日経新聞 国際「米欧の亀裂 明日は我が身」=「世界の警察官」役を放棄せざるを得ない米国経済=

2017年07月08日 09時40分45秒 | 国際
日経新聞 2017年7月7日(金) P.6 オピニオン面
連載コラム『Deep Insight』

『米欧の亀裂 明日は我が身』=本社コメンテーター 秋田浩之=

 きょう、世界の目が欧州に注がれる。

米欧やアジアの指導者が集まり、ドイツで20カ国・地域(G20)首脳会議が始まるからだ。

 国際政治が激動するとき、欧州は良くも悪くも、その発端(ほったん)となってきた。

2つの世界大戦の口火を切ったほか、米ソ冷戦に幕を引いたのもベルリンの壁の崩壊だった。

欧州の出来事は他人ごとではなく、形を変えて、アジアにも押し寄せるとみるべきだ。

 その意味でいま、注目に値する変化が欧州で起きている。
米国におんぶにだっこでは、自分たちの平和を守れないーー。

こんな不安が強まり、自前の安全保障を探らざるを得なくなっているのだ。

 先月、会議で訪れた欧州で、そんな張り詰めた空気をひしひしと感じた。
印象的だったのが、バルト海に面し、ロシアの軍事挑発にさらされるスウェーデンだ。

    ◆    ◆

 来年1月、ついに徴兵制を復活させるという。

中立を守るため、同国は1901年から100年以上、徴兵制を続けてきたが、2010年にいったん廃止した。

 再び導入する理由について、現地の欧州外交筋はこう明かした。

「万が一、ロシアから侵略されても、米国が介入するかどうかわからない。 スウェーデンはそう感じ、徴兵を再開するのだ」
 
 スウェーデンは米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)に入っていない。

だがNATOに加入し、米国の「安保の傘」に守られているはずの国々も、真剣に自衛強化策を議論している。

 たとえばドイツだ。

ベルリンでは、戦後、ずっとタブー視されてきた核兵器保有論がにわかに飛び出し、物議を醸していた。

 ドイツの高級紙「フランクフルター・アルゲマイネ」の編集者が最近、核保有を唱えるコラムを書き、安保専門家も似たような意見を発表した。

「賛同者はごく少数だが、核保有が公然と議論されるだけでも、以前なら考えられない」(ドイツ政府ブレーン)

 変化の直接のきっかけは、言うまでもなく、同盟を軽んじるトランプ米大統領の言動にある。

    ◆    ◆

 極め付きは5月25日、トランプ氏を初めて迎えたNATO首脳会議だった。

彼の機嫌を損ねないよう、欧州側は1人あたりの発言を数分内に制限し、結束を取り付けようとした。

 ところが、トランプ氏は演説で、欧州への防衛義務を履行するとは確約しなかった。

内情を知る欧州外交筋によると、トランプ氏は「夕食会などではさらに非礼な態度をとり、米国は信用できない印象を植え付けた」という。

 6月9日、欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は「欧州防衛はもう、外国任せにできない」と演説した。

米国との同盟は堅持するものの、対米依存度を少し下げるため、EUは独自の安全保障協力を深めていく方向という。

 では、この動きを、アジアはどうみたらよいのか。
2つの正反対の仮説が考えられる。

 ひとつは、欧州とアジアでは事情が大きく違うため、似たような問題は日米や米韓同盟には起きないというものだ。

日本の政治家や官僚と話すと、こちらの楽観論の方が多い気がする。

 実際、トランプ氏は日米や米韓同盟への露骨な批判は控えている。
アジアでは北朝鮮が核・ミサイル開発で暴走し、中国が影響力を増す。

国内総生産(GDP)でロシアの5倍超の中国と渡り合ううえでも、アジアの同盟国は大事にせざるを得ないという訳だ。

 だが、もう一つ、全く逆な仮説も成り立つ。

米欧同盟のきしみはアジアの「先行指標」であり、程度の差こそあれ、日米や米韓にも波及するという予測だ。

 私はどちらかと言えば、こちらの見方の方が正しいように思う。

米欧同盟のあつれきは構造的な物であり、03年、ブッシュ政権がイラク戦争を強行した時から始まっていたからだ。

 その後、欧州が米国に防衛をただ乗りしていると怒り、応分の負担を迫ったのはオバマ政権だ。

彼はNATOの全加盟国に、24年までに国防費をGDPの2%まで引き上げるよう約束させた。

 長年、外交に携わった欧州の元高官はこう語る。

「米国との不協和音はブッシュ時代から始まっていた。 ただ、ブッシュ氏やオバマ氏は人間としては信頼できた。 トランプ氏の問題は、人間としても信頼できないことだ」

    ◆    ◆

 つまり、トランプ氏は米欧不仲の元凶ではなく、だめ押しにすぎない。

主因はむしろ、中東などでの10年以上の戦争に疲れ、世界の警察役を果たす気力と体力を、米国が奪われていることにある。

 だとすれば、アジアにも当てはまる問題だ。
トランプ氏がいずれ日韓にも防衛ただ乗り批判の矛先を向けても不思議ではない。

 現に、トランプ氏は6月30日の米韓首脳会談で、在韓米軍の駐留経費をもっと払うよう、ひそかに迫ったとされる。

それでも韓国の国防費はGDPの2.6%と主要な同盟国の中で一番高い。
日本は最下位(0.9%)だ。

「南シナ海問題? それは日本が何とかするだろう」。
トランプ氏は大統領就任前、周囲にこう語っていたという。

この認識が改まった保証はない。

 仮に米国との同盟に空洞が生まれても、ドイツやフランスには助け合える友好国が回りいる。

 だが、核兵器を持った北朝鮮や中ロに囲まれ、韓国とも不仲が続く日本には、そうした選択肢が乏しい。

ならば、欧州の苦悩は日本にとってこそ、より切実だ。

▼米国の主な同盟国・友好国の国防支出(GDP比)
・韓国: 2.6%

・フランス: 約2.3%
・オーストラリア: 約2.0%

・英国: 約1.7%
・イタリア: 約1.5%

・ドイツ: 約1.3%
・カナダ: 約1.0%

・日本: 0.9%

(出所)世界銀行



●関連日経記事
:2013年9月17日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 国際「米国は『警察官』にあらず」=シリア化学兵器問題で:イアン・ブレマー氏=』(2013年9月16日付)

●関連日経記事:2017年2月27日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 政治『TPP離脱は「米国史の転換点」』=トランプ政権・バノン首席戦略官・上級顧問=』(2月25日付)

●関連日経記事:2016年7月12日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 政治『「ロシア抑止」揺るがず』=NATO首脳会議=』(2016年7月10日付)

●関連日経記事:2016年5月23日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 国際「原則守り団結 ロシアに対峙を」=リトアニア外相 リンケビチュス氏=』(2016年5月22日付)

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