日経新聞 海外メディア「バノン主義は衰えず」=英FT・チーフ・コメンテーター ギデオン・ラックマン氏=

2017年08月25日 16時36分00秒 | 海外メディア
日経新聞 2017年8月24日(木) P.6 オピニオン面
連載コラム『FINANCIAL TIMES』=It is what you know=

『バノン主義は衰えず』=チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーター ギデオン・ラックマン=
「格差・中国台頭……構造問題根深く」


 米リベラル派は、あれだけ対立してきただけに、スティーブ・バノン氏が米大統領首席戦略官・上級顧問を解任されたことで今後、寂しい思いをするだろう。

トランプ大統領はあまりに無知で、敵として満足に戦える相手ではない。


そうした中で、バノン氏は、「邪悪な天才」「偏見に満ちたイデオロギー信奉者」「策略の達人」「バノン大統領」などと呼ばれ、重要な役割を担ってきただけにリベラル派は彼の離脱で心にぽっかり穴が開いてしまった感じだろう。

 ただ、今回の辞任はどういう主張の人が勝利したのかはっきりとしない。
バノン氏の解任は、白人ナショナリストの敗北を意味するのだろうか。

だとすれば、トランプ氏を恐れ、嫌悪してきた人々は戦う目的を失ったということなのか。

 この点について、リベラル派はそんな風に思う必要はない。
バノン氏が象徴してきた脅威は、彼の離脱で消滅はしないからだ。

少し大げさな言い方をすると、その脅威は3つの戦争の危機に集約できる。
貿易戦争、内戦、そして世界戦争だ。

 バノン氏が政権を去ったからといって、これらの脅威が突然消えたわけではない。

というのも、バノン氏はその背景にある経済的、社会的、国際的な緊張関係をうまく利用こそしてきたが、それらを作り出した本人ではないからだ。

  
 ”バノン主義”が今後も存続し、恐らくさらに力を増すであろうことを理解するには、先の3つの戦争の脅威について1つずつ考える必要がある。

 バノン氏が解任されたのと時を同じくして、パトリック・ブキャナン氏など米保守派の論客は、「新たな内戦」の可能性について公然と警鐘を鳴らすようになった。

バノン氏は、ホワイトハウス内の白人ナショナリストを代表する存在と広く認識されていたため、彼が首になったことで、大統領が極右から距離を置くようになるのではないかとの期待が高まっている。

だが、その可能性は低い。

 この1年間、トランプ氏は自分の言動がどの程度まで許されるのか、主な論客より的確に見極めることに成功してきた。

バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義団体らと反対派が衝突した事件に対するトランプ氏の発言は、確かに多くの人を憤慨させた。

だが、彼はまたしても国民感情を正しく読み取っていたようだ。

米CBSテレビが最近実施した世論調査では、共和党支持の有権者の68%が、この騒動には「双方に責任がある」というトランプ氏の見方に賛同を示した。

 これは、過激なナチス支持者らが街頭で主張していたよりも白人の怒りがずっと幅広く、深いものであることを示している。

トランプ氏は今後もそうした怒りを自分に都合のいいようにうまく利用するだろう。
そして、そのことは米社会が今抱える亀裂をさらに深刻にするだろう。

内戦になる可能性は極めて低いが、政治的な二極化と、それに伴う暴動や国内テロの発生は避けられないだろう。


 バノン氏は「白人ナショナリスト」とみられることは恐らく拒絶するが、経済ナショナリストであることは否定しないだろう。

彼が首席戦略官として受ける最後のインタビューとなった米左派系メディア「アメリカン・プロスペクト」による取材で、米国はすでに中国と「経済戦争」を繰り広げていると発言した。

バノン氏の解任は、国家経済会議(NEC)委員長のゲーリー・コーン氏率いる「グローバリスト」の勝利を意味するといわれているが、様々な経済の長期的トレンドは、バノン氏が必要だと主張する経済ナショナリズムに勢いを与える根拠となっていくだろう。

 バノン氏が解任された19日、米政府は中国による米国の知的財産権の侵害について正式に調査を始めた。

調査には時間がかかるが、これが原因で米中対立が深刻になる危険は十分ある。

トランプ政権では、今なおバノン的な経済ナショナリストたちが貿易政策を主導しているからだ。

米通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表は、中国の対米貿易黒字を「是正」する必要があるというトランプ氏の見解に同調している。

また、米国家通商会議を率いるピーター・ナバロ氏は、「中国がもたらす死」(未邦訳)の著者でもある。

 米国の保護主義者たちも勢力を増すだろう。
中国の産業政策により米主要産業が実際に脅かされているからだ。

中国政府が2015年に打ち出した「中国製造2025」は、特定企業に補助金を出すだけでなく、合弁設立の際に外国企業の出資比率を規制したり、中国で生産する場合の部品の現地調達率に数値目標を導入したりして、ハイテク産業の主要な分野で中国が優位に立つことを目指したものだ。

こうした中国の重商主義的政策に対しては、米国も大統領が誰であろうと同じく重商主義的な政策で対抗するだろう。

貿易に関しては、米民主党のバーニー・サンダース派でさえ、バノン氏と多くの点で考え方が共通している。


 最後に、武力戦争が起きる可能性も否めない。

これについては、バノン氏はこれまでの好戦的な言動とは裏腹に、じつは穏健派といえるかもしれない。

前出のインタビューで彼は、北朝鮮の核開発計画に対し、米国は先制攻撃も辞さないと公言するトランプ政権内のライバルたちを痛烈に批判している。

バノン氏はアフガニスタンへの米軍の増派にも反対していた。

トランプ氏とバノン氏が2人で推進したスローガン「米国第一主義」は、孤立主義に根差している。

そのためバノン氏は、自分の政敵であるグローバリストたちが望む広範囲な安全保障戦略をあまり支持する気がない。

 バノン氏が抜けたホワイトハウスでは、米国がイスラム過激派と激しい戦いを繰り広げている印象が弱まるかもしれない。

だが、一方で、かってのように中国、ロシアといった競合する大国への対決姿勢を復活させる可能性もある。

その場合、南シナ海や北朝鮮、ウクライナ、中東で衝突が発生する可能性は高まる。

 バノン氏のような賛否両論を招く人物に注目するのは確かに面白いが、格差の拡大や、白人の人口構成率の減少、中国の台頭など米国を不安定にする深い構造的問題が国内外に存在する。

だからこそバノン主義は、本人が表舞台を去っても今後も長く一定の勢いを確保するだろうと予想される。

(8月22日付)

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 英フィナンシャル・タイムズのコラムや記事を翻訳し、月曜、木曜付で掲載します。
電子版 ▼Web刊→FT

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日経新聞 国際「北朝鮮ミサイル 中ロの影」=100万人以上の餓死者が出てもミサイル開発に莫大な資金を投入してきた歴史=

2017年08月25日 15時37分40秒 | 国際
日経新聞 207年8月24日(金) P.2 総合1面
連載コラム『真相深層』=ICBM開発に祖父の教訓=

『北朝鮮ミサイル 中ロの影』=技術進展、来秋完成へ号令=

 米国と北朝鮮による威嚇の応酬で緊迫する朝鮮半島情勢。

核ミサイルの脅威を振りかざして超大国を揺さぶる金正恩(キム・ジョンウン)委員長には理想の展開だろう。

それを可能にしているのが、米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発だ。
長足の進歩に見える北朝鮮の核開発に何が潜んでいるか。

 今から半世紀以上も前の1965年、正恩氏の祖父、金日成(キム・イルソン)主席は、特殊兵器製造のエンジニアを育成する咸興(ハムフン)軍事学院の開院式の演説で、こう力説した。

「第2の朝鮮戦争が始まれば米国と日本がまた介入するはずであり、それを防ぐにはその心臓を狙う長距離ロケットが必要だ」。

韓国外国語大学の尹徳敏(ユン・ドクミン)碩座教授は明かす。

 金主席には手痛い教訓があった。

朝鮮戦争(1950~53年)で朝鮮半島を制圧する寸前で、釜山付近に集結した米軍を主力とした国連軍が瀕死(ひんし)の韓国を救った。

日本国内の米軍基地からの兵力や兵站(へいたん)の支援部隊だった。
朝鮮半島を赤化統一する金主席のもくろみは外れた。

『技術者は命懸け』
 それ以来、北朝鮮はICBMと並行し、沖縄、横須賀、三沢などの日本国内の米軍基地や米戦略爆撃機の拠点であるグアム攻撃用の中距離ミサイルの開発を進めてきた。

朝鮮半島有事に各地の米軍基地を使えないようにし、米韓連合軍への援軍を足止めさせるためだ。

 金日成から金正日(キム・ジョンイル)、金正恩と3代、50年にわたり天文学的なカネと最高の人材が核・ミサイル開発に投入された。

それは100万人単位の住民が餓死する時期でも続けられた。


日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下させた最近のミサイル発射実験もすべて日本の米軍基地向けの実践演習とされる。

8月には日本上空を通過して米領グアム沖に着弾させるミサイル発射計画を公表した。

 北朝鮮の開発スピードの速さについて、脱北した元朝鮮労働党幹部はこう語っていた。

「『完成にあと3年かかる』なんて話は冗談じゃない。 午前9時に出勤し午後6時に終わると考えている欧米とは感覚が違う。 欧米の分析はそこが落とし穴だ。 北朝鮮の技術者は家に帰らず命を懸けてやっている。 やらなければ処罰されるからだ」。

元幹部によると、建国70年の2018年9月9日までに開発中の原子力潜水艦の完成をはじめ戦争準備を終わらせろと命令が下っているという。

 7月、初のICBM発射実験後、正恩氏は祖父と父の遺体が安置された平壌の錦繍山太陽宮殿を訪れ、発射実験に携わった関係者と記念写真を撮った。

国際社会には悪夢でしかない金王朝3代の夢を断つには、中国とロシアの力が欠かせないが、聞こえてくるのは眉をひそめる話ばかりだ。

『元ソ連の改良型』
 北朝鮮の核開発は旧ソ連の専門家たちが基礎を築いた。

ソ連崩壊後に仕事を失った核科学者らを北朝鮮は破格の待遇で招き入られた。

グアムを射程に収める中距離弾道ミサイル「ムスダン」や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)といった北朝鮮の新型兵器はいずれも旧ソ連製の改良型だ。


 英シンクタンク国際戦略研究所のミサイル専門家は14日、北朝鮮が闇市場を通じて、ウクライナの工場で生産された旧ソ連の液体燃料式エンジン「RD250」の改良型を入手し、ミサイル発射技術を飛躍的に向上させた可能性があるとの分析を発表した。

これを改良したエンジンが5月に北朝鮮が発射実験した新型中距離ミサイル「火星12」や、7月に2回発射したICBM級の「火星14」に使われたとの見方が出ている。


「火星12」はグアム沖への発射が計画されているミサイルだ。

 前述の尹教授は、7月28日深夜に北朝鮮が2度目に発射実験したICBMの画像に映っていた移動発射台が「中国産で、ほぼ最新型だ」とみた。

中国が「民生用」として提供したものが北朝鮮の手によって兵器用に改造された疑惑がある。


 韓国の国防次官は13日のテレビ番組で、北朝鮮の火星14について、大気圏再突入技術はまだ確保していないとの米韓の情報当局の分析を示した。

この技術を得るまで「少なくとも1~2年以上はかかると判断している」と話したが、机上の分析や試算で測りきれない北朝鮮の実態がある。

(ソウル支局長 峯岸博)


●関連日経記事:2015年2月21日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 国際「『アラブの春』と北朝鮮」=リビア崩壊を反面教師に=(2011年8月28日付)』

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日経新聞 国際「EUの未来 楽観許さず」=米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏=

2017年08月25日 09時18分42秒 | 国際
日経新聞 2017年8月18日(金) P.6 オピニオン面
連載コラム『Deep Insight』

『EUの未来 楽観許さず』=米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏=

 エマニュエル・マクロン氏が5月、フランスの大統領選で反欧州連合(EU)を掲げるポピュリストのマリーヌ・ルペン氏を退けた。

ドイツのメルケル首相が(今秋の総選挙を経て)再選する可能性も高まり、欧州がまたも課題を克服したという楽観的な見方が復活している。

だが、結論を出すのは時期尚早だ。
これから数カ月間、多くの問題が生じると予想され、今の信頼感は長続きしそうにない。

 まずフランスは、若々しく精力的なマクロン大統領の誕生により、新世代の指導者への待望論が強いほかの欧州諸国の垂ぜんの的になった。

しかし大統領選挙で最も注目すべきは、(既成の二大政党として)同国の政治を長年支配してきた社会党(中道左派)グループと共和党(中道右派)グループの敗北だ。

 親EU・反EUを問わず、フランスの有権者は変革を求めている。

(中道新政党「共和国前進」を率いた)マクロン大統領は、70%が新人議員とされる議会と共に改革に取り組まねばならない。

経験不足のために経済と労働市場を活性化できなければ、大統領や議会の支持率は今より低下するだろう。

 マクロン氏は、EU改革に対して懐疑的でもあるドイツと協力する前に、フランスの財政を立て直す必要がある。

(調査会社によっては)新大統領の支持率は、就任当初の水準からすぐに10ポイント程度低下した。

微笑みや自信にあふれた演説の先にあるのは、社会保障費の削減だと国民が見抜いたからだ。

マクロン氏はオランド前大統領と同じく、労働市場の改革をどんなに巧みに示しても、(9月に有力な労働組合が予定するような)デモを引き起こすと思い知った。

 イタリアの場合は、政治的な膠着(こうちゃく)状態が続く。
次の総選挙は(遅くとも)2018年前半までに実施されそうだ。

(親EUだが)必要な政治・経済改革を実行に移せない(中道左派・民主党が率いる)連立与党の政権か、反EUを標榜するポピュリスト政党「五つ星運動」が主導する政権かのいずれかが選ばれる可能性が高くなっている。

 移民問題が引き続き、イタリア政治の形を変えようとしている。

EUと(近接する)トルコの合意により、エーゲ海を渡って(対岸の)ギリシャに向かう移民は大幅に制限された。

だが主にリビアからイタリアへボートで到着する人の流れは16年、前年に比べて20%増えたようだ。

今年上半期にギリシャに到着した移民は約9千人、スペインは約4千人だったが、イタリアは9万人以上を受け入れているという。

 フランスとオーストリアがごくわずかでも負担するどころか、(両国が)イタリアとの国境管理の強化に関心があるようにみえることで、イタリアでは怒りが高まっている。

一部の国の過度な負担を和らげるため、EU加盟国に難民の受け入れを義務付ける割り当ての制度は機能していない。

 ハンガリーとチェコ、スロバキア、ポーランドの東欧4カ国は割り当て上、約1万1千人の難民を受け入れる予定だった。

しかし確認できいる範囲では、スロバキアとチェコが受け入れたのは30人程度に過ぎず、ポーランドとハンガリーに至っては1人も受け入れていないようだ。

 東欧の抵抗はこれだけではない。

(難民の受け入れに反発してきた)ハンガリーのオルバン首相は政治支配を固めようと、「反自由主義」を受け入れる。

ポーランドの右派政権は、裁判官の人事権を掌握するための法案を可決した。
EUはルールを順守させるような行動は起こしていない。

 気がかりな点はまだある。

(EUへの加盟交渉を進めてきた)トルコのエルドアン大統領はロシアのプーチン大統領のような強大な権力者になろうとしており、EUとの間に(国内の人権状況などを巡って)問題を引き起こしている。

エルドアン氏は、19年の予定だが、来年前倒しとなる可能性が高い大統領選で再選を目指す。

同氏は欧州への国民の反感をあおることで、国内での人気が高まることを認識している。
(トルコからの移民も多い)ドイツなどとの摩擦が深刻化するのは間違いない。

 欧州からの経済的利益などと引き換えに、トルコに大勢の難民をとどめるというエルドアン氏とEUの合意を危険にさらす可能性もある。

ただ、この合意はお互いにメリットがあるため、維持されるだろう。

維持されなければ、欧州は再び移民危機に直面し、欧州全土でポピュリスト的な怒りが復活するとみられる。

 プーチン大統領の挑発や(19年3月を期限とする)複雑な英国のEU離脱(ブレグジット)の交渉など、問題はとどまるところを知らない。

メルケル首相は安定をもたらす存在で、マクロン大統領は自国やEU全体の改革を勢いづけるかもしれないが、EUの首脳が今後も手一杯になるのは確実だ。

▼Ian Bremmer
 世界の政治リスク分析に定評。

著書に「スーパーパワーーーGゼロの時代のアメリカの選択」など。
47歳。

ツイッター@ianbremmer


●関連日経記事
:2016年11月12日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 政治「米外交、単独主義強まる」=「トランプショック」=米政治学者 イアン・ブレマー氏(2016年11月11日付)

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日経新聞 経済「風化するリーマンの悪夢」=本社コメンテーター 梶原 誠氏=

2017年08月25日 08時14分19秒 | 経済
日経新聞 2017年8月18日(金) P.6 オピニオン面
連載コラム『Deep Insight』

『風化するリーマンの悪夢』=本社コメンテーター 梶原 誠=

 米国と北朝鮮の応酬には身構えざるを得ない。

だがそれゆえに、市場には良い影響をもたらしたかもしれない。
先週の世界的な株売りは、投資家がリスクの存在に気づいたことの裏返しでもある。

 大判振る舞いはここ数カ月、世界の茶の間の話題もさらっていた。

サッカーのブラジル代表ネイマール選手の移籍金は、2億2200万ユーロ(約290億円)だった。

過去最高の2倍以上だ。

ジャンミシェル・バスキア作の肖像画は、米芸術家の作品として最高の1億1050万ドル(同120億円)で落札された。

こちらは予想の2倍弱。
世界的なカネ余りの断面だ。

    ◆     ◆

 市場で起きていることも、その延長線上にある。
まず、機関投資家に資金が押し寄せている。

例えばトムソン・ロイターによると、世界の買収ファンドに集まった資金は今年の1~7月で3442億ドル。

このペースが続けば過去最高だった07年の4930億ドルを大きく超える。

 あふれるマネーを運用しなければならないからこそ、大きなリスクもとる
「ジャンク債」、つまり信用度が極端に低い企業の債券への投資熱は象徴的だ。

 投資家は信用度が低い企業に対し、投資の見返りに高い利回りを要求する。

米格付け会社S&Pグローバル・レーティングによると、2008年のリーマン・ショックの後には米国のジャンク債の利回りが米国債より平均17ポイント以上も高かった。

それが今は4ポイント強だ。
投資家はリスクが高い債券を、利回りが低くても買っている。

 雰囲気は、リーマン危機に至る混乱が本格化する直前の06年と似ている。
「カネはどこにでもある」。

同年末、ゼネラル・エレクトリック(GE)の最高経営責任者(CEO)だったジェフリー・イメルト氏はこう豪語していた。

資金はいくらでも安く調達できるという自信だった。


    ◆    ◆

 投資家は悪化した条件で投資する以上、正当化する理由が必要だ。
「マーシャルのk」が話題になるのもそんな事情からだろう。

「ベストな理論だ」。

マーシャルのkを解説したニューヨークのエコノミストに最近、投資家からお礼のメールが届いている。

 マネーサプライがGDP(国内総生産)の何倍かを示すのがマーシャルのkだ。

マネー経済の発達で上昇してきたが、リーマン危機後の世界的な金融緩和で上昇ピッチは増した。

急増しているお金が、資産の価格を押し上げるーーエコノミストのこんな解説だった。
価格上昇は説明できると私も思う。

だたし今は、だ。

 「我々は意図的に、史上最大の国債バブルをつくってきた」。

英中央銀行イングランド銀行の幹部アンドリュー・ハルデイン氏が、危機後の世界的な金融緩和の副作用を激白して話題を呼んだのは13年のことだ。

国債などを買い続けた結果、日米欧の中銀の資産は当時で危機前の2倍、今では3.5倍に膨らみ、マネーの増加を後押ししてきた。

 だが今、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めを進めている通り、カネ余りと資産価格の上昇を演出した仕組みも終わりが見えてきた。

「国債バブル」からの軟着陸は可能なのか。

 ナスダック総合株価指数の動きも、これからチャート専門家の関心を集めるだろう。

近年の急騰の軌跡が、1989年末をピークに急落する日経平均株価と不気味にも重なるからだ。

仮に今後も当時の日経平均を追うとすれば、米ハイテク企業の「株式バブル」は今年末に崩壊する。

 だからといって、カネ余りの長期化も限界がある。

資産価格が上昇しても賃金が増えない傾向が世界的に続き、持てる人々とそうでない人々の格差が社会不安を招く恐れが出てきた。

国際労働機関(ILO)によれば、世界の実質賃金の伸びは15年、年1.7%にとどまり2年連続で低下した。

    ◆    ◆

 問題は、市場がこんな危うさに気がついているかどうかだ。

 「『音楽が鳴っている間は踊らなければいけない』という格言もある」。
7月、東京の株式ストラテジストが顧客向けにこう述べ、投資の継続を薦めていた。

これは07年7月、米シティグループのチャールズ・プリンスCEOが、降りるべき投資競争から降りられない危うい心理を吐露した一言だ。

半面教師の失言は、10年を経て前向きな格言に代わった。

 プリンス氏は発言の4カ月後に損失を計上して引責辞任し、シティは経営危機に突入した。

資金力を誇ったGEも08年には資金繰りに窮し、イメルト氏は当時のヘンリー・ポールソン米財務長官や著名投資家のウォーレン・バフェット氏に泣きついた。

そんなリーマン危機の悪夢が風化している。

 ネイマール選手の移籍金もナスダックの高騰も、200年で8回も債務不履行(デフォルト)したアルゼンチンの100年国債に3倍以上の申し込みがあった6月の一件も、それぞれに理由があるのだろう。

だがこのようなことがなぜ一斉に起きるのか、マネーがいつまで大判振る舞いを続けられるのか、自信をもって説明できる人は少ないはずだ。

 格言ならば、08年に死去した投資家、ジョン・テンプルトンの言葉を私は信じる。

「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、陶酔の中で消えていく」。

楽観の中で、陶酔の芽はちらついている。


●関連日経記事:2017年7月26日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 経済「やまぬ音楽 踊るマネー」=金融の蛇口を締めるのは容易ではない!=』(7月24日付)

●関連日経記事:2014年9月5日グー・ブログ「同上」投稿記事参照
 日経新聞 国際「アジア市場に潜むリスク」=政情不安や債務拡大=』(2014年8月8日付)

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