日経新聞 経済「中央銀行の長い戦後処理」=2007年夏の米サブプライムローン問題で始まった世界金融危機=

2017年05月14日 03時58分45秒 | 経済
日経新聞 2017年5月11日(木) P.6 オピニオン面
連載コラム『中外時評』

『中央銀行の長い戦後処理』=上級論説委員 藤井 彰夫=

 ゴールデンウイーク明けの5月8日、東京都内のホテルに、世界の中央銀行幹部が集結した。

 黒田東彦日本銀行総裁をはじめ、米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、中国人民銀行からも総裁・理事級が参加する国際決済銀行(BIS)の会合。

通常本部のあるスイス・バーゼルで開くが、今回は東京で特別に開催した。

 多くの出席者は、8日未明に結果が伝わった仏大統領選でのマクロン氏当選にホッと胸をなでおろした。

昨年の英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票に始まったポピュリズム(大衆迎合主義)旋風に歯止めがかかるかもしれないとの期待からだ。

ただ、それだけでセントラうバンカーの悩みが消えるはずはない。

 世界金融危機の引き金になった2007年夏の米サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題の表面化からもう10年になる。

世界の風景を変えた危機は、4つの段階で深まっていった

▼第1段階・金融危機
 サブプライム問題に始まった金融危機はわずか1年で、リーマン・ブラザーズなど大手金融機関を破綻(はたん)に追い込み、世界の市場をまひさせた。

●関連日経記事:2013年10月21日グー・ブログ「息子たちに読んでほしい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 経済史「金融危機、バフェット氏も動く」=ゴールドマンやGEに出資=』(2013年10月20日付)

▼第2段階・経済危機

 カネのめぐりに急ブレーキがかかり、金融危機は世界同時不況をもたらした。

日米欧と新興国は首脳会議を開き、金融システム安定策、景気対策で国際協調を進めた。

●関連日経記事
:2013年12月17日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 経済「FRB、量的緩和縮小が与える影響を注視」=米の金融政策転換が近い=』(2013年12月16日付)

▼第3段階・財政危機
 バブル崩壊に伴う税収減と景気対策の結果、多くの国で財政赤字が膨らんだ。

ギリシャなどユーロ圏債務危機、米国債格下げなど金融危機のツケは政府部門にまわった。

▼第4段階・政治危機

 税金による銀行救済、長引く景気低迷と格差拡大に不満を持つ市民は、既存政治に反旗を翻(ひるがえ)した。

英国のEU離脱、トランプ米大統領誕生を支えたポピュリズム、反グローバル主義のうねりは、政治の危機をもたらした。
 
 政治が機能不全に陥(おちい)るなかで中央銀行は孤独な戦いを強いられた。

おきて破りと見られた国債、社債などの資産購入やマイナス金利といった奇策も繰り出した。

ようやく出口が見えても、その先には膨大な戦後処理が残る。

 まずは大きく膨らんだ資産の圧縮だ。

FRBは年内に先陣を切って資産縮小を始める見通しだ。

ECBも来年には量的緩和の縮小に動くとの観測がある。
最後尾の日銀は、2%の物価目標達成は遠く、資産圧縮のめどは立たない。

 「利上げのジンクス」。

みずほ総合研究所チーフエコノミストの高田創氏によると、1970年代以降の日米欧の引き締め局面では、利上げは米欧が先行し日本がいつも最後。

その翌年には世界経済が減速し、米国が利下げに向かうので日本も利上げできなくなった(=日米の金利差が開き、さらに日本が利上げすると円高が進み、景気に急ブレーキがかかってしまう)。

過去に5回これを繰り返したが「今回は日本が1回も利上げできず、ジンクスが当てはまらないかもしれない」と高田氏はみる。

 中央銀行の戦後処理は日米欧でかなり時間差がつく。
その帰結はどうなるのか。

 金融危機後の金融政策は、ざっくり言えば市場機能を殺すことにあった。
国債購入で従来は制御不能とされていた長期金利も低く抑えつけた。

日銀は株式・不動産市場にまで管理の手を伸ばした。

●関連日経記事:2015年7月5日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 経済「日銀、第2の買い手に」=今年上期、日本株購入1.6兆円=』(2015年7月4日付)

 米国から始まる戦後処理は、マネーを中央銀行から市場の手に返すいわば「大政奉還」だ。

市場に戻ったマネーは時として大きく変動する。
中銀による官製相場に慣れ切った人々には衝撃だろう。

 米国の利上げで米長期金利が急上昇した場合、日本の長期金利に上昇圧力(=国債価格の低下圧力)がかかる可能性がある。


10年物国債利回りをゼロ近辺に固定している日銀は、上昇圧力を抑えるために国債を必死に買い支えなければならなくなる。

 日銀が何とか超低金利を維持すると日米金利差は拡大する。

そこで円安・ドル高が進めば、トランプ政権は「金融政策による通貨安誘導だ」と批判するかもしれない。

 官製相場から脱する金融政策の戦後処理は長い道のりだ。
その過程は、中央銀行と政府と市場が入り乱れた新たな混乱の物語の始まりかもしれない。

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 日経新聞 自己啓発「アング... | トップ | 日経新聞 政治『「ロシアゲ... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。