映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

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『トレインスポッティング2 ~T2 Trainspotting~』

2017年04月01日 | 映画~た~
2017年 イギリス映画


*ロンドン地下鉄の駅に登場したT2ポスター

20年前に公開された『トレインスポッティング』の続編です。


日本でもコアなファンを持つこの作品。公開当時、この映画のサントラCDを購入した人も多いはず!『トレインスポッティング2』は、1作目から20年経った彼らの姿を描いています。そして、彼らの現在の姿は想像通りで、そこは期待を裏切りません(笑)。



内容はと言いますと…そのまま、彼らの20年後の姿です。一応端的に内容を説明しますと、ドラッグを売りさばいたお金を持ち逃げし仲間たちの前から姿を消していたレントン(ユアン・マクレガー)が、20年ぶりにスコットランドのエディンバラへ。彼以外の仲間たちは、20年前の出来事以降も、罠にハマったかのようにずっとかわらぬ生活ぶり。しがないパブ経営、妻子持ちで生活保護を受けながらの困窮した生活、刑務所暮らし…。そこに現れたレントンは、生活のすべてが上手くいっていて自分たちとは異なるライフスタイルを謳歌している様子。あの時持ち逃げしたお金を元に。過去の恨みつらみの爆発、袋小路に追い込まれたような将来に希望を見いだせない生活、自分たちを出し抜いて成功したかつての仲間。でも本当にそうなのか?…というところから話が動き始めます。


1作目から20年後の設定なので、前作と比べるのは全く意味が無いことなのですが、個人的には「これ以外には描きようがないよね」と思いました。もう20代の若者ではない彼らの生活の変わったところ、変わっていないところ。抱えている問題も20年前とは違うし、それに対処するだけの自由さ、体力、環境だって違います。


一番好感が持てたのは、1作目より良い映画を作ろうとしていないところ!そもそも、そこを超えていこうとしていないところが、清いなと思いました。前作のインパクトは、あの時代で、あの年齢の俳優たちの起用、あの時代の音楽だったからこその爆発力のなせる技。映画の続編を作る時、そこを超えていこうとか色々なものを詰め込みすぎて、逆にグダグダになるというパターンが多いと思いますが、さすが20年寝かせてやっと重い腰を上げて作っただけあって、そんな単調なミスは犯していないのはさすがです。


1本の作品としてどうなのかというと、当然ながら1作目の圧勝です。逆に言うと、上でも言及しましたが、制作側も1作目に勝る作品を作ろうとしていないし、見る側もそこを求めるのは間違っているのだと思います。これはあくまで続編なわけですから。


では、続編としてどうなのかというと、抜群でした。


前作との絡みもありますし、1作目を知らない人が見ても分かるようにしなければならない部分もあるので、映画の前半はどちらかと言うと「トレインスポッティングとは」とか、登場人物たちの関係性をしっかり明確にするために割かれています。続編としての面白さが増してくるのは後半。


トレインスポッティングのファンならスパッドを愛さずにはいられないと思うのですが、そんな気持ちを抱いている方なら絶対楽しめるし嬉しくなる作品です。彼のキャラクター、ダメダメ具合(それは全キャラクターがそうですが)、そしてそれでも愛さずにいられないし応援したいと思ってしまうのがスパッドの魅力。そして、話の内容にもダニー・ボイル的なひねりがあって、とってもニクイ!


映像の面白さは去ることながら、往年のファンなら満足の一本です。


私は前作が本当に大好きで多分20回位観ているのですが、この続編を映画館へ観に行った時は、もう嬉しくて嬉しくてニヤニヤが止まりませんでした(笑)。愛すべき全キャラクターがそのまま、でも20年の時を経て良くも悪くもリアルにそこにいてくれるのですから。この作品を楽しむには、「続編である」ということをきちんと念頭に置いて観てください。一本の作品として個別に楽しむのではなく、前作とのセットとして生きる一本です。





おすすめ度:☆☆☆☆★


日本での公開は、2017年4月8日から

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2016年ベスト。

2016年12月31日 | 年間ベスト
明けましておめでとうございます。

日本ではすでに新年を迎えていますが、私が住むイギリスではまだ大晦日。あと4時間で新年を迎えます。


さて、2016年のベストです。全く持って、私個人の勝手なベストです。
去年と同様、2016年のランキングと言っても、2016年に公開された映画ではなく、私個人が見た映画なので、公開、製作年はバラバラです。



まずは2016年に観た映画の一覧です。


x+y 僕と世界の方程式 (x+y, 2014年 イギリス映画、日本では2017年1月に公開予定)
サイダーハウス・ルール (The Cider House Rule, 1999年 アメリカ映画)
Amy エイミー (Amy, 2015年 イギリス映画)
・ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション (Mission Impossible/Rogue Nation, 2015年 アメリカ映画)
・チャップリン (CHAPLIN, 1992年 イギリス・アメリカ映画)
・グーニーズ (The Goonies 1985年 アメリカ映画)
・ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ (Nowhere Boy, 2009年 イギリス映画)
・リービング・ラスベガス (Leaving Las Vegas, 1995年 アメリカ映画)
・オデッセイ (The Martians, 2015年 アメリカ映画)
・My Brother the Devil (2012年 イギリス映画)
・クリムゾン・ピーク (Crimson Peak, 2015年 アメリカ映画)
ジャングル・ブック (The Jangle Book, 2016年 アメリカ映画)
・Leave to Remain (2013年 イギリス映画)
・ハンナ (Hanna, 2011年 アメリカ映画)
・ブルックリン (Brooklyn, 2015年 カナダ、イギリス、アイルランド、アメリカ映画)
・わたしは生きていける (How I live Now, 2013年 カナダ、イギリス映画)
・ギリシャに消えた嘘 (The Two Faces of January, 2014年 イギリス、アメリカ、フランス映画)
・エイリアン (Alien, 1978年 イギリス、アメリカ映画)
・攻殻機動隊 (1995年 日本映画)
・イーグル・ジャンプ (Eddie the Eagle, 2016年 イギリス、ドイツ、アメリカ映画)
・ズーランダー2 (Zoolander2, 2016年 アメリカ映画)
・ 海街ダイアリー (2015年 日本映画)
・マイ・ビッグ・ファット・ウェディング2 (My Big Fat Greek Wedding 2, 2016年 アメリカ映画)
・Wild Horses (2015年 アメリカ映画)
25年目の弦楽四重奏 (2012年 アメリカ映画)
・明日を継ぐために (A Late Quartet, 2011年 アメリカ映画)
・ピッチ・パーフェクト (Pitch Perfect, 2012年 アメリカ映画)
・悪の教典 (2012年 日本映画)
・レヴェナント: 蘇えりし者 (The Revenant, 2015年 アメリカ映画)
・奇蹟がくれた数式 (The Man Who Knew Infinity, 2015年 イギリス映画)
・グランド・イリュージョン 見破られたトリック (Now You See Me 2, 2016年 アメリカ映画)
・後妻業の女 (2016年 日本映画)
・ブレックファスト・クラブ (The Breakfast Club, 1985年 アメリカ映画)
・ブルーバレンタイン (Blue Valentine, 2011年 アメリカ映画)
・誰よりも狙われた男 (A Most Wanted Man, 2014年 アメリカ、イギリス、ドイツ映画)
・The Family Fang (2015年 アメリカ映画)
・ロンドン・コーリング ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー (Joe Strummer:The Future is Unwritten, 2007年 イギリス、アイルランド映画)
・The Lady in the Van (2015年 イギリス、アメリカ映画)
・パレードへようこそ (Pride, 2014年 イギリス、フランス映画)
・SEX AND THE CITY (2008年 アメリカ映画)
・SEX AND THE CITY 2 (2010年 アメリカ映画)
・Forget Me Not (2010年 イギリス映画)



今年のリストには、前に見たことがあるものが数本含まれています。気に入って何回も観ているものではなく、随分昔に観たけど、内容を覚えていないモノや昔は楽しめなかったけど見方が変わったものなどです。

上記のリストを数えてみると、42本でした。多分抜けている物もありますが、去年よりも観ていたと言うのは意外でした。というのも、2016年は更新回数こそ去年よりも若干増えましたが、実は数ヶ月間「全く持って映画に興味が持てない」という時期がありました。それまで何年にも渡って、それこそ子供の頃から好きだった映画だと言うのに、それを見たいと思わなくなったことに、「これってもしかして中年の危機の一環では?」と余計な心配をしたりもしましたが(苦笑)。今年は、私にとっては本当に激動の1年でして、それも影響していたのかもしれません。



まずは、がっかりからいきましょうか。


- 悪の教典

ダントツです。いくらイギリスのテレビで邦画の放送があると気になってしまうとは言え、そもそも、どうしてこれを見ようと思ったのか自分のことながら謎です。物語にも出演俳優にも興味がなかったと言うのに。上手く説明できないのですが、伊藤英明さんが苦手。…だったらはじめから観るなっちゅうはなしです。胸糞悪くなる話なので、この映画を見て気分が悪くなったと言うのはある意味正解なのですが、とことん私好みではありませんでした。



- ブレックファスト・クラブ

80年代の青春映画です。90年代に中学、高校時代を過ごした私が購入していた映画雑誌には、80年代の青春映画がおすすめとして紹介されていることが多く、これはそのうちの1本。実はこれまでにも観てみようとしたことはあったのですが、ことごとく撃沈。しかし、今年は心底苦手(というか嫌悪)していた『SEX AND THE CITY』を克服したので、この流れに乗って再度挑戦してみましたが、もう全く持って駄目でした。80年代のパステルカラーのアメリカのキラキラしたティーンエージャーが出ているだけでお腹いっぱい…。



- グーニーズ

またまた80年代。気づいてはいたけど、あらためて80年代の青春映画、子供映画のノリが苦手なんだとわかりました。これは友人(スペイン人)が大好きな映画で、観たことがないといったら強制的にDVDを手渡されたので観ないわけには行かず(苦笑)。もしかしたら楽しめるかも!と一縷ののぞみを持って挑みましたが…。「西洋の子どもたちがキラキラした眼差して手に汗を握りながらワクワクドキドキの大冒険を見守る」話は、40歳手前の日本人にはハードルが高かった。




では、つづきまして、2016年のベストに行きましょう。



第5位 レヴェナント: 蘇えりし者

ディカプリオがやっとオスカーを獲得した一作。特別彼のファンというわけではありませんが、やっぱり彼にはいつか獲ってほしいと思っていました。そして、文句なしの演技。レオの素晴らしさはもちろんなのですが、個人的には大好きなウィル・ポールターが重要な役どころで出ていたこともとても嬉しかったです。まだ20代前半の若い俳優ですが、これからの彼の活躍には期待大!!!他にもトム・ハーディーなどイギリス人俳優たちの活躍が、この映画でも如何なく発揮されており、彼らの演じられる役の振り幅の広さには脱帽。そして、映画自体も「撮影のハードさ」やスタッフ、俳優たちの本気度が伝わってきて、「最高の作品を作る」という意気込みが画面からひしひしと伝わってきました。



第4位 ズーランダー2

一作目の大ファンで、何年も続編の噂がありましたが、やっとやっとの第二弾!
評価はものすごく別れたようですが、個人的には「抜群」でした。一作目のバカバカしさをきちんと世襲し、過不足がなく塩梅が抜群だったと思います。だいたい一作目の評判がよくて続編が作られるときって、方に力が入りすぎたり、色々計算しすぎてしまうのか、過剰でもう面白くなくなってしまうことが多いと思うのですが、ズーランダー2に関しては、よくぞ上手く作り上げた!と思います。



第3位 Amy エイミー

エイミー・ワインハウスのドキュメンタリーです。ドキュメンタリーと言っても、ドキュメンタリーにはなっていない作品って実は多いと思おうのです。ある意味これは仕方のないことなのかもしれませんが、どうしても監督やスタッフたちの思いや考えが出てしまう。人によって、見方によって、物事は様々に形を変えるからこそ、下手すると、プロパガンダになりかねないという難しさが「ドキュメンタリー」にはあると思うのです。しかし、『Amy』は、きちんと一定の距離を取り、彼女を賞賛するでもなく、逆に糾弾するでもなく、彼女のまわりにいた様々な人々のインタビューをもとに構成されていました。痛々しいほどピュアにジャズを愛したエイミー。純粋すぎたからこそ彼女の才能は開花したし、人や自分自身を傷つけ傷つけられたりもした短い一生がまとめられています。特に音楽ファンは必見。



第2位 25年目の弦楽四重奏

出演俳優たちの力量があるからこそ、些細な日常生活の中の人間の滑稽さや苦悩が安定して描かれています。とにかく俳優のチョイスがすばらしい。フィリップ・シーモア・ホフマンが主演しているというのが、この作品を観た一番の理由なのですが、「やっぱりこの人大好き」とあらためて思いました。リアルと言うと安っぽいのですが、なんなんでしょう・・・私達が人生の中で感じる「まじかよ!?」という瞬間や出来事を、その気持やカッコ悪さをそのまま映画で見せてくれているというか。そして、彼の娘役だったイモジェン・プーツ。去年見たイギリス映画『A Long Way Down』にも出ていたのですが、彼女もうまい。自分がイギリスに住んでいるからというわけではなく、この小さな国の俳優たちはやっぱりすごいと思うのです。



第1位 x+y 僕と世界の方程式

自閉症(多分アスペルガー症候群)の若者たちの生活を描いた作品。ブログ記事にも書きましたが、本当にこのとおりなんです。アスペルガー傾向のある数多くの同僚たちと仕事をした経験があるからこそ、「そう、その通り!」というポイントや難しさをしっかりと描ききれていることにこの映画の凄さを感じました。私はどちらかと言うと俳優の演技の素晴らしさに重点を置いて映画を楽しむので、どうしてもそこに注目してしまうのですが、この映画も、俳優たちが素晴らしった。大好きなサリー・ホーキンスはもちろん、脇役のエディー・マーサン(2015年のベストに入った『おみおくりの作法』の主演俳優)のカメレオンぶり。そして一番の驚きは、先生役のレイフ・スポール。お父さんはティモシー・スポールという怪優ですが、レイフの活躍にも期待が膨らみます。また、学生たちを演じた若いイギリス人俳優たちも本当に素晴らしかった。特にお気に入りのアレックス・ローサーやジェイク・デイビスは他の映画やテレビドラマでもよく見かけます。大事件をCGや莫大な予算を使って見せるエンターテイメントも面白いのですが、こういう静かな、日常のできごとや生活をとことん普通に描くイギリス映画が、やっぱり私は好きです。




今年はベストを選ぶのが難しかった!1本が抜きん出ているわけではなく、方向性の違う作品様々な作品を楽しめたということなのだと思います。
ベスト5にははいらなかったものの、おすすめをいくつか。


攻殻機動隊
毎年言っているけど、ジャパニメーションって本当に本当にすごい。これは日本人にしか作れない。


エイリアン
わかってます。これも今更なんですが、アメリカ映画なのですがイギリス人監督が作った作品というのが随所に感じられます。これが70年代の作品であることに驚きます。


ジャングル・ブック

黒ヒョウのバギーラに心を奪われました!動物たちのキャラクターが、声を演じた俳優たちときちんとマッチしているのも見どころ。最初から最後まで面白かった!



2017年は、マーティン・スコセッシの『サイレンス』、そして待ちに待った『トレインスポッティング2』を楽しみにしています。
そして、みなさんがより素敵な映画と巡り会えますように♪


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『25年目の弦楽四重奏 ~A Late Quartet~』

2016年09月27日 | 映画~な~


2012年 アメリカ映画



これまでの数ヶ月間、どうも映画熱が冷め気味で、観始めても集中力が続かなかったり楽しめなかったりでした。この映画は、久しぶりにちゃんと観た一本。フィリップ・シーモア・ホフマンが出演しているというのが、この映画を選んだ一番の理由です。


カルテットを組んで25年のベテラン音楽家たち。素晴らしいバランスで美しい音楽を奏で続けてきた彼ら。しかし、メンバーの1人の体調に異変が生じたことから、ひとりひとりの胸の内、グループのバランス、私生活は舞台の上とは違った一面が表面化。



映画の感想の前に…この感想を書くために、日本の邦題を今回はじめて知ったのですが、ちょっと脱力どころではなくソファから落ちそうになりました。邦題の酷さは今に始まったことではありませんし、批判するのも今更な気もします。配給会社、映画会社でしっかりと話し合いを重ねた結果漬けられたタイトルなのでしょうが(…)、なんだか映画の良さを見事に半減しているようにしか感じられません。もし出演者を知らずに日本語のタイトルだけを見たら、私は多分この映画を見たいとは思いません。日本に限ったことではないかもしれませんが、小説の題名ってすごく大切です。芥川賞などの大きな賞の選考過程でも、題名の面白さ、引きつける力に関してはいつも言及されています。私は映画も同じく、作品として世に出すとき、特に特定のマーケットに向けてそれを打ち出すときに、そこに合わせたタイトルを現地の言葉で表現するのはものすごく責任重大なことである思っています。でもその責任の重大さに気づいていない人たち、もしくは会社がその任務を行っているように思えてなりません。



さて、あらためて映画の感想です。フィリップ・シーモア・ホフマンの演技を楽しむのに、いい作品でした。そして出演者たちのバランスが絶妙。誰か1人が抜きん出ているとか、誰かが誰かの影に隠れてしまうということがなく、それぞれの立場や一筋縄では行かない感情、人間の多面性が見事に表現されていて、どの役にも色あせがないことが素晴らしかったです。




そして、ここ数年お気に入りのイモジェン・プーツが出演していたのは嬉しい驚きでした。まだまだ20代の若い俳優なのですが、ただ与えられた役を演じているのではなく、「この子は本当にこういう性格でこういう感性の持ち主なんだろうな」と錯覚してしまうほど、その役の台本には細かく描かれていないであろう性格をしっかりと浮き上がらせる事のできる、類まれな俳優さんだと思っています。この映画の中では、「プロの音楽家を両親に持ち、自身もバイオリンの勉強をする学生で、子供の頃はツアーで忙しい両親に会えず寂しい思いをしていた」という役どころ。それが、例えば、彼女の笑い方、笑い声のトーン、そしてその状況をどうして面白いと思っているか、その笑いの裏にある彼女と登場人物との立ち位置…一つの笑いで、ここまで表現しているんです。


実は、私が彼女の演技に打たれたのは『A Long Way Down』というイギリスの映画だったのですが、この映画でも彼女の演技力の高さが光っていました。共演のベテラン俳優たちをもしかしたらちょっと食っていたのではないかと思うほど。この『A Long Way Down』は日本では公開されていないようで(2016年9月現在)、またあまり高い評価を得ていないようなのですが、私は大好きです!もう3回くらい見ています。



話をもとに戻します。
この『A Late Quartet』は、一応「コメディー」というカテゴリーになっています。映画を見てみると、あからさまに笑いを取りに行っている内容では決してありません。しかし、日常生活での人間の悲哀やその滑稽さ、心の葛藤や矛盾、感情の多面性など、一筋縄ではいかないところが、ほんの些細な日常のデキゴトの中に散りばめられていて、それがメンバーの体調不良をきっかけに表面化されます。道徳では割り切れない、どうにも出来ない人間の性やエゴたちです。それぞれの事象は、「映画やドラマでしか起こり得ないこと」ではなく、恐らく私達の誰もが多かれ少なかれ経験している、本人たちにとっては大事件…でも他人にとっては意外とよく聞く話…程度のこと。でも、だからこそ人間臭さとか面倒くささとか、同時に人間の可愛らしさが出ていて、登場人物たちが愛おしくなります。


私のお気に入りは、カルテットメンバー4人が抱えているそれぞれの問題が隠しきれなくなったあと、初めて4人そろっての練習の風景。ある者は自分に知らされていない何かがあることに気づき、ある者は衝撃の事実を伝えられ・・・こう書くと、本当に衝撃的でシリアスなシーンのように聞こえるかもしれませんが(当事者にとってはその通り)、赤の他人である私(や観客)は一歩引いてその4人のいざこざや衝突を眺めており、彼らが沸点を超えていく中で思わず発せられる映画の本文(と言うか物語自体)に関係のない本音ややり取りが物凄くリアルで、思わず声を上げて笑ってしまったほど。そこはベテランたちの競演(フィリップ・シーモア・ホフマン、クリストファー・ウォーケン、キャサリーン・キーナー、マーク・イヴァニール)だからこその抜群の間や駆け引き。そして台詞がすばらしい!特にこのシーンのシーモア・ホフマンを見て、「ああ、やっぱり私はこの俳優さん大好き!」と笑顔になりました。



最後の締め方もとっても粋でした。どんなに衝突しても難しさが合っても、お互いの才能はしっかりと認め合い尊敬しあっている関係が表現されていて、また反発しながらも両親の音楽家としての才能に憧れ愛している娘の姿もあり、静かでキザだけど、カッコいいエンディングだなと思いました。






おすすめ度:☆☆☆☆★

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『ジャングル・ブック ~The Jungle Book~』

2016年05月14日 | 映画~さ~


2016年 アメリカ映画


ディズニーの最新作、ジャングル・ブックです。
正直ね、実写版と言ったってディズニー。声優陣が豪華とは言っても子供向けなんだろうなと思っていたんですよ。でも、わたくし間違っていました。


こんなに幅広い年齢層におすすめできる映画って、なかなかないです!



先程も少し触れましたが、この映画を見に行った理由はなんといっても豪華な声優陣。子供向け(だと思っていた)映画に、ビル・マーレイとベン・キングスレー、イドリス・エルバが出てたら無視できません。どんな子供映画になっているんだ?と興味を惹かれるというものです。それでもそれほど高い期待を抱いていたわけではなく、がっかりしても仕方がないかなと思いながら映画館に足を運びました。


大まかな話の内容はと言いますと、ジャングルで狼に育てられた少年が、同じくジャングルで生活するトラのシア・カーンに人間であるという理由で命を狙われることに。ジャングルの平和のためにも、ジャングルから離れ人間たちの住む村を目指すことにします。後見人である黒ヒョウのバギーラとともに村を目指して旅立ちましたが、様々な困難に見舞われます。


リメイクなので、話自体は特に新しいものではありません。アニメ版を見ていないのですが、知り合いによるとエンディングが異なるとのこと。


とにかく、登場人物・動物達がみーーーーーんないい!!!


もうね、映画館で見て正解。主人公モーグリを演じる男の子も、とても演技がうまく絶妙にかわいい!特にCGを駆使した作品なので、彼の撮影の殆どは俳優たちとの演技ではなくほぼ一人で行っていたということを考えると、彼の演技力の高さと完成度の高さは眼を見張るものがあります。彼が生まれたのが2003年(2004年という情報もあり)。もうね、びっくりしますよね。2000年代生まれの人達が、もう仕事しているなんて…。


そして動物たちのキャラクターデザインが美しいのです。私のお気に入りは黒ヒョウのバギーラなのですが、力強く美しい。もちろんCGなのですが、最近のCGってこんなにすごいのか、と普段はあまりCGとか特殊効果的なものは好まないのですが、そんなわたくしでさえ感嘆です。


そして、動物たちと豪華声優陣たちのマッチングが絶妙。お気に入りの黒ヒョウ・バギーラの声を担当したのは、Sirベン・キングスレー。落ち着き、威厳があり、そして聡明。実を言うと、ベン・キングスレーが出ている映画は数えるほどしか見たことがなく(ガンジーも未見)、オモシロイと思った作品に出ったことがなかったのですが(個人の感想です!)、これは私の中では彼の新たな代表作です!


悪役のトラのカーンはイドリス・エルバ。イドリス・エルバの映画は、もしかしたら『パシフィック・リム』しか見たことがないかもしれませんが、イギリスのテレビドラマやCMにも出ていて、コメディーからシリアスなものまで振り幅が広く、渋さもある…わたくし、褒め称えてますね(笑)。でも、本当にカッコいいんです。大好きなんです!


さらに、食いしん坊で怠け者のクマ、バルーの声はビル・マーレイ。このクマのキャラがビル・マーレイのイメージとぴったりで、このクマの声優がビルではなかったら映画の色がちょっと変わってしまうんじゃないかと思うほど。さらに、巨大ヘビがスカーレット・ヨハンソン、そしてオラウータンのボスがクリストファー・ウォーケンです。



よくぞあなた達、このオファーを受けてくれた!と嬉しくなる顔ぶれ+動物のキャラとぴったり!



もう一つ驚いたのは、この映画のトーン。色味もそうなのですが、五月蝿くないんです。もちろん音響は大きい部分もありますが、キャラクターのわざとらしい大げさなリアクションや無駄にキラキラした装飾など煩わしさがないのです。私の勝手なイメージもあるのかもしれませんが、アメリカ映画、特に子供も見られる作品だと、他の国民性にはないアメリカ独自の派手さ、大げささが全面に出ていることが多く、それが逆に邪魔をして楽しめない時があります。しかし、この作品は違います。物語の軸がしっかりしており、過剰だとおもわれる演出はかなり少なく、しっかりと話自体に集中できます。


もう一回映画館で観たいと思うほど良かったです。ブルーレイ出たら真っ先に買うわ。
ほんと、騙されたと思って、大人の方々もぜひ映画館に足を運んでみてください!こんなに純粋に楽しめるエンターテイメント作品はなかなか出会えません。声優陣の声を楽しむことはできませんが、お子様がいらっしゃる方は吹き替え版があればそれでも十分に楽しめます。もうもう、強烈におすすめ!!!



日本での公開は2016年8月11日から。夏休みまっただ中ですね。ぜひ観てみてください!





おすすめ度:☆☆☆☆☆+α (←久々です!)




画像はこちらのサイトから。
http://indianexpress.com/article/entertainment/hollywood/the-jungle-book-trailer-mowgli-is-back-with-his-army-of-wild/



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『サイダーハウス・ルール ~The Cider House Rules~』

2016年01月24日 | 映画~さ~
1999年 アメリカ映画


最近、昔見たことのある映画を見返すことが多くなりました。というのも、当時の印象と今の年齢(30代後半)になって感じるものが大きく異なっていること、そして若いころにはよくわからなかった作品の深さなどをしっかりと味わいたいというのが理由です。

今回の『サイダーハウス・ルール』もその一つ。
恐らく、初めて見たのは2000年代前半、2001年ごろだったのではないかと思います。これを初めてみた時の印象は「自分勝手な金髪女に振り回される可哀想な孤児院出身の男」という非常に単調なものでした。当時大学生か大学を卒業したばかりの年齢の私には、この話の本当に表面しかわからなかったんだと思います。世の中は、すべてが黒白はっきり分かれているものと疑っていなかった若かりし頃の自分と、あの時よりはもう少し世間を学んだ今の自分とのギャップを、いろいろな映画を通して楽しんでいる最中です。




主人公ホーマー(トビー・マグワイヤ)は孤児院で育ち、父親代わりの医師ラーチのもと医学を学ぶ。医師免許を持っているわけではないので、ホーマーが医療行為に携わるのは違法行為。それでも、彼の腕の良さから孤児院ではラーチの右腕として生活をしていた。その孤児院では、違法ながら堕胎も行っており、望まない妊娠をした女性が数多く訪れていた。ある日、若いカップルが中絶のために孤児院を訪れる。それがキャンディーと恋人のウォリー。彼らとの出会いに、常に胸に持ち続けていた外の世界への憧れを刺激されたホーマーは、彼らとともに孤児院を出ることを決意。ウォリーの実家の家業であるサイダー醸造所で働くことになる。


さて、映画の感想ですが、いつものことながら完全に忘れていた部分が多く驚きました。まず、一番驚いたのは、キャンディー(シャーリーズ・セロン)の恋人役が、ポール・ラッドだったということ!以前『40男のバージンロード』の感想の中で触れたアメリカの俳優です。最近はアメリカのコメディー映画では彼が出ていない作品を探すほうが難しいのではないかというほどの売れっ子ですが、1999年の作品でソコソコ重要な役を演じるほどのキャリアがあったとは知りませんでした。ウィキペディアで見てみると、1993年から映画に出演しているとのこと(2016年1月24日現在)。キャリアの花が開くまで、結構下積みがあったんですね。ある意味初々しい彼を見て思い出したのが、1990年の『ステラ』という作品に、主人公の娘の彼氏というチョイ役で出ていたベン・スティラー。今のベン・スティラーからは想像できないほど、初々しくて青臭い感じ。それと同じ感覚を、『サイダーハウス・ルール』のポール・ラッドに感じました。個人的には、彼はコメディーよりももっと「普通の人」の方が安心してみていられるので、こういう役柄のほうがあってると思っています。


また、当時注目され始めていたシャーリーズ・セロンが、当時の私には「ただのきれいな金髪女優」でしかなく、そして恐らく…と言うか確実に映画の中での「男性依存の一人でいられない絶対悪」(当時の感想です)の印象が強かったからこそ、全然好きな女優ではなかったのです(若いって、単純…私)。これ、逆に言えば、そのくらい彼女の演技力が高かったということですよね。彼女自身と映画の中での役柄をリンクして見てしまったほどですから。そして、今の彼女の快進撃と言ったら!その後『モンスター』でアカデミー主演女優賞を受賞し、いまも新境地を開拓し続けていることを本当に嬉しく思います。あんなに好きではなかったのに、今では好きな女優の一人である彼女が出ていた作品だからこそ、もう一度見てみようと思ったのです。


主演のトビー・マグワイヤは、こういうちょっと世間ずれしている役が抜群にうまいと思います。ちょっと浮世離れしているというか。足元が地上から1.5センチ位浮いていそうなイメージを、いつも勝手に持っています。


この映画の背景は第2次世界大戦のさなか。つまり、1940年代。サイダー醸造所で働いている季節労働者たちは黒人。彼らが寝泊まりするのは母屋の離れなのですが、ここにホーマーが紹介され、彼らと共に働くことになったことを、季節労働者たちは「歴史的な出来事だ」と驚きます。舞台はアメリカ東海岸北部。南部とは異なり、黒人に対する差別意識は低い土地柄ではありますが、それでもどうしても職業によって人種が分かれているような状況下で、白人のホーマーが彼らと一緒に生活をし、同じ労働をするというのは、労働者の彼らにとっては衝撃だったのだと思います。逆に、そのことが大きな意味を持つものという認識をしていなかったホーマーやウォリー、キャンディーや彼らの家族たちは、本当に差別意識が殆ど無かったのではと思います。


やがて軍人であるウォリーに出兵命令が下り、彼がいない間一人の孤独に耐えられないキャンディーはホーマーと親密に。また、季節労働者たちも様々な問題や、暗い現実を抱えており、ホーマーは孤児院の外の「本当の世界」をここでの生活を通して学んでいきます。


15年以上前に見た時には、キャンディーは完全に「悪」だったのですが、今回見なおしてみて、正義でないにせよ悪とは言えないよなぁ…と、自分の見方、感覚、意見が年令によって変わっていくことの面白さを感じました。また、ラーチの死をきっかけに、孤児院へ戻る決断をするホーマー。外の世界を見て帰ってきた彼にも精神的変化がもたらされます。世の中の法律に照らし合わせればそれは完全に違法ですが、ラーチの医師を引き継ぎ、医師として孤児院で生活することを選んだホーマー。もしかしたら、私がこの15年と少しの間に学んだ「世の中とは完璧ではないことで溢れている」ということを、彼は孤児院から離れた1年の間に学んだのかもしれません。彼は孤児院で生活する子どもたち、看護婦たちに暖かく迎えられます。彼には帰る場所があったということ。そしてそれは、そこで生活する子どもたちにも一つの「希望」になったのではないかと思います。


最後になりましたが、ラーチ役のマイケル・ケインは、あの役柄が自然すぎて彼がそこにいて当然としか思えないほどで、他の俳優陣とは「肩の力の抜け具合」が完全に異次元レベルでした。これがキャリアがなせる技なのでしょうか。この役で、彼はアカデミー賞助演男優賞を受賞も、もちろん納得です。


何を正解とするのではなく、世の中や人生の、白と黒の間のグレーの濃淡を描いている素晴らしい作品でした。


この作品を楽しむには、ある程度の年齢と人生の経験が必要かもしれませんが(少なくとも私にはそうでした。苦笑)、静かで丁寧に作られた作品が好きな方はぜひ!



おすすめ度:☆☆☆☆★





画像はこちらより:http://www.imdb.com/media/rm512537088/tt0124315

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『Amy』

2016年01月09日 | 映画~あ~
2015年 イギリス映画


2011年に27歳で亡くなった、歌手エイミー・ワインハウスのドキュメンタリーです。

とても評判がよい映画で、いつか絶対に観たいと思っていた作品です。昨日、BAFTA(イギリスアカデミー賞)で2部門にノミネートされたとの発表があったばかりで、同日にテレビでも放送されていたので観てみました。

本当によく出来たドキュメンタリーでした。まず一番驚いたのが、彼女が歌手として成功する前の映像が多数残っていたこと。友人たちと撮ったプライベートの映像で、エイミーはどちらかと言うとシャイな、本当にどこにでもいる「普通の」女の子なのです。ただ普通でないのは、彼女の歌声。16歳、17歳の時に撮られたその映像の中で友人のためにバースデーソングを歌っているのですが、見た目の若さと彼女から発せられる歌声のギャップに一瞬頭が混乱するほど。完全に成熟し、深みを増した歌声なのです。

18歳でレコード契約を結び、本格的に歌手としてのキャリアがスタートします。この時期に撮られたインタビューでは、当然といえば当然ですが、本当にしっかりと自分の意見を話し、音楽へのこれ以上ないほどの純粋な愛が溢れ出ています。私が彼女を目にし始めた2005、2006年あたりにはほぼ完全にいわゆる彼女へのイメージ…大きな髪型、痩せた体、ドラッグ、アルコールの問題にまみれ、ボロボロの格好でロンドンのカムデン地域を歩いている…が確立していたので、普通に話せる彼女を見たのは、もしかしたらこの映画が初めてだったのかもしれません。


「今溢れている音楽は、私にとっては音楽じゃない。…だから私は自分で本当の音楽を見つけてきて、それを聴いてそこから学んでいるの」(意訳)と10代の彼女が答えていたのが印象的でした。彼女が魅せられた音楽というのがジャズで、「ジャズを聴いている私、カッコいい」というセルフイメージのための言葉ではないことは、彼女の歌声を聞けは誰も疑わないでしょう。ジャズが好きになったのは、父親の趣味も大きく影響していたようです。

さらに、「自分が経験したことしか書けないけど、私は私なりに本当の音楽を生み出すための挑戦をしている」とも。確かに彼女の歌の歌詞は、痛々しいほどにどれもリアルで、彼女を知っている人であれば、どの歌で誰との関係を、その時どんな状態だったかが手に取るようにわかるほど、まるで誰かの日記を読んでいるのではと錯覚するほど、包み隠さずに出しきっていることがわかります。これが、彼女の音楽に対する真剣さ、嘘偽りのない本気の愛で真っ向勝負をしていたことの現れでもあり、「私は歌手でない。ジャズシンガーなの」と他のアイドルやポップ歌手とは一括りにするなという強い意志が感じられます。それと同時に、あまりに純粋で強すぎるからこそ、自分の体を守るための鎧さえ身につけず、裸一貫ですべてを音楽に投げ出していった彼女の強さと弱さは、感動するとともに悲しくもあります。


子供の頃から家庭内に問題を抱えていたというバックグラウンドを持つエイミー。特に父親との関係は複雑です。小さいころに母親を捨てて出て行った父親。ほとんど会うこともなかったのに、成功してからは、常に父親をそばにおき、一緒にツアーにも同行されています。しかしこの映画の中でも、その関係の危うさが随所に露見しており、つい先程(2016年1月9日)、その父親が「この映画に描かれていることは全く持って嘘だ」とツイートしたことがニュースになりました。


また、2006年ごろに後の夫となるブレイクとの出会いを機に、それまで問題を抱えながらもなんとか保っていたバランスが完全に崩されます。また、ずっと仲の良かった幼なじみたちとの間にも溝ができ始めたのもこの頃です。


実はわたくし、彼女のステージを見たことがあります。2008年のイギリス、グラストンベリー・フェスティバルで、その時に、一緒に参加した人たちと冗談交じりに「彼女が亡くなる前に見ておかなきゃね」といいながら、彼女のステージに向かった覚えがあります。2008年時には、すでにアルコール、ドラックの問題が取り沙汰されており、「エイミー=クレイジー」というイメージが定着していました。実際、そのステージでも、常にフラフラとしており、立っているのがやっとという状態。そんな彼女をカバーすべく、バックシンガーたちが本来ならばスターの後ろでひっそりとコーラスをするという役割のはずなのに、それはもう必死になって踊り歌い、ステージをなんとか成立させようといった、完全に「普通ではない」状態でした。

ただ、若いがために、そして彼女のどうしようもない程の歌唱力の高さのために、どんなに彼女自身の状態が悪くとも、それなりに声は出てしまう。それが果たして良いことなのか否か。拒食症、そしてドラッグの使用、常に酩酊状態という問題山積みので私生活の失態を晒しても、テレビや舞台にたてば完全でなくとも歌が歌えてしまうからこそ、彼女を完全に休ませることなく、どんな状態でも仕事を続けさせてしまったのではないかと思いました。


このドキュメンタリーを見ながら思い出したのは、ブリトニー・スピアーズ。彼女が元バックダンサーと結婚し二児の母親になり、更に離婚。あの当時のブリトニーは誰から観ても完全におかしく、最終的には頭を剃り上げるまでに。でもそこまで状況が悪化して、それが誰の目にも明らかだったからこそ、少しの間仕事から離れることができたのではないか。逆に、髪の毛が伸び、一件普通に見える状態にまで戻ると、どんなに精神が病んでいても表舞台に立たされてしまう。使い古された言い方だけど、まさに「操り人形」。ブリトニー・スピアーズは商品であって人間でないという扱われ方。『Gimme More』というシングルをリリースした時は、ショウビズ界の恐ろしさを感じたのを覚えています。しかし、現在のカムバックを見ていると、その業界で生き抜いていく強かさが彼女には培われていたのだなと感心します。



彼女が亡くなる数日前、疎遠になっていた幼なじみに電話があり、この時はここ数年では珍しくドラッグも泥酔もしていない状態で話していたとのこと。そしてその内容は、それまで彼女がしてきた無茶により、友人たちを悲しませてしまったことに対する謝罪だったといいます。そして、新しいアルバムの制作に向けて動き出し、最悪の状態からやっと抜けだしたかのように見えた矢先の突然の死。


これまで、どんなに彼女の曲が好きだったとしても(実際、今も聴いていたりしますが)「ドラッグに大量飲酒にやりたい放題やっての結果なのに、どうして彼女を神格化しようとするのか」という意識が少なからずありました。今も彼女が住んでいたロンドンのカムデンには、数あるストリート・アートのなかに彼女の顔をいくつか見つけることもできます。しかし、このドキュメンタリーを見て、彼女がたまたま抜群に音楽のセンスに恵まれた、生まれ持ってのクレイジーなドラックジャンキーという印象から、「音楽が好きで好きでたまらなかった、一人の若い女性」という見方に変わり、そして痛々しいほどに純粋さを持ち続けた彼女を愛おしく感じます。


一番印象的だったのは、アメリカのグラミー賞で彼女のアルバムが年間ベストアルバムにノミネートされ、その発表がされる直前の様子。彼女は別会場におり、モニターから賞の会場の様子を見ています。その舞台上にプレゼンターであるトニー・ベネットが現れた瞬間の彼女の顔。ずっとずっと憧れてきた歌手が、モニターを通じてはいますが目の前に現れ、その時の彼女の純真無垢な、小さな子供のような表情。作ろうと思って作れる表情ではなく、ただ好きで好きで仕方がない、そのあこがれの人への視線が本当に愛おしく、これこそがタブロイド上を賑わせていた泥酔写真からはわからなかった、本当の彼女の素顔の一面だったんだと胸が熱くなりました。


もちろんエイミーへの愛情はこの上ないのですが、彼女を被害者として涙をさそうのではなく、とても中立な立場で作られている作品だと思います。

日本での公開は、2016年の夏頃になるとのこと。音楽ファンの方は必見です!




おすすめ度:☆☆☆☆☆




画像元:http://www.express.co.uk/entertainment/music/578637/Amy-Winehouse-unseen-footage

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『x+y』

2016年01月02日 | 映画~あ~
2015年 イギリス映画


2016年の映画初めは、『x+y』でした。これ、大満足の作品です。

ネイサンは、幼少期に自閉症の一種であると診断される。そのため人とのコミュニケーションが上手く取れず、特に母親のジュリーは息子との関係に常に悩む。同時に、ネイサンの数学に対する能力はずば抜けており、9歳にして中学校レベルの数学を勉強すべく、数学教師をしているハンフリーの特別講習をうけることになる。後に数学オリンピックのイギリス代表に選ばれたネイサンは、自分以上に数学のできる個性豊かなチームメイトや他国代表の学生たちと出会い、人の感情やかかわり合いを少しずつ学んでいく。


まず、とにかくリアル。登場人物たちのそれぞれの立場、感情、キャラクターが、本当に上手く描かれていて、一人ひとりの人格がしっかりしています。個人的には、母親ジュリーの気持ちに寄り添って映画を観ていました。というのも、同じではありませんが、似たような状況になったことがあり、ネイサンや彼のチームメイトのような「人間とのコミュニケーションが苦手な人達」に囲まれ、苦労した経験があるからです。

以前、IT系企業のエンジニアが集まる部署に数年務めていたことがあるのですが、彼らがまさにネイサンや数学オリンピックの代表達のようなタイプでした。人により程度の差はありますが、目を合わせられない、挨拶ができない、会話の中で適切な言葉選びができないから相手を怒らせたり傷つけたりするということが多々ありました。最近よく聞く「アスペルガー症候群」も軽度自閉症の一つです。数字のように、正解不正解がはっきりしているものに関してはいいのですが、そうでないもの、例えば人の気持ちを考えること、表現をオブラートに包むこと、TPOに合わせた話題を選ぶことが上手くできなかったりします。


それでも、職場は変えればなんとかなります。結局は他人ですから。でも親子の関係は選べない。更に、パイプ役であった父親が亡くなってしまったことで、母親はどうにか歩み寄ろうと努力するも諸刃の剣。よくわからない数学の方程式でうめつくされたノートを目にして、「これは何?私にも教えて」と小学生の息子に聞いてみても、「お母さんは賢くないからわからないよ」と相手にさえしてもらえない。学校への見送り時のハグも拒否され、数学オリンピック合宿の為台湾に旅だった息子からは、無事に到着したという電話の一本さえない。母親を馬鹿にしている、というよりはどうして無事を伝える電話をしなくてはいけないのか、どうして握手やハグをしなくてはいけないのかが純粋にわからないわけです。

台湾合宿では、同じくイギリス代表候補に選ばれた仲間や、中国代表たちとの交流から、これまで出会ったことのない人々と接する機会に恵まれます。ネイサンのように相手を気遣った言葉選びができないがために友人ができず、孤独に苛まれてしまうチームメイト。自分の賢さから天狗になってしまうもの。他のメンバーの自己顕示欲の強さに煩わしさを感じる者。また初めて自分を異性として見てくれた人。数学に長けているという一つの共通点で集まったメンバーにも、本当に様々な違いがあり、ここでもコミュニケーションや人間関係構築の難しさが浮き彫りに。そういう、現実社会で本当に問題になっている、でもあまり表面には出てきにくい微妙な葛藤を、繊細に、そして的確に描いています。

特に印象に残っているのは、ネイサンのチームメイトのルークの自傷行為が発覚するシーン。「ただ数学が人よりできるから数学をやっているだけ。別に好きでもなんでもない。でも数学で人より優れていなければ、ただの変わり者になってしまう」…代表から外れてしまったあとの彼の言葉には、はっとさせられます。人に対して無神経な口の聞き方をすることから彼らには感情がないように思えてしまうのですが、他人と人間関係を築けないことのストレスからうつ病になる人も多くいるのも事実です。それがこのシーンに集約されていて、胸がつまりました。


とにかく、どの俳優さんもとにかく素晴らしくて、正直一人ひとりに賛辞を送りたいところなのですが、出来るだけかいつまんで行きます。

ネイサンの母親ジュリーを演じたのは、大好きなサリー・ホーキンス。もうもう、わたくし彼女が大好きで、彼女が出ているとその映画への安心感が増すほど。この映画でも抜群のうまさで、言葉としてセリフには起こされていない母親の孤独感や誰かに頼りたいという心の叫びが彼女の演技からにじみ出てきます。

ハンフリー先生役のレイフ・スポールは、どうやらこれまでに幾つもの映画で彼を観ていたようなのですが、私がはっきりと覚えているのは『I Give It a Year』という作品のみ…。これ、イギリスのコメディー映画なのですが、B級寄りの作品(にしてはキャストは豪華)で、これを見ただけではこんなにうまい俳優だったのかとは気づきませんでした。レイフさん、素晴らしかったです。もちろんスクリーンライターによるセリフがそもそも素晴らしいのでしょうが、このハンフリー先生の人格が、彼の演技によってしっかりと輪郭が現れています。この人がその辺の学校に務めていても驚かないくらい、とてもリアル。

もう何度も言っていますが、イギリス映画の良さって、人物像のリアルさだと思うのです。この映画も例外ではなく、この加減が絶妙です。


そして、ここ1、2年感心しつづけていること。それはイギリスの若手俳優たちの台頭と演技力の高さ。本当にどんどんと新しい才能が出てきています。この映画もメインは10代(役柄)の学生たちなのですが、見事にみんながうまい。主演のエイサ・バターフィールドはもちろんですが、個人的イチオシは、彼のチームメイト役だったアレックス・ローサー(Alex Lawther)。最近では、カンバーバッチ主演の『イミテーション・ゲーム』にも出演しているようですが(未見)、実は今年の夏に彼の舞台を見たのです。と言っても、彼の存在を知っていたわけではなく、たまたま誘われて観に行った舞台が彼主演の『Crushed Shells and Mud』という作品で、これがもう、興奮して眠れなくなるほど素晴らしかったのです。こちらも10代の3人の若者が主役の作品なのですが、この3人の演技力と言ったら。後に出演者を調べてみたところ、皆テレビドラマや映画の経験が長く、きちんとキャリアを積んできている俳優さんたちだったのですが、まだ二十歳前後の彼らの演技力の高さ言ったら!イギリスは本当に音楽と演技の才能に溢れてた国だと身を持って実感しています。


映画の感想に戻りますと、気になったのが中国代表でネイサンに好意を抱くチャン・メイ(多分こういう読み方。英語ではZhang Mei)。彼女は映画の中では、自閉症的な疾患はない人物として描かれていると思いますが、彼女のあまりに突飛な行動にイライラ。大事な数学オリンピック本番前日に、好意のある人のベッドに潜り込むって一体どんな神経をしているのか!翌日中国チームの監督であり伯父(もしくは叔父)にそれが発覚し、当然ながら怒られるのですが、彼女の理屈では「どんなに頑張っても、自分が選ばれたのは伯父がいるからこそのコネだと言われ、女だからと対等に見てもらえない」と数学オリンピックをボイコットして飛び出します。


全然理屈になっていない。


他の出場者のベッドに潜り込むのことは全く持って別のこと。性差別を訴えるのなら、そこで女を使うな、と。映画としては、彼女のこの猪突猛進な愛情表現?のおかげで、ネイサンは人を愛するという感情や悲しみといった感情を徐々に理解し始めることになるので、お母さんとしては結果オーライなのでしょうが、この役柄が中国人でなく他のヨーロッパ人という設定だったら、話の設定としてこういう行動を取らせていたか?という疑問を正直持ちました。そこに、作り手の特定の人種や国に対するステレオタイプなイメージがあったのではないか、という印象を受けました。

また、この当たりからエンディングにかけて一気に話が動き始めるのですが、それまでがいいペースで来ていたのに一気に飛ばし過ぎな印象も。映画としてこのエンディングに持って行きたいという気持ちはわかるし正解なんでしょうが、それまでと全く異なるスピードに切り替わってしまったことで、このエンディングの良さを受け入れたいという気持ちを強く持ちつつも、ちょっと白けてしまったのも事実です。


ちょっと残念だと思ってしまう部分はあるものの、とても丁寧に繊細に作られた素晴らしい作品です。


最後に、イギリスチームの監督役にエディー・マーサンが出ているのですが、彼はどこでもしっかりと良いスパイスを加えて、作品をしめてくれます。今回の役柄も、チームの10代の子供同様に、典型的「数学はできるけど言葉のチョイスがいつも間違っている」タイプで、チョイ役ですが絶妙です。



どうやら日本での公開は未定なようで、日本版のタイトルは今のところ見つけられませんでした。
それでも機会があればぜひ!



おすすめ度:☆☆☆☆★



画像はこちらのサイトより:http://macbirmingham.co.uk/event/x-y/

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2015年ベスト。

2016年01月01日 | 年間ベスト
皆様、明けましておめでとうございます。

イギリスもどんよりとした曇天のもと、新年を迎えました。本年も、よろしくお願い致します。



さて、2015年のわたくし個人の映画ベストランキングです。
2015年のランキングと言っても、2015年に公開された映画ではなく、私個人が見た映画なので、公開、製作年はバラバラです。それ以前に、去年は2回しかこのブログを更新していないというのに、ベストの発表。2014年に引き続き、この適当さ。すみません、てきとうで。お時間のある方だけお付き合いください。


それでは、まずは昨年見た作品一覧から。

- This is Where I Leave You (2014 アメリカ)
- ホットロード (2014 日本)
- 六月燈の三姉妹 (2013 日本)
- Love is Strange (2014 アメリカ、フランス)
- 柘榴坂の仇討 (2014 日本)
- ゴーン・ガール (2014 アメリカ)
- バックコーラスの歌姫たち (20 Feet from Stardom, 2013 アメリカ)
- ラビット・ホール (Rabbit Hole,2010 アメリカ)
- A Long Way Down (2014 イギリス)
- 奇跡の2000マイル (Tracks,2013 オーストラリア)
- Girl Most Likely (2012 アメリカ)
- Day of the Flowers (2012 イギリス)
- プリンセスと魔法のキス (The Princess and the Frog,2009 アメリカ)
- はじまりのうた (Begin Again,2014 アメリカ)
- Fat, Sick and Nearly Dead (2010 アメリカ)
- Fat, Sick and Nearly Dead (2014 アメリカ)
- 私が愛した大統領 (Hyde Park on Hudson, 2012 イギリス)
- シェフ 三ツ星フードトラック始めました (Chef,2014 アメリカ)
- アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生 (Advanced Style, 2014 アメリカ)
- ファーゴ (Fargo,1996 アメリカ)
- セッション (Whiplash, 2014 アメリカ)
- マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章 (The Second Best Exotic Marigold Hotel,2015 イギリス)
- It Follows (2015 アメリカ)
- ジヌよさらば〜かむろば村へ〜 (2015 日本)
- Re:LIFE~リライフ〜 (The Rewrite,2015 アメリカ)
- ディオールと私 (Dior and I, 2015 フランス)
- 紙の月 (2015 日本)
- マッドマックス 怒りのデス・ロード (Mad Max: Fury Road, 2015 オーストラリア)
- おみおくりの作法 (Still Life,2013 イギリス、イタリア)
- 007 スペクター (Spectre,2015 イギリス)
- 用心棒 (1961 日本)
- オレンジと太陽 (2011 イギリス)
- Papadopoulos & Sons (2012 イギリス)
- 新宿スワン (2015 日本)
- A Very Murray Christmas (2015 アメリカ)
- アリスのままで (Still Alice,2014 アメリカ)
- インサイド・ヘッド (Inside Out,2015 アメリカ)
- The Inbetweeners 2 (2014 イギリス)




数えてみると、2014年よりは少し増えて新しく見た映画は38本。気に入った映画は何度も見るのですが、それは数えていません。映画館には数回足を運んだのですが、予告編を観ていても心惹かれる作品が、個人的には今年もとても少なかったです。


それでは、2015年わたくしベストです。


1位 ディオールと私

これ、ドキュメンタリーです。ディオールのオートクチュールのデザイナーに抜擢されたのは、ベルギー人デザイナーのラフ・シモンズ。メンズコレクションのイメージが強い彼に、華やかなディオールのドレスを作り上げられるのか?伝統あるブランド、引き継がねばならないデザイン性、高い注目度、世界最高の腕を持つお針子達、内気な彼の性格…デザイナー就任からパリコレクションの本番はたったの8週間。ディオールのチームへの初めましての挨拶から映画は始まります。大きな名前を背負うことへのプレッシャー、人間関係、迫り来る納期・・・わざと大げさに、ドラマチックに仕上げるわけではなく、きちんと距離をとって淡々とその風景を映し出していて、非常に優れたドキュメンタリーでした。だからこそ、彼らの心の揺れや緊張がダイレクトに伝わってきます。そして、ディオールが作り上げてきたデザインの(ラフ・シモンズのデザインも含む)、時代に媚びない強さ、美ししさ、繊細さと言ったら!きっと今後、何度も見返す作品です。


2位 マッドマックス 怒りのデス・ロード

うちの旦那は公開を心待ちにしていて、一人で映画館に行きました。そう、わたくし、全く興味がなかったのです。むしろちょっと毛嫌いしていたといったほうが妥当。だって、もともとはメル・ギブソンの出世作。わたくし、メル・ギブソンがとても好きではないのです。その彼のイメージがものすごくこびりついている、繊細さなんてかけらも感じられなさそうな、ただ暴れまわっているだけの映画。そう思っていたんです。それが、旦那は絶賛し値引きになる前にブルーレイを購入。信頼しているサイトや新聞でも、この映画を絶賛。どうしたら、砂漠をただ爆走しているだけのトラック映画をこうも絶賛できるというの?という、逆の意味での興味が湧いてきて、ブルーレイを鑑賞したところ、ものの見事にハマりました(苦笑)。最初から最後まで止めどなく続く、心地悪いゾワゾワ感。これ、褒めてます!ただ残虐なシーンを盛り込んでいるとかではなく、なんというか神経に直接効いてくるような居心地の悪さ。それなのに目を離せないというある種の美しさが映画全編。これほど良さを説明するのが難しい映画って、もしかしたら出会ったことがないかもしれません。上手くいえませんが、もしかしたら「中毒」と言い換えられるかもしれません。英語で言う「Addict」です。俳優たちも素晴らしく、ニコラス・ホルトの配役に一番驚かされました。『アバウト・ア・ボーイ』に出ていた冴えない小学生が、あんな肉体派な役をこなせるようになるとは!あの、よくわからない、説明の付かない美しさを堪能するためにも、きっともう一度観ます。


3位 インサイド・ヘッド

これも、自分では予想しなかったランクインです。観ようとも思っていなかった作品の一つ。ほんの数日前に鑑賞したのですが、こんなに奥深い作品だったとは。わたくし、どこかで「どうせ子供向けなんでしょ」と高をくくっていたのですが、反省です。もちろん子供も楽しめますが、大人だからこそ心に沁みます。とにかく、話の内容がとても巧妙。人間の感情に関した話なのですが、はっとさせられます。当たり前といえば当たり前の内容かもしれませんが、あらためて映画を通してみてみると、まさに目からうろこです。


4位 用心棒

三船敏郎主演の黒澤映画です。ここ数年、何作か黒澤映画を観ているのですが、三船さんの存在感って本当にすごいです。…と私が言葉にすると安っぽく聞こえますが、何と言いますか、誰も彼にはなれないんです。もちろん共演者も皆トップレベルの素晴らしい役者さんたちばかりなのですが、三船さん演じる役柄が別の俳優だったら、映画自体が全く別のものになってしまう。私個人的には、実は一般的に古い映画って苦手なのです。正直これを認めてしまうのは、映画が好きと公言しておきながら恥ずかしいのですが。その年代によって台詞の言い回しや発声方法、良しとされる演技って異なると思うのです。どちらが良い悪いではなく、ただそういう年代が全面的に出ている感じが気になりすぎて、話に入っていけないことが多々あります。それが、三船さんのセリフ回し、声のトーン、演技、しぐさ、どれをとってもその時代に支配されていないのです。すべてが時空を超えているというか。40年前でも21世紀でも、そんなの関係なく、ずば抜けて雰囲気があってかっこいいのです。それが顕著に出ている作品ではないかと思います。


5位 おみおくりの作法

『フル・モンティ』の監督の作品ですが、ウィキペディアを見るまでこの監督がイタリア人だとは知りませんでした。『フル・モンティ』も『おみおくりの作法』も、イギリスらしさがとてもうまく出ている作品だからです。この映画、静かに話が進んでいきます。このまま終わってしまったら、観ている方が耐えられない…というところに素晴らしいエンディング。悲しく辛い状況には、とことん救いようがなく、それでも無駄に涙を誘うような作り方をしないところがイギリス映画の良い所だと思っているのですが、この映画も例外ではありません。




2015年のがっかり映画もついでに行っときましょう。


- ファーゴ

知ってはいたけど、やっぱり良さがわからなかった。カルト映画ランクには必ず名前が上がるこの映画、これまでも何度かチャレンジしたのですがなかなか最後まで見ることができず。やっとの思いで見たのですが、やっぱりわからない。2015年に新しいテレビシリーズとしても放送されていたのですが、そちらも全然面白さがわからず。去年の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』に続き、やっぱりコーエン兄弟の作品の良さがわからないままです。


- バックコーラスの歌姫たち

世界の有名歌手のバックコーラスを務めている女性たちのドキュメンタリー。すぐそこに自分が目指す立ち位置があるのに、そこには行けないもどかしさ、悔しさを語ることに終止していて、バックコーラスだからこその面白さとか、ポジティブな面にはあまり触れられていなかったのが残念。歌で生計を立てるものとして、ステージの中心に立ってスポットライトを浴びることを目指すのは当然の事で、もどかしさ、悔しさに終止するというのが本当の現実の姿なのかもしれませんが、なんだかそれでは本当にそのままで、それを映画にする意味はあるのか、と思ってしまった作品。


- 紙の月

個人的には、日本映画が全然元気がなかった時の日本映画の典型のような作品に思えました。原作の本をなぞっているだけで薄い。そして余計なところに手を加えて、尻切れトンボな印象。キャストは良かったのに。


- マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章 

わかっていたけど、やっぱり期待せずにはいられず、そして案の定のがっかり。1作目が素晴らしすぎて、2作目でがっかりしたくなくて、映画館にも足を運べなかったのですが、好きだからこそ2作目も見届けねばとの思いで見てやっぱりの結果。シリーズ物ってやっぱり難しいですね。


- The Inbetweeners 2

こちらも『マリーゴールド・ホテル…』と同じく、シリーズ2作目。『The Inbetweeners』はイギリスのドラマシリーズで、イギリス人なら知らない人はいないヒット作。映画1作目は本当に面白くて大成功だったのですが、2作目は…。こちらもわかってはいたけど、観ない訳にはいかないという勝手な理由で見たのですが、勝手にがっかり。ある意味予想通りだったのですが、好きなシリーズだからこそ、良い作品であって欲しかったという期待により、裏切られ感が増幅してしまった結果です。



2016年、皆様の映画ライフが充実した1年となりますように!

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『007 スペクター ~Spectre~』

2015年12月06日 | 映画~さ~
2015年 イギリス・アメリカ


日本でもこの週末から公開が始まった、007の最新作です。
あてくし、「スペクトル」だと思い込んでいたのですが、「スペクター」が正解なんですかね?ヤフーやグーグルで見てみたら、「スペクター」表記が多いようなので、それに倣ってみようとおもいます。

私がこの映画を見たのは1ヶ月ほど前なのですが、本国イギリスでも「ダニエル・クレイグの007史上、最高の出来」と大絶賛されての公開でした。もちろん映画館も大入りで、現在も絶賛公開中。


でも、「ダニエル・クレイグの007史上、最高の出来」かどうかと言われると、正直なところ意義ありと言いたい!


早速、感想に移らせていただきますが、わたくし個人的には断じて最高ではなかったです。もう、断然に前作『スカイフォール』の圧勝。

映画として観ている間は楽しめるんです。でも、スカイフォールが素晴らしかったのでどうしても比べてしまう。ダニエル・クレイグ以外のボンド映画は数本しか見たことがないので(ショーン・コネリーのもの)、いわゆる「007の形式美」(美女との絡みとかサービスシーン満載的な)をあてくしがどこまで理解しているかは正直なところ甚だ疑問なのですが、多分今回はいわゆる007映画の王道がいつもに増してふんだんにつめ込まれているんだと思います。もっとはっきり言うと、安っぽいシャレやわかりやすいサービスシーン(本編に全く関係のない美女たち)がとにかく多い。前回のスカイフォールでは、その配分が抑え気味で調度良かったんですよ(あくまで私個人の感想です)。それが、今回は胸焼け。

ただ、一般的なイギリス人にとっては、こういうわかりやすいお色気やシャレがあってこその007。決してただかっこいいだけのスパイ映画ではなく、しょうもないバカバカしさとか、世界中の美女をはべらすというわかりやすい「全世界の男の夢」を具現化することこそが007という映画の位置づけなので、胸焼けにはならないとのこと。ただ、ダニエル・クレイグの007の中で最高傑作かと言われると、同じく意義を唱えるひとも多く…いや、多いというか、私の周りで見た人たちは全員口をそろえて「前作のほうがいい」といいます。


そして、もう一つイマイチだった要因は主題歌!
今回はサム・スミスが主題歌を担当しているのですが、何度聞いても耳に残らない…。すいません、また前作と比べてしまいますが、アデルが歌ったスカイフォールのテーマ曲は、もう本当に、皆が口ずさんでいたくらい浸透していたんですよ。例えばスーパーの有線でこの曲がかかろうものなら、買い物客が自然と口ずさんじゃうくらいに。しかし、今回のテーマ曲はそこまでの市民権は得られていないのが現状。というのもね、難しすぎるんだと思うのですよ。スカイフォールが一度聴いたらサビの部分くらいはすぐに認識できるほど覚えやすかったのですが、今回のはもう何度聴いても覚えられない。良くも悪くも、引っかからないんです。更にぶっちゃけると、作曲したサム・スミス本人も「ちょっと音域を高くしすぎて、歌うのがしんどい」と認めているほど。本人もわかってるのなら仕方ないわよ…、と全く持って一般人な私も思うわけです。


それにしても今回の007は、いわゆる「お色気要員」の存在が個人的には目立っていたように思うのですが(モニカ・ベルッチ含む)、これが20年前なら多分そんな感想は持たなかったんだろうな、と自分のことながら思ったりもしました。時代の流れというのでしょうか。フェミニズムの台頭を感じた次第であるわけですよ。こんな適当な映画ブログでフェミニズムを語るのもどうかと思いますが(苦笑)、例えば20年前なら、ただのお色気要員、ボンドとのベッドシーンのためだけの「ボンドガール」を、なんとなくすっきりしない気持ちを持ちながらも「まあ、そういうもの」と流せたと思うのですが、2015年ともなるとそう簡単にも流せない風潮が強くなって来ているような気がします。これこそ個人的感想ですが、ダニエル・クレイグの007はそれ以前のものと比べると、こういうサービス要素って結構少なめだったと思うんです。でも、今回はサービス増量(もしくは以前の通常レベル)だったために胸焼け…というか、観ていてあまり気持は良くなかったというか。それも、私が前作ほど楽しめなかった原因の一つです。


関係ありませんが、「ボンドガール」ってボンド映画に出ている女性キャスト全員を指す言葉だってご存知でしたか?あたくし、「ボンドガール」=「映画の核心の握るメインの女性」だと思っていたのですが、違ったのです!女性キャスト全員というくくりなので、M(エム)を演じていたジュディ・デンチも、ただのお色気要員も全員がボンドガールのくくりなんですって!公開に先駆けてボンド映画特集がテレビで組まれていたのですが、ジュディ・デンチが言っておりました。

「『ボンドガールである』というのは、年齢に関係なくすべての男性を惹きつけるのよ。10歳の男の子でさえ、『007に出ている』というと、態度が変わるの!」と。

今回出演していたモニカ・ベルッチでさえ、ほぼ本編に関係のないチョイ役だったにも関わらず、ものすごく喜んでいましたし、話題にもなっていましたしね。「ボンドガール」力、恐るべしです。そういえば藤原紀香が以前から「夢はボンドガールになること」と言っていたような…本当にどうでもいいですけど。



ということで、12月4日から日本で公開の『007 スペクター』。
最高傑作では決してないと思っていますが(しつこい)、映画としてはもちろん楽しめます。特にダニエルのボンドを観ているひとはぜひ。



おすすめ度:☆☆☆ 


*画像はRotten Tomatoより

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『ゴーン・ガール ~Gone Girl~』

2015年04月25日 | 映画~か~
2014年 アメリカ映画


毎度の事ならが、というか以前に増して更新スピードが遅くなっているこのブログ。あまりに更新しないからなのか、知らないうちにブログのテンプレートが変わってました。

さて、『ゴーン・ガール』です。
一言で言うと、「なんじゃこりゃーっ!?」でした。良くも悪くも、予想を裏切られました。


一番の驚きは、物語が想像の斜め上を行っていたこと。話の内容はいつものことながらできるだけ耳に入れないようにしていたので、どんな物語かは知りませんでしたが、「どうせありふれた家族愛(夫婦愛)を描いたアメリカお得意のお涙頂戴ものでしょ?」と思っていたのです。予想を裏切られてよかったかどうか…ありがちなベタベタの夫婦愛の物語でなかったのは確かに良かったです。そうでなければ最後までこの映画を見れたかどうかわかりません。ただ、この物語がワタシ好みだったかどうかはまた別の話でして。ショッキングだし、見るものを惹きつけるのは確かなのですが、気持ちのよい話でもなく…。いや、まぁ、観てよかったんですけどね。


どうして観てよかったかというと、一番の理由は主演のロザムンド・パイク。私が住んでいるイギリスでは、この映画結構な注目度でした。彼女がイギリス人であることも理由の一つかもしれません。イギリス映画では結構よく出ていて、しかしいつも優等生的な役柄だったのです。だからこそ、この映画での彼女の役柄、そしてこれまでとのギャップ、はっちゃけぶりは本当に驚きました。私の中で特に印象が強かったのが、好きな映画の一つである『Made in Dagenham(本題:メイド・イン・ダグナム)』で、自動車会社フォードの重役の妻で、オックスフォード大学出身の才女なのに男女平等ではない時代背景から専業主婦をしているという役柄でした。しかもロザムンド・パイク自身も本当にオックスフォードの英文科出身で、映画の中で「私は世界最高峰と言われる大学で、世界の成功者たちの話をいつも読んでいたの(意訳)」という台詞もあり、もう完全に「インテリ」「上流階級」的なイメージが私の中で出来上がってしまったのです。その彼女が、完全にキレまくっている女性(中身が)を演じていて、それが本当に見事で。彼女の演じることのできる役柄の幅広さと演技力の高さを楽しめただけでも、この映画を観た甲斐があったというものです!



そしてもう一つ、観てよかった理由があります。それは、ベン・アフレックの役柄が彼にぴったりだったこと!


個人的には、気になるには気になるのだけど、映画館に行くほどは興味をそそられない…という映画でした。恐らく、というか8割型、どうして興味をそそられなかったのか、というか特に観たいとも思わなかった理由には気づいているのです。それが彼、ベン・アフレックだったのです。


わかってます。彼が才能あふれる業界人であるということは。わかっていますとも。あえて業界人と書いたのは、彼が監督業、脚本家としてものすごく成功しているから。でも俳優としては正直うまいと思ったことがなく、個人的には彼の役柄はいつも彼自身というか彼の通常時のイメージよりも「格好良すぎる」と思っていたのです。やたらできる男だったり、ヒーローだったり、2枚目役だったり…。そこでものすごく演技力が高ければそのギャップも埋められるでしょうし、逆に言えばそのギャップによりより格好良く見えるという相乗効果だって期待できたのでしょうが、私にはそうは映らず(あくまで私個人の感想です!)。彼の俳優としての最高傑作は、いまだに『グッド・ウィル・ハンティング』だと思っています。普通の若者。それ以上でも以下でもない普通の人具合が良かった。

説明が長くなりましたが、この『ゴーンガール』でのニックという役柄は、彼にピッタリ!!!
もうね、全然完璧じゃないんですよ、このニックという男が。若い学生と浮気していたり、失踪した妻を探すためにテレビでアピールするも写真撮影で笑顔を見せてしまったり。ドラッグ容疑で逮捕された後、報道陣の前で思わず癖でアイドルスマイルを見せてしまったのりピーを思い出してしまったほど。なんというかものすごく人間的で不完全で。その洗練されてなさがある意味すごくリアルで、ベンにぴったりだったのです!彼は絶対にダメ男役が合うと思っていたのですが、やっと彼の本領が発揮されたと思っています(褒めてます!)。


ここ10年位でよく思うのが、アメリカ映画のトレンドというか視点が変わってきたなということ。以前は、「アメリカ最高!家族愛、友情は(上辺だけでも)美しい!」と言うのが根底にあって、何がどうしたって私達が正解!という話が多かったと思うのです。それが、アメリカ社会の中の矛盾とか、口には出せないけど心の何処かで感じている上辺だけの美しさや正義への違和感とかを物語の軸にしている作品が多いように感じます。『ゴーンガール』でも、本当に意図してそうしているのか、勝手に私がそう受け取っているのかはわかりませんが、そういうシーンが見受けられたり。例えば行方不明になった娘を探すためにテレビで協力を訴えている両親の姿やその中の彼らの態度だったり言動だったり。これからのアメリカ映画の方向性にはものすごく興味があります。



それでも、映画館で高いお金を払わなくてよかったとの気持ちは変わらず。DVDで十分です。そして、スッキリ、気分爽快映画ではありませんが、ロザムンド・パイクの突き抜けぶりは見る価値があると思います。(ベンのだめ男ぶりも!)




おすすめ度:☆☆☆★


画像はこちらより。
http://www.indiewire.com/article/nyff-made-david-fincher-want-to-puke-and-9-more-things-we-learned-at-gone-girl-event-20141010

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