日経新聞 英語「実況 アリスと名文の国」=キャロルの児童文学 原文を精読する楽しさ教える 山口学芸大学・下笠徳次教授=

2017年08月11日 06時47分30秒 | 英語
日経新聞 2017年8月9日(水) P.40 文化面
『実況 アリスと名文の国』=キャロルの児童文学 原文を精読する楽しさ教える 下笠 徳次=

 「賢い」を英語で表現したい時、ぱっと浮かぶ英語は何だろうか。
「clever」それとも「wise」?

    ◆    ◆

「児童文学の奥深さ」
 私は大学院を出て研究の道に入って以来、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」を英英辞典を引きながら精読して読むことを大学生に教え続けてきた。

特別支援学校での授業を引き受けたことがきっかけとなり、今春には実況中継形式の対訳本もい自費出版した。

 この本の中でも詳しく紹介したがキャロルは「賢い」をどう表現したか。
主人公である7歳の少女アリスについてキャロルは必ず「wise」を使った。

「clever」は、机の上の学問がよくできること。
いわゆるペーパーテストで高得点を取る場合。

wiseは、あいさつをしたり、会話中に雰囲気が悪くなると話題を変えようとしたりと大人顔負けの立ち居振る舞いをする利発で利口な様子を表す。

 2作品を翻訳はもちろん原文で読んだ人もいるだろう。
高校2年の英語力があれば大意をつかむことができる。

しかし、文章の構成や単語を一つ一つ丁寧にみると、書かれた英語がいかに洗練されているかがわかる。

こうした深い理解にも英英辞典は役立つのだ。

 キャロルは数学講師で、あいまいな表現を用いることなく、文章は理路整然としている。

「不思議の国」は7歳の少女アリスに向けて書かれたために教育的配慮がなされ、「鏡の国」はさらに推敲(すいこう)を重ねたことで名文になった。

たかが児童文学、されど児童文学だ。

    ◆    ◆

「辞典引き読み解く」
 では、英語文学を真に鑑賞するためにはどうすればいいか。

英語の辞典を使うのが一番というのが私の哲学。
言葉の壁がなくなるのだ。

 英語の辞典は百花繚乱(ひゃっかりょうらん)だが、オックスフォード英語辞典(OED)が最も信頼できるよりどころといえる。

ただ、引くのは至難の業(わざ)。

そこで重宝するのが小型で良質なポケット・オックスフォード辞典(POD)と、現役高校生になじみ深いロングマン現代英英辞典(LDOCE)。

これらを参照すれば、読む度(たび)に新たな発見が待っている。

 例えば「不思議の~」の第7章「A Mad Tea-Party(おかしなお茶会)」の「tea」に関し、PODは「植物としての乾燥した茶葉」の説明から入り、複合語の列挙、「お茶にしませんか?」は「軽い食事にしませんか?」と同義であると解説する。

豊かなtea文化を持つ英国ならでは。
お茶の概要を知ることで深い読み解(と)きが可能になる。

    ◆    ◆

「特別支援学校で授業」 
 私は大学の専門課程では国文学専攻だった。

3年生の時に受けた著名な英文学者の講義に魅了され、教授を追いかけるように広島大大学院に進学。

アリス2作品と運命的な出会いを果たした。

言葉の起源に関心を持ち、多くの英語の語源であるラテン語を学びつつ、言葉の意味を突き詰める研究を続けてきた。

 2作品を英英辞典で精読する講義を続ける中、数年前、故郷、鹿児島の知り合いの特別支援学校の校長から「アリスを好きな生徒がいる。 授業をしてくれないか」と呼ばれた。

実は私も30代で交通事故に遭い頭を強打、左耳がほとんど聞こえず、右耳に補聴器をつけ、読唇術で意思の疎通をはかっている。

 障害のある子供がアリスの話を夢中になって聞く姿に心を動かされた。
耳が聞こえなくとも私の授業を”体感”して欲しいと思い、アリス本を書こうと決意した。

 対訳本は通常、見開きの左側に原文、右側に邦訳が記され、注釈が脚注として示してあるが、目指したのは授業の再現。

原文を記し、その流れで注釈を挟み、また原文を掲げ、注釈を入れる。
目の前で授業が繰り広げられているような実況中継形式にした。

 2作品の授業をまとめた試し刷り300セットはあっという間に品切れに。
読み手は高校生から大学生、社会人へと広がった。

受験英語の影響か、速読が励行され、精読はないがしろにされている。

しかし、ある進学校の生徒から「じっくり読む面白さを知ることができた」という感想をもらい、本をつくったかいがあったと意を強くした。

 文章の真意は書いた本人にしかわからないが、百パーセントの理解に近づきたい。
それが研究者の真意だ。

名作は細部にある。
外国文学を原文で読む楽しみに気付いてもらえたら、私の使命は果たされた気がする。

▼しもがさ・とくじ
山口学芸大学教授。


●関連日経記事:2017年1月18日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 英語『英語を「話す」と「書く」の溝』=立命館大学准教授 山中司=』(1月17日付)

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