ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

09/03/20 歌舞伎座の元禄忠臣蔵③「御浜御殿綱豊卿」

2009-03-27 23:58:02 | 観劇

今月昼の部の眼目はなんといっても仁左衛門の綱豊卿だ!前回はなんと2回も観てしまっている(^^ゞ玲小姐さんと並んで心をウキウキさせながら、しっかり観る!!

【元禄忠臣蔵「御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)」】(二幕)
あらすじは前回の記事に詳しいので省略。
2007年6月の「御浜御殿綱豊卿」の記事はこちら
今回の配役は以下の通り。
徳川綱豊卿=仁左衛門 中臈お喜世=芝雀
富森助右衛門=染五郎 上臈浦尾=萬次郎
御祐筆江島=秀太郎 中臈お古宇=芝のぶ
新井勘解由=富十郎

丸谷才一の『忠臣蔵とは何か』を読んで一番目鱗だったのは将軍綱吉という人物を理解しないとこの事件がよく理解できないということだった。学者顔負けに儒学の講義をする綱吉は中国の伝説の聖王を理想とし、聖王たちに自分を模して振舞ったというのだ。綱吉は「生類憐れみの令」の印象が一番強いが、その悪法や悪貨強制のもとで想像以上に人々が苦しみ、些細なことでおとりつぶしや改易になった藩が他の将軍の時代と比べものにならないくらい多いという、そんな苛斂誅求な悪政を30年も続けたのだという。
そんな綱吉が吉良上野介をお構いなしにしたことで赤穂浪士たちへの同情が集まって仇討ちを待望する気運が盛り上がったのは、そういう悪政への不支持・反抗の世論の突出だったのだ。さらに御霊信仰やら魂鎮めとしての仇討ちという話の展開も面白いのだが、それはまたの機会にあらためよう。

綱豊は中国の聖賢の教えよりもまず侍心を大事にしたいという気持ちを新井勘解由(白石)に語る。そこが綱吉への批判になっている。そして赤穂浪士たちに仇討ちをさせてやる方が禁裏に喜んでいただけるはずだし、さらに「世道人心のためにも討たせたい」と呟く。そしてそういう人物だからこそ、綱吉に本心を悟られないように振舞わなければ身の安全を保てないという寂しさがある。
ここが最後の場面で助右衛門に内蔵助の放埓の裏にある寂しさがわかるという言葉につながっているのだ。こうして綱豊卿を描きながら内蔵助を浮かび上がらせる真山青果の作品の奥行きの深さを味わうことができた。

今月の6作品による通し上演の中でこの演目だけに明るい場面があって、仁左衛門という華がある役者に綱豊卿というのがまた絶妙だ。光が強ければ影も濃くなる。単独での上演も多い作品だが、通しの中でも大きな役割を果たすことがよくわかった。

前回の新井勘解由は歌六だったが富十郎も実によかった。「江戸城の刃傷」で加藤越中守だった萬次郎はこちらでは上臈浦尾と幅の広さに嬉しくなる。宗之助が病気休演の代役で芝のぶが中臈お古宇を頑張っていた。芝雀の中臈お喜世は綱豊に「いつまでも町娘らしゅういてくれよ」と眦を下げて言われるにふさわしい可愛さいっぱい。

助右衛門の染五郎は前回の千穐楽でも気迫いっぱいで仁左衛門と渡り合う素晴らしい芝居を見せてくれたが、さらに成長していたのが嬉しい。
そして仁左衛門の綱豊卿はもう他の追随を許さない絶品の綱豊だ。銭(ぜぜ)を一度も持ったことがない高貴な育ちが台詞の音遣いからも身体の動きからも漂い、お喜世に甘えかかる酔態も可愛く、心情をほとばしらせる時の熱さ。華やかな能衣裳で助右衛門との立ち廻る時の動きの美しさ。その華やかな人物が内蔵助への共感の吐露に忍ばせる自らの寂しさ。
これを観てしまったら、しばらく「綱豊卿」は封印である。他の役者の皆さん、しばらくやらないでください(^^ゞ

今月は「元禄忠臣蔵」ということで定式幕が一切使われない。いくつかの緞帳が使われたが、写真の金色の雲海の中に富士山の日の出が浮かび上がる図案のものが一番使われていた。やはり義士たちの大願成就を客席からも一緒になって祈る気持ちで観る演目だし、「一富士」ということで縁起のよい図案がいいのだろう。
3/20歌舞伎座の元禄忠臣蔵①「江戸城の刃傷」
3/20歌舞伎座の元禄忠臣蔵②「最後の大評定」


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2 コメント

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決定版の綱豊卿 (六条亭)
2009-03-29 00:24:51
ぴかちゅう さま

いま仁左衛門さんほどこの綱豊卿の華と色気を感じさせる役者はいませんね。染五郎さんとの腹の探り合いも余裕たっぷりでした。

また富十郎さんの新井勘解由との対話に本心が披瀝されていて、綱豊の人間としての大きさを感じさせました。

はじめさよなら公演の演目としては地味と思った通し上演でしたが、熱気溢れる舞台の決定版で、おっしゃるように当分この「御浜御殿綱豊卿」は封印したいですね。

TBをうちました。
★六条亭さま (ぴかちゅう)
2009-03-29 22:20:40
TB&コメントを有難うございますm(_ _)m
今月の6作品による通し上演の中で「御浜御殿綱豊卿」だけに明るい場面があって、仁左衛門という華がある役者に綱豊卿というのがまた絶妙ですね。通しの中でもこの演目が大きな役割を果たすことがよくわかりました。
そして「仮名手本忠臣蔵」の通し上演の時に買ったのにこれまでツンドクだった丸谷才一の『忠臣蔵とは何か』を今月公演にあわせて読んで赤穂事件についても「仮名手本~」についてもいろいろと参考になり、この演目でも綱吉と綱豊の対比という視点でも観ることができました。
また綱豊卿を描きながら内蔵助を浮かび上がらせる真山青果の作品の奥行きの深さもあらためて味わうことができました。
歌舞伎座さよなら公演ということでしばらく出していない「元禄忠臣蔵」をかけたのは私はよかったと思います。3人の内蔵助が揃った夜の部も千穐楽で堪能してきました。
続けて感想アップを頑張ります(^O^)/

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