地球散歩

地球は広いようで狭い。言葉は違うようで似ている。人生は長いようで短い。一度しかない人生面白おかしく歩いてしまおう。

2007-02-21 15:18:44 | ギリシャ語

Χειμωνας (ヒモナス)

 ギリシャの冬。神話では、農耕をつかさどる女神デメテルの悲しみによって生じた季節だとされている。彼女は人間に主食である小麦を授けたといわれ、アテネの考古学博物館には一粒の小麦を人間に与えている場面を刻んだ大理石のレリーフがある。人間にとっては食と関わる大切な神で、写真のようにアテネ近郊にはデメテルを祀った大神殿が残っている。

 冬をもたらしたのは、女神の母としての悲しみ。デメテルには一人娘のペルセポネがいた。美しく成長したペルセポネは、冥界の王ハデスに見そめられて何と黄泉の国にさらわれてしまう。略奪婚だ。探しても探しても見つからない。愛娘を奪われたデメテルは神としての使命を果たせなくなる。深い絶望と悲嘆は大地を枯れ果てさせた。畑は荒れ、花は咲かない・・不毛が続くと飢饉となり、人々は食べ物に窮するようになった。

 見かねた最高神ゼウスは使者を送ってハデスに娘を返すよう説得することに。仕方なく了解したものの、愛するペルセポネを何とか自分の手元にも残したく知恵を絞り、再び戻ることを余儀なくさせる冥界のザクロの実をペルセポネに食べさせてしまう。 これによってペルセポネは地上のみの生活はできなくなり、1年のうち8ヶ月は地上で母と、残りをハデスのもとで過ごす形での解決となる。

 娘が戻った女神の喜びははかりしれなく、心の躍動が緑を溢れさせ、花を咲かせた。これが、すなわち春。万物も命の息吹を輝かせ、穀物や果物の実りをもたらす季節へと移行する。そしてペルセポネが冥界に戻る期間が冬で、芽吹きの準備をしていると考えられる。

 こんな風に農耕と深い関わりを持つ自然の現象が巧みに神話と結びつき、そこに親子や男女の愛情が豊かに表現されている。ギリシャに住んで神話を知ると、季節の変わり目にも神々の存在を感じる。春、紀元前の遺跡に咲き乱れる野の花々を見て、ペルセポネが母の元に戻ったのだな・・と思えたら、あなたもギリシャ通。(さ)

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12 コメント

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冥界神話 (elly)
2007-02-21 22:56:36
この神話、大好きな神話のひとつです。冥界神話ってなぜかとても惹かれるのです(両義性を持っているものが好きなのかもしれません)。とりあげてくださりとても嬉しい!
デメテルとペルセポネの神話と言えば、エレウシスの秘儀にもとても関心を持っています。(「秘儀」という点で以前のディオニュソスの記事と繋がりますね!)
また、ペルセポネという名前はギリシャ語で、「光」と関係していると、確か本で読んだことがあります。(当たってますか?)冥界の性質を持つ女神の名前が光と関連する意味をもつという逆説に、とても不思議な思いを抱きました。
また、デメテルとペルセポネは、もともと同じ神格だったとも読んだように記憶します。デメテルが持っていた地上と下界という相反する性質の半分をペルセポネが引継ぎ、ふたりの女神として分離していったと。この過程にもとても興味があります。
でも、こういった神話の機能的な面は抜きにしても、自然現象を巧みに表した魅力的なこの神話が、人々の生活をよりいっそう豊かにしてくれることは間違いないですね!春の訪れが女神の犠牲により成り立っていると考えると、ギリシャの春がよりいっそう美しく見えてくることでしょう。私も小さな花々が風に揺れる遺跡を巡りに春のギリシャを訪れたい!
(そして、この記事により刺激を受けました。私もそろそろインド神話を書かないと。)
デーメーテール讃歌 (kyotakaba)
2007-02-22 09:10:17
 こんにちわ、
「デーメーテール讃歌」は、『ホメーロスの諸神讃歌』の中でも一番好きなものです。とってもきれいです。原文では読めませんけれど。ちくま文庫の沓掛良彦さんのものを読んでます。
 以前に書いた私のブログ記事がありますので、トラックバックというのをしてみます。上手くいくかな。
 写真の神殿にも、私は行ってないのです。残念。今度は行こうと思います。
恥ずかしながら・・・ (Moco)
2007-02-22 12:41:15
素敵なお話、ありがとうございます。
少しでもギリシャに住んでいたことのある者として恥ずかしながら、初めてこの神話を知りました。
春の喜びいっぱいに、まさに咲き乱れる野の花、母の愛だったんですね。
ellyさん (さらさ)
2007-02-23 15:21:02
早々にコメントをありがとうございます。
エレウシスの秘儀もご存知なんですね!実際に遺跡に立ったとき、ここで秘儀が行われていた・・と思うと感慨深かったです。デュオニソスと、そう繋がってきますね。

デメテルが大地の母という意味を持つように、ペルセポネにも意味があるのでしょうが、残念ながら手持ちの幾つかの本に該当する箇所がないのでもう少し調べてみますね。わかり次第、お知らせします。(もし、ellyさんのご覧になった本が手近にありましたら、ご確認くださると有り難いです!)

エレウシスの秘儀とは別に両女神を讃える祭事がアテナイで行われており、デメテルの別名「テスモポリア」祭りと称されていました。その意味は「宝をもたらすもの」だそうです。
またハデスに関しては「富める者、富を与える者」と
いう意味を持った「プルトン」とも呼ばれていたそうです。
つまり、地下世界を否定的に捉えるのではなく、富の宝庫として肯定的にみなしていたことになり、そのあたりと関係しているのでは・・と思います。また「地下とそこに埋められる種は、ハデスとペルセポネの結合を象徴」とも記されています。決して死だけの世界ではないということも意味しているのではないでしょうか。

私も冥界神話、好きなんです。特に今回の神話とオルフェウスの話は特に『古事記』のイザナギ・イザナミ神話によく似た箇所があり、興味深いです。

ellyさんのインド神話も楽しみにしていますよ!


陽気に誘われ。。 (harula)
2007-02-23 21:58:18
この写真の場所へ行ったことがないです。
とてもよい天気の日にいかれたんですね。きれい!

かわいそうに彼女は、野原いっぱいに咲く花を摘んでいるところにこの悪者ハデスに連れて行かれちゃったんですよね。
季節は、たぶん春だったのでしょう。
春は、人の心もふわふわと気分が良くなる時。
私春が待ち遠しいんですけれど、半分春が怖いんですよ。(陽気に誘われちゃう人が多くって。。)
kyotakabaさん (さらさ)
2007-02-25 07:40:18
コメントとトラックバック、ありがとうございます。
TBも成功していますよ。
記事を拝見しました。デーメーテール讃歌、本当にきれいですよね。原文で読めるくらいギリシャ語ができたらな・・と思いますが・・・。
花々咲き乱れるギリシャの春が懐かしいです。
ハデスの季節として、私は一般的な冬としましたが、
kyotakabaさんは夏としていますね。ギリシャの場合、夏とも考えられると、本に出ていました。
Mocoさん (さらさ)
2007-02-25 07:51:51
ギリシャに住むことができたのは、やはり何かの縁。
帰国してからでも、ギリシャについて知らなかったことを知るのは素敵なことですよね。
記憶の中の風景や思い出が深く、広くなって・・。
私もまだまだ知らないことが沢山です!
harulaさん (さらさ)
2007-02-25 07:59:51
エレフシスには二度行きました。お天気もそれぞれでしたが、やはりギリシャを散歩するのは青空の日がいいですよね。特に遺跡は・・。

春の日だまり、花々の中からいきなり冥界ですから・・本当に可哀想ですよね。
日本では花見などで陽気に誘われて・・なんてことも
ありますが・・ギリシャではどんな感じなのでしょう?いつも陽気な人達ですから・・(笑)


本について (elly)
2007-02-26 20:11:35
コメント欄でもいろいろと教えて頂くことができて、有難いです。さらささんからの書き込みは目から鱗の連続でした。デメテルの別名テスモポリアに「宝をもたらすもの」という意味があるというのは深いですね。大地(下界も含め)が、死だけではなく、富や生命をもたらす源泉であると考えるのは、一神教が起こる以前の世界では一般的でしたよね。私が以前書いたインド神話の「女神」の記事ともリンクしている内容で、嬉しくなりました。神話は偉大です。
ところで、参照をした本が何だったかすっかり忘れていたので調べてみたところ、青土社から出ている神話シリーズの「ギリシア神話」でした。また、日本神話との関連で、平凡社ライブラリーの「ギリシア文化と日本文化」で読んだものが印象に残っています。詳しい内容は記憶の彼方に飛んでしまいましたが、さらささんがイザナギ・イザナミ神話のことを書かれたので、ふっと思い出しました。
ellyさん (さらさ)
2007-02-28 12:43:30
こちらこそ、いつも内容の深いコメントに感謝しています。ellyさんの書いてくださったことを通して、私自身もまた記事の内容を更に広げることができるのです。
本当に神話は偉大ですね。大きな時空や生命の連続の中で美醜、強弱、併せ持った神々や人間が精一杯生きています。様々な感情、決してあらがえない運命の過酷さまで感じることは沢山ですよね。
お忙しいのに本を調べていただいて、ありがとうございました!私の方は、昨年の引っ越しの後、まだ見つからない本があったりします。平凡社ライブラリーの方、面白そうですね。早速、読んでみたいです。

話は変わるのですが、先日、鎌倉・鶴岡八幡宮の国宝館で興味深い仏像を見かけました。「歓喜天」という名前、象の顔をした二体の仏像が向かい合っています。少し調べたところ、やはりインド神話の影響もあるようです。二体は善悪を表すという解説もありました。小さな仏像ですが、その異形によって多くの人の足を止めさせていたようです。私も、しばし立ち止まり、ellyさんのことも思い出していました。

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