)

●関連日経記事
:2014年7月11日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 一般常識「確定拠出年金をフル活用」=30代共働き夫婦のサバイバル家計術=』(2014年7月9日付)

●関連日経記事:2017年2月5日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 自己啓発「老後資金は確定拠出を優先」=投資の非課税制度どう使い分け?=』(2月4日付)

●関連日経記事
:2017年6月16日グー・ブログ「同上」 投稿記事参照
 日経新聞 保険・年金・税金「確定拠出年金 個人型が30~40代層で大幅加入増」=対象が拡大・税優遇浸透=』(6月15日付)

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