日経新聞 経済『「最高」遠い日経平均の警告』=本社コメンテーター 梶原誠氏=

2017年07月15日 06時09分46秒 | 経済
日経新聞 2017年7月14日(金) P.6 オピニオン面
連載コラム『Deep Insight』

『「最高」遠い日経平均の警告』=本社コメンテーター 梶原 誠=

 「なぜ日経平均株価だけが取り残されているのか」。

いらだちが最近、市場関係者の間でくすぶっている。

 世間には今、「過去最高」があふれている。

かっては株価と並んでバブルの象徴といわれた東京・銀座の一等地の地価が、1992年の過去最高を超えた。

訪日外国人観光客も、正社員の有効求人倍率も、宅配便の取扱個数も、上場企業の純利益も過去最高だ。

 それぞれは小さな一歩かもしれないが、記録更新の裾野がここまで広がれば違う。
日経平均は1989年の最高値、3万8915円の約半分でうろついている。

同年の男子やり投げの日本記録が28年後の今も残っているのに似た、化石のような違和感がある。

    ◆    ◆

 海外景気が株価を抑える原因かといえば、答えは逆だ。
過去最高は世界規模で続出している。

 独フォルクスワーゲンは自動車業界の世界販売記録を昨年更新した。
半導体の世界販売記録は今年も塗り替えられる見通しだ。

米国の個人純資産も増え続け、米国内総生産(GDP)の70%を占める消費を支えている。

人為的、つまり政府がアクセルを踏んだ結果とはいえ、中国の鉄鋼生産は4月、月間過去最高を記録した。

 そもそも、ここにきて進んでいる世界的な長期金利の上昇は、景気の回復観測が背景だ。
米国、英国、インド、韓国など、多くの国で今年、主要株価指数は過去最高を更新した。

 日経平均が取り残されている一因は指数を構成する企業、つまり長い伝統を誇り、日本経済を背負ってきた大企業にあると私は考えている。

 日本の株価指数でも、比較的若い企業の株で構成する日経ジャスダック平均株価は26年ぶりの高値を更新したばかりだ。

日経平均構成企業の「年齢」は平均85歳と、シャスダック企業の51歳より30年以上長い。

売上高は平均101倍、従業員数で同10倍に及ぶ。

 このような大企業には、過去の事業の多角化などで蓄積した経営の非効率が残っているはずだ。

 問題に気づいているのは、経営者自身でもある。

トムソン・ロイターによると、ファンドが買い手となる日本企業の買収は昨年297件と過去最高になり、今年も同じペースが続いている。

このうち3割以上が日立製作所による日立工機の売却に代表される、大企業が踏み切った非中核事業の切り離しだ。

「選択と集中」である。

    ◆     ◆

 ならば、改革に動いているのに投資マネーを引きつけられないのはなぜか。
専門家と議論した。

 「ライバルの存在を忘れてはならない」。
買収ファンドを運営するロングリーチグループの代表取締役、吉沢正道氏は指摘する。

QUICK・ファクトセットによると、主要企業の営業利益率は昨年6.5%と、リーマン危機後の最高水準にある。

だが米国は10.6%とさらに上を行く。
労働生産性も高まってはいるが、米企業の8割弱の水準が続いている。

 改革の「質」を高める提案もある。
「世界を見渡し、最高の人材に来てもらえる会社かを自ら問うべきだ」。

米ボストン・コンサルティング・グループの最高経営責任者(CEO)、リチャード・レッサー氏は強調する。

 人口減で成長の源泉を外国に頼らざるを得ない日本企業にとって、グローバル化は死活問題だ。

外務省によると、日本企業の海外拠点数は昨年7万2000と、2005年の調査開始以来最大だ。

だが問われるのは規模だけではなく、グローバルな競争力があるかだ。

そんな人材を迎えるには人種や性別の多様化や、意思決定を速めて成果を出しやすくする企業風土が欠かせないと同氏は説く。

 「東芝の経営迷走は、日本企業のリーダーシップに問題があることを示した」。
投資銀行出身の経営学者、一橋大の伊藤友則教授は語る。

強いリーダーシップは独自の戦略をもたらし、同業他社との横並びを意識するだけの経営から脱する原動力でもある。

大胆な投資はイノベーションを生み、生産性を高める。
企業が持つ現金は最高水準に積み上がっている。

 日経平均が天井を打った89年末からの28年間、逆風を突いて最も時価総額を高めた企業群には、ニトリホールディングスなどオーナー型経営の企業が多い。

偶然とは思えない顔ぶれだ。

    ◆    ◆

 円安株高を基調とする12年末からの「アベノミクス相場」の初期、私は副作用を恐れた。

日銀による国債の大量購入が禁じ手の財政ファイナンスにつながらないか、国債が市場の信用を失って長期金利が急騰し、利払い負担で財政が一段と悪化するのではないか、金融機関は保有する国債の価格暴落で苦しみ、日本はギリシャのようになるのではないかーー。

 それでも当時、考えをひとまず横に置いた。
劇薬に違いないが、政府も日銀もそれまで取らなかったリスクを取った。

9000円を下回っていた日経平均は2万円台に回復し、凍り付いていた企業家心理も暖まった。

売却価格が上がったからこそ、経営者は非中核事業を手放せたのだ。

 だが、劇薬だからこそ日銀の異次元緩和も出口が来る。
先送りを重ねた消費増税も19年に迫っている。

日本企業はこれらの重力を振り切ったうえで世界で戦えるだけの成長力、いわば「脱出速度」をこの5年間で得ただろうか。

取り残された日経平均は、「すべきことがある」と警告している。

▼時価総額の増加率
(1989/12~2017/6)
①ニトリホールディングス 83.3倍

②ヤマダ電機 43.3倍
③日本電産 33.9倍

④ヒューリック 22.5倍
⑤キーエンス 21.7倍


●関連日経記事:2017年7月10日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 経営「会社を潰すのは経営者」=日産自動車のゴーン氏、シャープの郭氏の再建にみる=』(7月7日付)

●関連日経記事:2016年11月10日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 経営『日本電産・永守重信氏など 「人材強化で革新」』=第18回日経フォーラム「世界経営者会議」=』(2016年11月9日付)

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