日経新聞 人物紹介『ノーベル賞学者の悩みに驚き/能天気に「物理屋」目指す』=宇宙物理学者 須藤靖氏=

2017年10月10日 01時54分34秒 | 人物紹介
日経新聞 2017年10月7日(土) P.28 読書面
連載『半歩遅れの読書術』=宇宙物理学者 須藤 靖=

『ノーベル賞学者の悩みに驚き』=能天気に「物理屋」目指す=

 郷里の高知から上京し大学に入学したのは今から40年前。

必ずしも明確な問題意識のないまま、漫然と数学か物理学を学びたいと考えた。
正直に言えば、たまたま高校時代に数学が好きだった程度の理由だった。

 すでに湯川秀樹や朝永振一郎にあこがれて物理学を志す世代ではなくなっていたものの、物理屋とは何たるかを知るべく、彼らの著作を読んでみた。

湯川の文章からは、強固な信念と才能を兼ね備えた人間でない限り物理学はできないとの強烈なメッセージを受け取り閉口した。

 これとは正反対の印象を受けたのが朝永の『わが師わが友』(講談社学術文庫)である。

本棚から引っ張り出したところ、昭和54年第3刷とあるので、物理学科3年生の時に買って読んだものらしい。

 「何でもよいからほんのつまらないものたった一つだけでもよいから仕事をし、あとはどこかの田舎で余生を送れたら、などと本気で考えていた」、「こういう状態から抜け出させてくれたのは、仁科先生との出会いであった」(「わが師わが友」)、

「仕事の行き詰まりを訴えて、少しばかり泣き言を仁科先生に書いたのに、先生から朝方に返事がきた。 センチだけれども読んでなみだが出てきた。 いわく、業績があがると否とは運です。 (中略) ともかくも気を長くして健康に注意して、せいぜい運がやってくるように努力するよりほかはありません。 うんぬん。 これをよんでなみだが出たのである。 学校へ行く路でも、この文句を思い出すごとに涙が出たのである」(滞独日記)

 ノーベル賞に輝くほどの大学者であろうと、悩みや苦しみを抱えているとは夢にも思わなかった。

さらにそれを隠すことなく正直に書き連ねる姿勢にも、驚きと感銘を覚えた。

おかげで自分のような人間でも何とかなるかもと勇気づけられ、とりあえず物理学を目指してみようかという気になった。

 それから40年。

ありがたいことに、「わが師」「わが友」さらに「わが学生」に恵まれ、研究人生を楽しんできた。

 ただこの歳(とし)になると、優秀な人間ほど、自分の目指す理想と現実との乖離(かいり)に悩むことがわかる。

『わが師わが友』で吐露されていたのは、まさにその例なのであり、凡人が読んで安心してよい話ではなかったのだ。

 そのような事実に思い当たることができなかった若き自分の能天気さを恥じる一方で、とはいえやっぱり能天気に生きるのが一番とも思い直す今日この頃である。


●関連日経記事
:2015年10月28日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 自己啓発「活動記録つける習慣、 自分を知り、ほめる」=チンパンジーと博士の 知の探検 ㉓(2015年10月25日付)

●関連日経記事
:2015年8月17日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 自己啓発「初登頂の精神、研究に通ず ⑬」=京都大学霊長類研究所教授 松沢哲郎=』(2015年8月9日付)

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