日経新聞 安心・安全「欧州、社会分断の影」=「イスラム国」弱体化と世界 (下)=

2017年07月13日 16時50分46秒 | 安心・安全
日経新聞 2017年7月12日(水) P.9 国際2面
特集連載『「イスラム国」弱体化と世界 (下)』

『欧州、社会分断の影』=疎外される移民は敵意=

 シリアのアレッポ出身のバッセルさん(35)は、難民として渡ったフランスでの経験が忘れられない。

内戦が続く故郷を逃れ2012年、決死の覚悟でトルコから地中海を渡った。
だが待ち受けていたのは厳しい現実だった。

 「本当に難民なのか?」
「過激派の一味ではないのか?」

いわれのない疑いをかけられ、シリアに強制送還された。

 「同じように受け入れを拒まれた若者の一部は国に送還され、過激派組織のアルカイダや『イスラム国(IS)』に加わった。 みんな欧州に失望した」と語る。

人権や民主主義といった欧州の理想は、自分たちイスラム教徒には適用されないのだと感じた。

 欧州の極右政党などは「反イスラム」や「反移民」の言動で支持者を増やそうとしている。

 「移民よりももっと大切なのがフランスを守ることだ」。

国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は大統領選の最中、パリで開いた支援者集会でこんなスピーチをした。

 だが、こうした社会の分断こそがISの養分だった。
欧州各国で相次ぐテロで典型的な実行犯は、差別を受ける中東系の移民だった。

貧困層に生まれた移民の2世や3世の若者が社会に溶け込めず、過激化した。
 
 仏南部ニームにある短期受刑者向けの刑務所。
墓地の隣に、高さ7メートルほどのコンクリートで囲まれた大きな敷地にある。

じっとり湿った広さ4畳半程度の雑居房には3人が入り、1日2時間ほどの運動時間以外は一緒に過ごすという。

 パリ同時テロやブリュッセル連続テロでは実行犯の多くが刑務所内で過激化したとみられた。

刑務所の実態は欧州社会の統合の失敗を映す。

 過剰収容の施設で更生を担うのは主にキリスト教の聖職者だ。
正しいコーランの教えを説くイマーム(イスラム聖職者)はきわめて少ない。

イスラム教徒の受刑者は欧州社会に定着するどころか、敵意を膨らませて出所しかねない。
社会で差別に直面する元受刑者は過激組織以外の居場所を失う。

 米国ではトランプ大統領が選挙期間中の移民やイスラム教徒への差別発言がきっかけとなり、反イスラムの憎悪犯罪が増えた。

米イスラム系団体の調査によると、2016年の米国での反イスラム犯罪は前年比57%増の2213件に上った。

 差別や阻害は現実社会だけの問題でない。
ISが新たに広げた対テロの重要な戦線は、サイバー空間にある。

 「業界としてやるべきことがまだあることは認めざるを得ない」。
米グーグルのケント・ウオーカー上級副社長(法務担当)は語る。

過激思想の拡散の温床になっていると批判を浴びる同社や米フェイスブックなどネット大手は、人工知能(AI)の活用や外部の専門家との連携を柱としたテロ対策の強化に動く。

 IS支持などの投稿は発見次第、削除してきた。
だが、テロ事件が相次ぐ欧州を中心に一段の取り組みを求める声が高まっている。

 政治家や企業が一体となって、社会の分断を修復を急がなければ、ISが世界にばらまいた過激主義の恐怖は消えない。

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岐部秀光記者、小川義也記者、飛田雅則、白石透冴記者が担当しました。


●関連日経記事
:2017年7月12日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 国際「消えぬアラブの閉塞感」=「イスラム国」 弱体化と世界 (上)=』(7月11日付)

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