日経新聞 国際「人民元の国際化、IMFとの約束ほごに」=米カリフォルニア大 ベンジャミン・コーヘン教授=

2017年06月10日 11時10分53秒 | 国際
日経新聞 2017年6月9日(金) P.6 オピニオン面
連載コラム『グローバル オピニオン』

『人民元の国際化 約束ほごに』=米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授 ベンジャミン・コーヘン氏=

 中国は5月下旬、通貨・人民元の対ドル取引の基準となるレート「基準値」の算出方法を見直し、相場の管理を強化した。

国際通貨基金(IMF)が2015年11月、通貨危機などに備えて加盟国に配る特別引き出し権(SDR)の構成通貨に16年10月から元を組み入れるとした際の約束を事実上、ほごにしたことになる。

 中国の最近に動きによって元への信頼が高まるとは到底いえない。

一部の専門家が警告したように、元のSDR構成通貨への組み入れは極めて政治的な決定で、長期的にはマイナスの影響を及ぼしかねない。

SDRは以前、ドルとユーロ、英ポンド、日本円で構成されていた。
いずれも、第1に世界の主要輸出国が発行している通貨だ。

第2に「自由に使える」、つまり世界中で広く交換されており、IMFの2つの採用基準を満たしている。

 元はSDRに組み入れられた当時、第1の基準しか満たしていなかったといえる。

中国はすでに世界最大の輸出国だったが金融市場は未発達で、元は自由に使える通貨にはほど遠かった。

15年の統計では、元が世界の中央銀行の外貨準備に占める比率は7位、国際債券の発行で8位、為替取引は11位だった。

 それでも元はSDRに組み入れられた。

中国は何としても採用されたいという姿勢を鮮明にし、誰も巨大な竜にひじ鉄を食らわせたくなかった。

IMFと主要参加国は通常の基準にこだわらず、元をいずれもっと使用可能な通貨にするという中国のあいまいな約束を受け入れた。

 中国人民銀行(中央銀行)は従来、市場心理の底流を無視して日々元の対ドル基準値を設定し、極めて狭い変動幅しか認めてこなかった。

しかし元がSDRに採用される以前から、中国政府は元相場の管理を緩和すると発表していた。

人民銀は日々の基準値を決める際に市場実勢に配慮すると宣言し、資本規制を徐々に緩和すると約束した。

そうなれば投資家にとって元の魅力が増す。

 ところが中国当局の最近の動きは、ルールに従う意思がないことを示唆している。

人民銀は為替相場の管理を緩和するどころか規制を強め、市場心理が意思決定に果たす役割を縮小しようとしている。

人民元は自由に使いにくくなっている。

16年半ば以降、中国は元が海外に流出してドルに交換されるのを防ぐため、厳しい資本規制を導入した。

また中国企業による対外直接投資に新たな制限を設けるようになった。

 中国が約束を守らなかった理由は容易に理解できる。
豊かになった中国市民は富を海外に移す方法を模索してきた。

元の下押し圧力が強まり、人民銀は1兆ドル(約110兆円)以上の外貨準備を使った元相場の下支えを余儀なくされた。

5月下旬の米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによる中国国債格付けの引き下げを阻止するには不十分で、政策決定者は守勢に立たされた。

 中国の現在の問題は、市場開放への長い道のりにおける一時的な遠回りに過ぎないかもしれない。

しかし、そうでない可能性もある。

中国政府が資本市場の開放に真剣に取り組むつもりであれば、中国共産党による政治経済の統治モデルの核心に迫る改革を断行する必要がある。

ただ効率的で解放された金融部門は、特に金融抑圧が中国の専制政治機構の主要な要素であることから、中国共産党の権威を大きく損ないかねない。


 中国政府が元のSDR組み入れを強く主張したのは時期尚早だった。

最悪の場合、インドやロシアのような新興国が、IMFの基準を満たしているかに関係なく同様の扱いを求める可能性がある。

IMFの権威失墜などお構いなしに、裁量的な政策をとる中国が名誉ある排他的なクラブに入れるのであれば、自分たちも入れるはずだと主張するだろう。

唯一の解決法は、中国が真剣で恒久的な金融自由化を進めると信頼できる約束をしない限り、元のSDR組み入れを取り消すことだろう。

▼Benjamin Cohen
 米コロンビア大博士。

専門は国際金融、国際政治経済学。
同タフツ大教授などを経て現職。

著書に「通貨の地理学」。
80歳。

(©Project Syndicate)


●関連日経記事:2015年12月23日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 国際『「国際通貨」裏の顔』=「中国と世界」 膨張とあつれき ②=』(2015年12月22日付)

●関連日経記事:2017年6月10日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 経済「アジアを舞うハゲタカ」=中印に債務拡大問題が潜む=』(6月9日付)

●関連日経記事:2017年1月7日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 国際「中国、資本流出阻止に躍起」=政府、個人にも資本規制=』(1月6日付)

●関連日経記事:2016年11月24日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 国際『中国「隠れ借金」拡大』=地方政府、「融資平台」を通じて債券発行27兆円=』(2016年11月23日付)

◆聞き手より:
『統制いずれ限界に』

 世界経済と中国との関係で、今世紀に入ってから2つの節目があった。
1つは2001年の世界貿易機関(WTO)加盟。

中国が透明なルールに基づく経済運営に移ると世界は期待した。
もう1つは08年のリ-マン・ショック。

巨額の景気対策で未曽有(みぞう)の危機を乗り切り、中国は統制的な経済運営に傾斜した。

人民元相場の管理強化はその延長線上にある。

 中国が掲げる大義名分は「安定」。

しかしその恩恵を最も享受しているのは国有企業などの既得権益層で、透明性を欠く経済は不平等な社会の仕組みと同根だ。

 中国が国際社会の声に本気で耳を傾けるかは疑問。
だが長く続く成長鈍化で今のやり方はいずれ限界に達する。

市場(=原理)に基づく効率的で平等な経済の実現が真の課題になる。

(編集委員 吉田忠則)

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