日経新聞 経済「中小型株、肝試しの夏」=常に投資をすることを義務付けられるプロの投資家=

2017年08月22日 11時11分13秒 | 経済
日経新聞 2017年8月18日(金) P.18 マーケット総合1面
連載コラム『スクランブル』

『中小型株、肝試しの夏』=偏る需給、反動安を懸念=

 中小型株への警戒感が広がている。

個人のみならず機関投資家も大型株を避け、中小型株への投資を増やしてきた。
これまでの運用成績は上々だが、需給の偏(かたよ)りが進み、相場反落の懸念も強まる。

かといって他に買うべき対象も見当たらない。
ファンドマネジャーたちの悩みは深い。


 「中小型株の『混雑』ぶりはすごい。 割安銘柄探しが大変だ」。
米運用会社で約4千億円の日本株ファンドを運用する担当者は嘆く。

一例が半導体検査装置のレーザーテック。

米調査会社ファクトセットのデータを見ると、米フェデリティや米オーバーワイスなど有力運用会社が株主に顔を並べる。

 以前は「知る人ぞ知る」銘柄だったレーザテク株。
2016年夏ごろに割安な半導体関連を探す世界の投資家に目にとまった。

投資家向け広報の担当者も「欧州・アジアからの問い合わせが急に増えた」と証言する。
17日には実質的な上場来高値を更新。

PER(株価収益率)は24倍と、大手の東京エレクトロン(同15倍)を上回る。

    ◆    ◆

 混雑ぶりは売買代金からもうかがえる。

「東証株価指数(TOPIX)スモール」銘柄の売買代金が東証1部全体に占める割合は、年初から上昇傾向。

足元で20%を超え、15年11月以来の高水準に達した。

この間、小型株指数はTOPIXを上回る上昇を記録しており、買いが買いを呼ぶ構図が浮かび上がる。

 とはいえ、「すべての投資家が積極的に中小型株を買いたいわけではない」(前述の米運用担当者)

金融や自動車を含む大型株には世界的な金利低下や円高進行が逆風となる懸念がつきまとう。

そのなかで運用競争をリードしていくには、勢いのある中小型株をリスク覚悟で多めに保有するほかない。

託された資金は原則、常に投資していなければならないプロの投資家にはこんな事情がある。

 米運用会社Tロウ・プライスの日本株担当、アーシバルド・シガネール氏は中小型株の組み入れ比率を3割程度と過去平均並みにとどめる。

コマツなど年初からの運用成績がいまいちの大型株について「下がれば買いたい」と話す。
ただ、こうした「守りの姿勢」を取り始めているのは一部の投資家に限られる。

    ◆    ◆

 中小型株から大型株へ、マネー逆流のマグマはたまり始めている。
三菱UFJモルガンスタンレー証券の芳賀沼千里氏はこう指摘する。

「小型株指数は14年8月など売買代金シェアがピークを迎えた後に、相対的に下落したケースが多かった」。

季節的に10月以降は外国人投資家が買い増す傾向が強く、その場合は大型株中心になるだろう。 

昨年11~12月には米トランプ大統領の誕生が決まり、大型の景気敏感株に資金が急速に戻る場面があった。

 中小型株相場が早晩崩れるシナリオがはっきりと見えてきているわけではない。
一方で警戒感は強く、何らかきっかけがあれば流れはあっという間に変わる。

この勝負にどこまでついていくのか。
今夏の中小型株相場はまるで「肝試し」のような予想を強めている。

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日経新聞 社会「格安スマホ 物価の重し」=一家に2、3台 影響大きく=

2017年08月22日 10時28分48秒 | 社会
日経新聞 2017年8月20日(日) P.5 総合3面
『格安スマホ 物価の重し』=通信料1割下落なら指数0.2ポイント下げ=

『一家に2、3台 影響大きく』

 格安スマートフォン(スマホ)の普及が、物価の基調を見えにくくしている。

家計の支出に占める割合が高くなり、通信会社の値上げ下げ競争が物価を押し下げやすくなっているためだ。

海外の資源価格によって動くガソリン代や電気代と同じように、企業戦略で大きく動くスマホ料金が物価のかく乱要因になっている。

『乗り換え倍増』
 「予想外の増加だ」。

KDDIの田中孝司社長は1日の決算説明会で驚きを隠さなかった。

auで7月14日からスマホの主要プランを最大3割、平均2割下げるサービスを始めたところ、番号持ち運び制度(MNP)を使った他社からの乗り換えが倍増した。

 KDDIが値下げに動いたのは、格安スマホの普及に対抗するためだ。

調査会社のMMD研究所(東京・港)によると格安のスマホのシェアは2014年4月には0.6%だったが、17年3月時点では7.4%になった。

格安スマホの平均月額料金は2957円と、大手携帯3社の平均月額料金よりも約5千円も安い。


 総務省がまとめる消費者物価指数(CPI)を見ると、今年6月の携帯電話通信料は3年前の14年6月に比べて約7%下がっている。

大和総研の長内智シニアエコノミストは、KDDIの値下げが携帯電話通話料をさらに3.5%押し下げると試算する。

CPI全体に対しても、生鮮食品を除くベースで0.08ポイント分の押し下げになる。

 スマホの通信料が高く、他の消費を抑えているのではないか。
政府内では少し前、消費が伸びない原因をスマホ料金に求める考え方があった。

 安倍晋三首相は15年9月の経済財政諮問会議で「携帯電話などの家計負担の軽減は大きな課題だ」と発言。

総務省はこれを受け、「5千円以下の価格帯を参考にすべきだ」と事業者に値下げを促す報告書をまとめている。

 政府の希望通り、スマホの通信料は下がった。
それが他の商品の消費に結びついたかどうかは疑問が残る。

家計は浮いたお金をまたスマホに使っているからだ。

 内閣府の消費動向調査でみると、今年3月のスマホ保有台数は1世帯あたり1.48台と、3年間で1.5倍近くになった。

お年寄りや子どもの利用が増えたためだ。

高精細な写真や動画を見るため、「使えるデータ量の多い高価なプランに切り替える利用者も多い」(ヨドバシカメラマルチメディアAkiba)。

 1台あたりの通信料は下がったが、世帯で見ると「2台持ち、3台持ち」で通信料の支出が増えた。

総務省の家計調査によると、今年6月まで1年間を平均した月額通信費は1万3163円と、前年比1.4%増。

利用者数とデータ量の増加が支出につながり、所費支出に占める割合は4.7%へと0.1%分拡大した。

『使い道乏しく』
 物価の統計では、通信料の影響が大きくなっている。

CPIの算出に使う品目のうち携帯電話通信料の比率(ウエート)は2.3%で、5年間で2割上がった。

民営物件の家賃や持ち家の家賃相当分、電気代に続くウエートで、物価への影響はガソリンよりも大きい。

仮に通信料が1割下がると、生鮮食品を除くCPIは0.2ポイント強分押し下げられる。

 そもそも今、スマホ以外にお金の使い道が乏しい。

楽天リサーチが5月に1千人を対象にした調査では、格安スマホに変えて浮いたおカネは「貯金」(35.1%)に向かい、使い道が「特にない」(29.3%)が続いた。

スマホが値下がりして浮いたお金はまたスマホに。
スマホに代わる魅力的な商品がない限り、こんな構図が続きそうだ。

(吉田悟巳記者)

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日経新聞 社会「所有者不明土地、全国の2割」=「人口減」 地方が映す近未来=

2017年08月22日 09時28分31秒 | 社会
日経新聞 2017年8月21日(月) P.27 地域総合面
特集連載『「人口減」 地方が映す近未来』=元総務相 増田 寛也氏=

『所有者不明土地、全国の2割』=貸借、地主許可不要に=

 人口減が進み、所有者が分からない土地を巡る社会課題が深刻さを増している。

増田寛也・野村総合研究所顧問(元総務相)が座長を務める民間研究会が「全国の土地の2割で所有者が不明」との推計をまとめた。

増田氏に現状と対応策を聞いた。

 --なぜ所有者不明の土地問題に取り組むようになったのですか。

 「この問題は岩手県知事時代(1995~2007年)から認識していた。

県の公共事業で『所有者が南米に引っ越している』など、地主が不明な山林などがあったからだ。

ただ、当時は都市部で多くの土地が所有者不明になっているとは思わなかった」

 「人口増加時代は空き地は誰かが活用していた。
人口減少時代に入り歯車が逆転し、所有者不明の空き地や空き家が現れるようになった。

同じ問題意識を持つ国会議員もいて、1月に研究会を立ち上げた。

中央省庁でも所管が分かれており、省庁も協力できる枠組みで議論・提言し、政策に反映させたい」

 --研究会の推計では、全国の所有者不明の土地は九州よりも広い410万ヘクタールにのぼります。

 「多くは山林や農地だが、宅地にも広がっている。

法務省の抽出調査では、最後の登記から50年以上過ぎている土地は大都市でも6.6%ある」

 --不動産登記制度が形骸化しているのですか。

 「地価上昇局面では、財産保全の観点から多くの所有者が不動産を登記した。
人口減少社会に入り、不動産に対する日本人の見方も変わってきた。

相続した地主の中には所有する土地を見たことない人もいる」

 --放置すると何が起きるのでしょう。

 「20年後には多くの土地が建物の除去費用も出ないほどの価値しかなくなるだろう。
多くの地主が所有権や納税義務から逃れたいと思うようになる。

所有者不明土地の面積が北海道(834万ヘクタール)くらいになれば手の打ちようがない」

 --どういう対策が必要ですか。

 「小手先の解決策で乗り切るのは無理だ。

不動産登記の義務化や登記官の権限強化のほか、登記と固定資産課税台帳などの連携が考えられる。

ただ、これらは今後、増やさないための対策。
所有者不明の土地をどう活用するかが課題になる。

公的な利益にかなう土地は所有権から利用権を切り離し、所有者の同意がなくても貸し借りできる仕組みが必要だ」

 --農地には同様の制度があります。

 「農地は建物を建てないので、後から所有者が現れてもそのまま農地として使える。
宅地でも制度化できるかどうか検討しなければならない。

建物を建てた後、所有者が出てきた場合、金銭で清算することが、所有権の侵害にならないのかなど課題も多い。

日本独特の強い土地所有の権利に手を付けなければいけないのではないか」

(地方部次長 森川直樹)


●関連日経記事:2017年8月16日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 社会「土地の2割 所有者不明」=「人口減」 地方が映す近未来 (上)=』(8月14日付)

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日経新聞 教育「子供の言い分と向き合う」=ストレスたまる夏期講習=

2017年08月22日 07時37分30秒 | 教育
日経新聞 2017年8月21日(月) P.18 教育面
連載コラム『挑む』

『ストレスたまる夏期講習』=子供の言い分と向き合う=

 夏期講習まっさかりである。

普段なら家庭ー学校ー塾と3つの居場所があるから、どこかで気分転換ができる。
しかし講習中は、ひたすら家庭と塾の往復。

まして夏期講習は1カ月以上、春や冬とは比較にならない長さに加え、とにかく暑い。
しかも中学受験をしない同級生たちはプールや遊園地で夏休みを謳歌(おうか)している。

「なんで自分だけこんな思いをしなければならないのか……」。
気持ちは痛いほどわかる。

 夏期講習も半ばを過ぎストレスがピークに達すると子供たちは本性(ほんしょう)を表す。
その表現方法が男子と女子では全く異なるのが面白い。

 男子に比べ精神的な成長が圧倒的に速い女子は、同性のライバルである母親に対し自己主張を始める。

「私は先生に教わった通りに解いているんだから、何にもわからないお母さんは黙ってて!」と泣き叫ぶ。

 一方、成長が遅い男子は、自己主張よりも自己否定に走りがちだ。
「どうせボクなんか……」といじけ始め、宿題をごまかしたり、答案を隠したりする。

塾に行くふりをして逃亡するのもほぼ全員が男の子だ。

最近は出欠管理用のICカードだけカードリーダーに通して、次々に登塾してくる人ごみに紛れて抜け出す知能犯も増えてきた。

 極論すれば、女子は「新しい自分を認めてほしい」、男子は「これまでの自分を愛し続けてほしい」と訴えている。

表現形態は異なるが、どちらも自己認知欲求であることに変わりはない。

 こんなときは本人の言い分をじっくり聞いてやるしかない。
授業後に面談をし、場合によってはその後で保護者を交えて三者面談をする。

朝から晩まで授業を続けた後に面談の時間を取るのはつらいが、ここが踏ん張りどころだ。
早めに爆発を経験した子の方が、予後良好となるケースも少なくないのだから。

 「あの夏は本当に大変だったよね~」と、すべてが良き思い出話になるように、残り1週間強、全力で子供たちと向き合うしかない。

(後)


●関連日経記事:
2014年12月28日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 教育「新高校1年生、早くも不登校」=大人になれぬまま進学=(2011年5月30日付)』

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日経新聞 教育「見守り育てる大切さ」=「こころの健康学」 認知行動療法研修開発センター 大野裕=

2017年08月22日 06時29分58秒 | 教育
日経新聞 2017年8月21日(月) P.15 医療・健康面
連載『こころの健康学』=認知行動療法研修開発センター 大野裕=

『見守り育てる大切さ』

 上野動物園の赤ちゃんパンダが順調に成長しているようだ。

最初は小さくて全身ピンク色だった赤ちゃんパンダが少しずつ成長し、白黒の模様が可愛く入っていくのを見ていると、こころが安らぐ。

 赤ちゃんパンダを優しく抱きかかえる母親パンダを見ていると、母性本能の存在を感じる。

その様子をテレビで見ながら、先週紹介した日本認知療法・認知行動療法学会で家族の保護と支えをテーマに特別講演したエール大学のリーボビッツ博士の講演を思い出した。

 リーボビッツ博士は講演の中で、盲目の歌手レイ・チャールズの子供時代を題材にした映画を流した。

目の見えない子供のレイ・チャールズが椅子に引っかかって倒れる。

あまりの痛さに泣きながら助けを求める子どもに対して、母親は心配そうな表情をするが、手を出さずじっと見つめる。

 子どもは泣きじゃくりながら、何とかしようと床を這いずりまわる。
そのうち耳に周囲の音が入ってくるようになる。

まきがはじける音やお湯が沸き立つ音が聞こえる。
燃えるまきに手を伸ばすが、火の熱さを感じて手を引っ込める。

泣きながら家具の下にいた虫の音に気づき、その虫を柔らかく両手で包みこむ。

そして、心配そうに見つめる母親の方に向きなおり、そこに母親がいることが分かっていたと言う。

 目に涙を浮かべた母親の表情が画面いっぱいに映し出される。

家庭に限ったことではなく、職場でも学校でも地域でも、この母親のように人を見守り育てることの大変さと大切さが伝わってくる講演だった。


●関連日経記事
:2017年4月25日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 教育「自ら勉強する子供に」=中学受験 大人の役割=』(4月24日付)

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日経新聞 社会「買い物弱者対策 待ったなし」=日本大学専任講師(物流論) 秋川卓也=

2017年08月22日 06時04分59秒 | 社会
日経新聞 2017年8月21日(月) P.14 経済教室面
連載コラム『私見卓見』

『買い物弱者対策 待ったなし』=日本大学専任講師(物流論) 秋川卓也=

 買い物弱者の問題が深刻化している。

高齢化と人口減によって流通や交通の弱体化が進んで日常の買い物が困難になった人々のことで、経済産業省は全国に約700万人いると推計している。

 買い物弱者は今後も増え続け、対策には一刻の猶予もない。
日常生活に問題がないとされる健康寿命は男性71歳、女性74歳といわれる。

人口が最も多い「団塊の世代」がここ10年以内に健康寿命を超えるので、近い将来に問題はより深刻化する。

 対策には移動販売、買い物代行、宅配、乗り合いタクシー、コミュニティバスなどがあり、企業や住民組織などの民間事業者が中心となって行っている。

こうした取り組みに対して行政は補助金や助成金で支援してきた。

 しかし総務省が昨年行った調査で、取り組みの約4割が赤字であり、約1割が事業を断念していることが判明した。

主な理由に補助金が打ち切られて運営費が確保できないことがあげられている。

 高齢化が先行している地域ではすでに深刻な問題に直面している。

限界集落が多い過疎地では急速な人口減で運営費をまかなう収益を継続的に得るのが難しく、事業が長続きしない。

買い物環境の悪化が生活をより不便にして、人口流出を加速させて、地域衰退を進めている。

 将来的には有望な技術イノベーションが多く存在する。

例えば、電波を使って人物や物品を自動的に識別する「RFID」と呼ぶ技術の導入で無人精算が可能となり、運営費を抑えた店舗運営ができる。

ドローンは過疎地に向け新たな輸送手段として期待ができる。
自動運転で住民を店まで運べる、人件費のいらないタクシーが誕生する。

 しかしこうした技術には運用面に課題があり、実用化には時間がかかる。
実現を待っている間に地域は衰退する。

したがって猶予期間を得るために公的支援の一層の強化が必要である。
特に、運営費を補てんするための継続的な経済支援が求められる。

 住民の移住や自助努力で乗り切れ、という意見もあるかもしれないが、それでは時間がかかりすぎる。

過疎地には、都市部が失った日本古来の伝統や文化が多く残る。
地域の衰退や消滅はこうした「日本らしさ」を喪失させる。

土着の伝統や文化を他に移すことは難しいし、一度失ったら取り戻せない。
問題の延長にはこうした文化的な問題があることも知ってほしい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 当欄は投稿や寄稿を通じて読者の参考になる意見を紹介します。

〒100-8066 東京都千代田区大手町1-3-7日本経済新聞社東京本社「私見卓見」係またはkaisetsu@nex.nikkei.comまで。

原則1000字程度。
住所、氏名、年齢、職業、電話番号を明記。

添付ファイルはご遠慮ください。
趣旨は変えずに手を加えることがあります。

電子版にも掲載します。


●関連日経記事:2017年2月10日グー・ブログ「息子たちに読んで欲しい日経記事」投稿記事参照
 日経新聞 開発「物流危機、製・配・販の連携で防げ」=米アマゾン「顧客第一」経営のすごさ=』(2月9日付)

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日経新聞 海外メディア「トランプ氏切れぬ共和党」=英FT・コメンテーター E・ルース氏=

2017年08月22日 05時26分07秒 | 海外メディア
日経新聞 2017年8月21日(月) P.7 オピニオン面
連載コラム『核心』

『トランプ氏切れぬ共和党』=英FT USコメンテーター エドワード・ルース=


 米国にとって最も現実的な脅威は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長か、それとも自国のトランプ大統領か。

理屈上は明らかに金委員長だ。
ところが、米国の民主主義は常にトランプ氏の攻撃の射程圏内に置かれている。

 米国の最高司令官はネオナチをかばい、歴史上最も恐ろしいイデオロギーを擁護している。

本人がそれを理解していないとか、わかっていても気にしていないことは我々にはそれほど重要ではない。

問題は共和党がどうするかだ。

 発言をそのまま受け止めれば、党の重鎮(じゅうちん)は内心ではトランプ氏を解任したいと考えているようだ。

ライアン下院議長は「白人至上主義はぞっとする」とツイートした。

同氏はオバマ前大統領が提案した政策にはほぼすべて反対したが、オバマ氏が憎悪をあおる勢力を支持しているとまで言って批判することはなかった。

それならば当然、ライアン氏はトランプ氏が大統領にふさわしくないと考えているはずだ。
非公式の場では多くの共和党議員もそう答える。

だが、彼らはそれを行動に移すだろうか。

 まだその時ではないというのが答えだ。

マケイン上院議員のような例外もいるが、共和党は大統領に立ち向かう用意ができていない。

白人至上主義を明確に非難したライアン氏でさえ、トランプ氏を直接は批判しなかったし、党全国委員会の広報担当マッキーナニー氏に至っては「大統領は今日、再び憎悪を非難した。 我々は愛と一体感を訴える大統領を支持する!」とツイッターに投稿した。

 共和党は2つの点からトランプ氏を切れずにいる。
まず自己否定が必要なことだ。

大統領選でのトランプ氏の勝利は、いわば1960年代後半の「南部戦略」と呼ばれる党の選挙対策の帰結だ。

これは民主党を支持していた南部の保守的な白人を取り込むのが目的で、彼らへの呼びかけには特定の人だけに伝わる「犬笛」のような表現が使われた。


 共和党が長年、優位な州の大半は、何らかの形で有権者登録制度も変更している。

一部の市民の投票を妨害しようと一見、それとわからないような差別的な登録手続きが取られ、非白人有権者が極端に減少した。

トランプ氏は公然と差別的な手法を使っているだけだ。
同氏は共和党の選挙戦略が生み出した”怪物”といえる。

 もう一つの問題は恐怖心だ。

戦局の恣意的(しいてき)な線引きの結果、大半の候補者は相手政党より自身の党の候補に脅威を感じるようになった。

候補者同士で党の支持基盤の中でも最も忠実な層を奪い合うからだ。

世論調査ではトランプ氏の支持率は歴代大統領で最低だが、共和党の大半の有権者は依然、支持している。

同氏に異を唱えれば、(いまだにトランプ氏を支持している大半の民主党員の反発に遭い=)選挙で必ず報いを受けることを同党議員なら知っている。


 現実的な見方をすれば、共和党は来年の中間選挙て手痛い敗北を喫するまで、トランプ氏に厳しい態度をとらずにいるはずだ。

もっとも、同党が中間選挙で敗北すると決まったわけではない。
敗北したとしても、社会の根深い二極化が解消されるには、大敗でなければならない。

トランプ氏は恐らく(2期8年の=)任期を全うするだろう。

 それよりもっと懸念すべきは、米国の民主主義が市民社会の分断という形で崩壊へ向かっていることだ。

トランプ氏については、その恥ずべき行為が歴史に記憶されるのが確実となった。

(8月17日付)

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