12/06/23 澤瀉屋の団体襲名披露公演夜の部(3)「ヤマトタケル」に一門の新時代到来を確信


澤瀉屋の団体襲名披露公演六月大歌舞伎夜の部の「ヤマトタケル」は、観劇のお仲間で誘い合わせて23日に観劇。(前後のオフ会の記事はこちら)。7月に入ってしまったが、しっかりと感想をアップしておこう。

三代目猿之助のスーパー歌舞伎は「新・三国志Ⅱ」「新・三国志Ⅲ」と観たのみ。「ヤマトタケル」は段治郎主演で2回観た。2008年3月の記事はこちら 2005年4月の記事はこちら
新猿之助の「ヤマトタケル」への想いは、この間の報道や「渋谷亀博」のトークショーなどでも把握しているので、いよいよの観劇で感無量!
【スーパー歌舞伎 三代猿之助 四十八撰の内 ヤマトタケル】
以下、「歌舞伎美人」の公演情報のみどころより作品の概説を引用。あらすじはそのページをご参照のこと。
「古事記」を題材に哲学者梅原猛が書き下ろし、日本神話のヤマトタケルの波瀾に満ちた半生を、雄大な構想で独創的なドラマとして構築した本作は、昭和六十一年に初演され、演劇界に"スーパー歌舞伎"という新しいジャンルを築き上げた歴史的な作品です。
以下、より今回の主な配役は以下の通り。
小碓命後にヤマトタケル/大碓命=亀治郎改め猿之助
帝=中車 ワカタケル=初舞台團子
タケヒコ=右近 兄橘姫/みやず姫=笑也
倭姫=笑三郎 弟橘姫=春猿 老大臣=寿猿
ヘタルベ=弘太郎 帝の使者=月乃助
熊襲弟タケル/ヤイラム=猿弥
尾張の国造=竹三郎 皇后/姥神=門之助
熊襲兄タケル/山神=彌十郎

宇宙から見える地球の姿、アンモナイトの化石のイラストが大写しになってから宮廷の場面になる幕開けで、久しぶりに観る「ヤマトタケル」の世界が始まると思うと嬉しさでいっぱいになる。さらにここで新猿之助と中車の二人が宮廷の高官のような衣装で出てきて二人の口上があった。
猿之助は、映像と違って舞台は役者と観客との無限のキャッチボールで盛り上がっていくもので毎日毎日違うのが面白いと二人が言うのだから間違いがないと笑いをとりながら余裕の口上(日替わりで自在に語っているらしい)。中車は猿之助を父とも師匠とも思って精進していくという決意を必死に語った。二人の対照的な口上もこの二枚看板で澤瀉屋がすすんでいくことを思わせてよい。

口上の後、役の扮装にしかえる関係もあるのでややしばらく間が開いてしまうのは仕方がない。皇后の門之助と並んで帝の姿で登場した中車が立派でさらに嬉しい。新猿之助の小碓命がみずら結いの白い衣装の姿で登場し、少年のような高い音遣いでの台詞が響くとうっとりしてしまう。
日継ぎの皇子(皇太子)の兄大碓命が父帝の前に出仕させろという父の命令で、兄を説得にやってきての双子の兄弟二役の早替り場面が鮮やかな上に魅力的。透ける幕や太い柱の陰を使って身代わりの役者も使った早替りの連続で早くも楽しくなってくる。父に献上された橘氏の姉妹の姉を我が物としながら妹も口説くという兄(黒の衣装)を低い音遣いで演じ分ける。色悪的な役柄を新猿之助が嬉しそうにやっているのが伝わってくるのがよい。母亡き後、皇后一派が自分の息子をにするための謀略を先制し父を殺してしまおうと言う兄と口論の末、剣を抜いた兄ともみあううちに誤って手に掛けてしまう小碓命。兄橘姫は小碓命を夫の仇と襲うが、小碓命の人柄にふれ命を慕うようになる。

父帝は怒り、死罪に値するところを減じて大和に従わない熊襲征伐に向かわせる。小碓命をかばった叔母の倭姫までとばっちりで伊勢の斎宮にされ、弟橘姫を伴って下向する。
熊襲では首領にタケル兄弟をいただく勢力が気勢を上げ、新しい館の完成を祝う宴の真っ最中。小碓命はそこに踊り女に変装して舞を披露。剣の舞の最中に油断したタケル兄弟を刺殺する。さすがに新猿之助のこの場面はこれまでのどの主役よりも美しく、女舞も見事。正体を現しての立ち回りも含めて動きが綺麗で見応え十分。初演と同じ彌十郎による熊襲兄タケルは堂々として立派。猿弥の熊襲弟タケルと揃うと重厚感にあふれている。弟が絶命の前に命の勇気を称えてヤマトタケルの尊称を名乗って欲しいと願い、命はその思いを受けとめる。

熊襲征服を果たし大和に帰ったヤマトタケルに父帝は兄橘姫を与えたが、3日の休養後すぐに蝦夷征伐に赴くように命ずる。吉備の大君タケヒコもつけるが、いずれも死ねば死んだでよいという思惑が明らかなので、失意のまま倭姫を訪ねるタケル。そこで倭姫はタケルを励まし神体の天叢雲剣をお守りに持たせ、タケルに想いを寄せる弟橘姫を伴わせる。叔母でなければと放ってはおかないとタケルへの愛情をほのめかす笑三郎の倭姫は艶麗でよいが、新猿之助はそう言わせるのが無理がないと思わせるほどの可愛さがある(ジャニーズおっかけの熟女の皆さんの気持ちがわかる気がしてしまう(^^ゞ)。

蝦夷のヤイレポ・ヤイレム兄弟は恭順するとみせかけてタケル一行を焼き打ちにするが、天叢雲剣で草を薙ぎ払い、それに火をつけての応戦。黒衣ならぬ赤い衣をきた大勢が赤い小さい旗とちょっと大きくて下に黄色が入った旗で両者の火力の戦を表現する迫力ある場面が舞台いっぱいに展開され、新しい火の方が力があるというちょっと理解不能の理屈で勝利(これで宝剣は草薙剣と改名される)。ヤイラムによる稲作と製鉄技術をもった大和に巻けたという台詞で、大和に従わない勢力の征伐の理不尽さも浮き彫りになるが、タケルとしては父に認められたいという思いに突き動かされている。

海上の移動では走水で嵐にあい、海神に愛するものを捧げるべきというお告げにより弟橘姫は海中に身を投げる。この海の嵐の伝統的な青い波布が火の赤い布と対照的で、大きな変化のある舞台としても素晴らしい。春猿の弟橘姫の見せ場もたっぷり。タケルが美人姉妹の二人共をめとって「心苦しさがある」と吐露する場面がまた可愛かったが、その姉妹の想いも複雑で妹は姉の夫の想い人になれても第一夫人にはなれないという苦しさから解放されるために海神の后になりたいと願うという、せつない場面を堪能させてもらった。

大和への凱旋の途中立ち寄った尾張国で、タケルは国造の娘みやず姫を献上される。笑也のみやず姫は相変わらずに可愛らしい。師匠から奇跡の50代と言われているらしいが、こういうお役には実によい。真っ直ぐに大和に向かうつもりが、さらに帰途に伊吹山の山神退治をしてくるように帝の命がくだる。みやず姫の素朴な戦嫌いの言葉から、これを最後にするという約束の証しに姫の元に草薙剣を置いたまま出発。
伊吹山の神を見くびった報いはてきめんで、白い巨大な猪に姿を変えた伊吹山の神に噛みつかれ、タケルは深手を負ってしまう。山神の彌十郎と姥神の門之助による命がけのタケルへの闘いは、天孫降臨の大和の信仰によって押さえつけられる日本の土着の神々への信仰の反逆を思わせる。征伐はしたものの、タケルの身体は衰えるばかり。父帝や兄橘姫、そして兄橘姫との間に生まれたまだ見ぬ我が子ワカタケルのいる懐かしい故郷の大和を夢に見ながら、とうとう能褒野(のぼの)の地でタケルの命は尽きてしまった。
中車の帝がタケルの夢に現れるが、全く答えてくれない。新猿之助のタケルの父を慕う想いはまさに身を切られるようにせつなく迫る。この陰影がくっきりする人物像の造形は新猿之助の真骨頂だと思う。さらに今回は新中車の父との確執の現実のドラマが重なって、タケルを無視する夢の中の帝での登場が重たく感じてしまう。
まさに「ヤマトタケル」が三代目猿之助父子の葛藤を乗り越え、再生されたことを象徴しているように思えた。

タケルの陵墓(能褒野王塚古墳)が完成し、詣でた人々の前に帝の使者が現れる。皇后もその息子も亡くなり、帝がワカタケルを日継ぎの皇子としたので迎えにきたのだという。そしてその人々を追い、先に行くようにタケルの魂が真っ白な大きな鳥となって大和に向かっていく。
墓から姿を現した新猿之助の白鳥の衣装の姿が素敵すぎだ。ジュディ・オングの1979年の大ヒット曲「魅せられて」の衣装の袖を両手に持った棒で長くひらめいたのと同様、白鳥の翼は棒によってはためく。初演時の楽屋で亀治郎は棒を振っていたというが、それが本舞台で実現したわけで、長くこめられた思いとともに白鳥の翼をはためかせ、新猿之助の宙乗りは花道の上をゆうゆうと飛ぶ。3階の鳥屋近くの左席に座る私の目の前をアップで通り過ぎていった。
至福!!!

今回の襲名披露の出演者はもちろん、澤瀉屋の一門も収まるべき位置に納って役をつとめ、澤瀉屋と共演した役者たちもしかるべきお役をつとめていた。澤瀉屋一門の新時代到来を確信した立派な舞台だった。

冒頭の写真は、演舞場の入り口の看板。福山雅治による口上特別ポスターとスーパー歌舞伎初という絵看板が並んでいる。
Wikipediaの「ヤマトタケル」の項はこちら
6/5の澤瀉屋の団体襲名披露公演初日昼の部の他の記事は以下の通り。
(1)涙、涙の「口上」
(2)新中車堂々の主演「小栗栖の長兵衛」
(3)新猿之助の狐忠信が愛おしい「四の切」
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コメント
 
 
 
Unknown (hitomi)
2012-07-02 09:52:57
来年があれば、中日劇場公演が楽しみです。昨年の右近さんたちの中日劇場の舞台も成長著しく素晴らしかったです。
今までヤマトタケルの陵墓は名古屋市の白鳥古墳だとばかり思っていました。
Wikiによると
白鳥となった日本武尊が舞い降りた地と伝えられる事から、日本武尊の陵墓とされてきた。現在では尾張氏の陵墓と考えられている。

 
 
 
思いが一つになった! (さちぎく)
2012-07-03 00:13:36
襲名の二人、初舞台の團子、澤瀉屋一門みんなの思いが一つになってあの感動の舞台を作ったように感じますね。父子の葛藤、思惑等が重なって実に美しい精神世界を描いていたと思います。
 
 
 
Unknown (北西のキティ)
2012-07-03 06:33:51
妹の第一夫人になれない苦しさから逃れるために海神になるという想い、タケルの父への想い(最後の夢の中の場面)がせつなく胸に迫りました。歌舞伎にあまり詳しくない職場の同僚にチラシを渡し、7月昼の部の観劇を薦めておきました。(新猿之助宙乗りは私と同様知っていましたが・・・)。ピカチュウさん観劇お誘いありがとうございました。また、初心者でもわかるいい歌舞伎がありましたら、よろしくお願いします。
 
 
 
皆様、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2012-07-03 23:18:24
★hitomi様
お互いに自愛しながら観劇を長く楽しみたいですね。師匠が休んでいる間に澤瀉屋の一門は本当にみんな成長したと私も思っているので、これからの公演は期待してよいはずです!
ヤマトタケルの陵墓としての認定は途中で変更になったようです。劇中の台詞の中で「のぼの」で亡くなったというようなことがわかったので「ヤマトタケル のぼの 墓」ネット検索したらすぐに出てきましたよ。
★さちぎく様
>澤瀉屋一門みんなの思いが一つになってあの感動の舞台を作った......本当に同感です。スーパー歌舞伎は三代目猿之助さんのこの世に創り出した素晴らしいもののひとつで、メッセージがはっきり伝わるのがいいなぁと思っています。次回は梅原猛さんが手を入れている「オオクニヌシ」ではないかと思っていますが、観たことのない演目なので実に楽しみです。
★北西のキティ様
>職場の同僚にチラシを渡し、7月昼の部の観劇を薦めておきました.....有難うございますm(_ _)m
前売り直後に完売状態だったチケットが少しずつ戻りが出ているようなので、うまく手に入れて観ていただきたいものです。
次回は何をお誘いするか、考えておきますね(^_^)/
 
 
 
私もみたい! (花梨)
2012-07-09 23:14:03
こんばんは。
本当に6月の演舞場良かったですよね。
7月も昼夜見ますが、楽しみです。

「ヤマトタケル」は何度も何度も見てますが、その度に鳥肌がたつというか…。
この素晴らしい演目が、四代目に受け継がれたのが嬉しいです。

私も次回は梅原さんが手を入れているらしい、「オオクニヌシ」を見たいなと思ってます。
「オオクニヌシ」、余り覚えてないのですが、ちょっと難しい舞台だったような…。
 
 
 
★花梨さま (ぴかちゅう)
2012-07-09 23:54:08
同じ猿之助でも三代目と四代目はずいぶんと違うし、それでよいのだなぁと6月公演を観終わってつくづく思いました。カーテンコールで猿翁が出てきたら客席の拍手が大きくなって、復帰を待っていたという思いが劇場にあふれていたのが嬉しかったです。
「ヤマトタケル」は本当に見応えを感じる作品で大好きです。最近は気力体力財力の関係で同じ演目のリピートは極力しないことにしているので、七月は見送りました。「黒塚」を楽しみに夜の部を前楽に観に行きます。
次回のスーパー歌舞伎、「オオクニヌシ」を是非観たいです。「ヤマトタケル」が全国を一巡している間に梅原先生が頑張って完成させてくださると思っています。中車をスサノオにして役を膨らませて猿之助のオオクニヌシと並び立つようにしてくださるようで、そうしたらきっと作品のテーマもわかりやすくなるような気がしています。
梅原先生、無理しすぎない程度に頑張ってくださ~い!と念じています(^^ゞ
 
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