日経新聞 開発「移動の未来に眠る商機」=本社コメンテーター 中山淳史氏=

2017年09月23日 05時33分58秒 | 開発
日経新聞 2017年9月20日(水) P.6 オピニオン面
連載コラム『Deep Insight』

『物流の未来に眠る商機』=本社コメンテーター 中山 淳史=

 横浜・みなとみらい21地区の一角。

日産自動車の本社に近い1万2千平方メートルの広大な敷地に、1万人を収容するコンサート会場を建設することがこの夏、決まった。

計画したのはチケット販売のぴあ。
取り次ぎの同社が「ハコモノ」を持つのは初めてという。

なぜ、日本の総人口が減る今か。

 小林覚取締役は「ヒトの流れが動き出した実感がある」と話す。
同社の調べでは、国内の「音楽ライブ」の顧客動員数は過去5年で2倍に増えた。

背景はアーティストの「出世すごろく」に起きた変化だ。

かっては路上で人気が出たらライブハウス→公会堂→ホール→武道館でコンサートというキャリア形成の流れが存在した。

 だがここ数年は、スマートフォン(スマホ)のSNS(交流サイト)で人気が拡散すると一足飛びに大型ホールへの出演が決まり、会場をいっぱいにすることも多いという。


小林氏は「共感した誰かと行動を共にしたいと考える人が幅広い世代に広がった」と見る。

    ◆    ◆

 米アップルのスマホ「アイフォーン」の初代が発売されて今年で10年だ。

LINEやフェイスブックで用事が済むことが増え、「ヒトの移動は緩慢になったのでは」とつい考えてしまう。

英誌エコノミストも5年前、「距離は死に、位置が重要になる」と予測した。
だが、距離が本当に死んだのかといえば、そうではなかった。

 ANAホールディングスによると、同社では2009年、「スマホの影響で旅客が減る」との予測を経営計画に織り込むかどうかで激論になった。

だが、フタを開けてみれば、スマホはインバウンド(訪日外国人)を増やし、航空旅客の裾野を広げた。

    ◆    ◆

 モノの動きも似ている。
ネット通販の宅配現場を見てみよう。

世界で最も作業が過酷とされる米西海岸では、物流大手のUPSが効率的な配送ルートを割り出すために、毎日「6.7×10の143乗通り」もの組み合わせをアルゴリズム(演算手法)で計算しているという。

 アイフォーンの組み立て現場も興味深い。

「DOOR to DOOR 『移動』の未来」の著者、エドワード・ヒュームズ氏によると、部品や材料一点一点の輸送距離の合計は、地球と月の間を1往復する長さに匹敵する。

 最終組み立て地に行くまでには第三国で別の部品と組み合わせたりもする。

驚くことに、そうした「たらい回し」にもみえる部品の移動は、製造コストを下げるために必要な、高度な物流戦略の結果だという。

コストの削減にはモノを動かす必要があるわけだ。

 「我々は知らないうちに渋滞を創り出している」と「渋滞学」の第一人者、東大の西成活裕教授は話す。

例えば、貨物や荷物を扱う施設が多い東京湾岸を車で走れば、トラックが起こした大渋滞と頻繁に出くわす。

人は家にいながらクリック1回で本や歯ブラシを買えるが、スマホの向こう側では何百人、何千人の別の人を動かしている。

 一般に、渋滞とは道路1キロメートルの範囲に車が25台以上走っている状態を言うという。

ヒトの場合は1平方メートルに2人以上だ。

そこからすると「大都市圏の道路や観光地、人気施設は『過飽和』の状態が頻発している。 このまま宅配便やインバウンドが増えていけば、東京五輪を開く20年ごろはどうなっているか」と西成氏は心配する。

 同氏は5月に「群衆マネジメント研究会」を立ち上げた。

まずJR東日本、セコムなど8社が加入したが、いずれはすべての利害関係者と「渋滞のない社会について話せたら」と話す。

例えば、渋滞は縦割り行政とも関係が深い。

高速道路周辺を見ても、管轄が複数の省庁と自治体にまたがり、問題がありながら何も決められない「情報の渋滞」「意思決定の渋滞」を起こしやすい。

    ◆    ◆

 一方で、「移動は価値そのもの」(米ウーバーテクノロジーズ日本法人の高橋正巳社長)という考え方も広がってきた。 

ウーバーは現在、世界600都市でスマホを使い、ライドシェア(相乗り)の仲介をしている。

登録する運転者は200万人、利用者は6500万人いて、ドライバーの報酬の合計は年間数兆円に達するという。

 残念ながら、規制緩和が進まない日本でのサービスは一般車ではなく、ハイヤーによる「迎車」に近い。

日本での事業登録も「旅行業」だと聞いて驚く。

 デジタルの時代だ。
移動や渋滞にも大きな商機が眠っていると考えるべきだろう。

ライドシェアが高齢化や地方経済の活性化に一役買うのはもちろん、英ロールス・ロイスのように航空機エンジンを売った後、「飛行機を安全に、遅延なく飛ばす」契約を結んで対価を得る有料サービスで売上高の半分以上を稼ぐ企業も出てきた。

 ソニーコンピューターサイエンス研究所の北野宏明社長は情報を複数のコンピューターで共有管理するブロックチェーン(分散台帳技術)に注目する。

今は仮想通貨の基盤技術として注目されているが、やがては「ヒトの『能力』がコモディティー(汎用品)化され、ネット空間を動き回る時代の中核技術になる」と予想する。

 例えば、著名レーサーの運転技術を試したければ、ソフトウエアを自動運転車にダウンロードして走る。

料理や着物の仕立てといった能力も、もちろんブロックチェーンに乗る。
移動の未来に眠る商機は無尽蔵に広がる。

日本もその可能性の大きさに気づき、もっとアイデアを競い合っていい。


●関連日経記事:2017年2月10日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 開発「物流危機、製・配・販の連携で防げ」=米アマゾン「顧客第一」経営のすごさ=』(2月9日付)

●関連日経記事:2017年9月21日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 政治「トヨタ、ロビー活動を米国で展開」=国境税への対応に力=』(9月18日付)

●関連日経記事:2014年4月10日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 経営「売った後、3倍稼ぐ」=「生涯 顧客とつながる」=革新力 殻を破る ③=』(2014年4月9日付)

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